4 / 10
4
しおりを挟む
伯爵は姉妹の婚約の入れ替えを大した事だととらえていなかったが、まったく聞かされていなかった親戚一同はびっくりした。
どういうことかと伯爵家に問い合わせが相次いだが、伯爵は家内の事情ということで押し通した。
伯爵家は王国貴族の中ではパッとしないが、長く続く家なので親戚の数も多い。
歴代の伯爵は温和な人物が多く、親戚一同との仲もうまくやっていたのだが、今の伯爵に変わってからどうもおかしい。
今回の事も、本来なら各家の家長に根回しした上でお披露目されるほど大事なことのはずなのだが、お前たちには関係ないという態度を崩さない伯爵に対して、不信感は募るばかりだった。
それでも現役の伯爵である父が健在のうちは、なかなか文句もいいづらいようで、姉妹の妹が家を継ぐ事情はひそひそと噂されることになった。
それは世間も同じ事で、社交の場ではロザリーは格好の的になった。
学院でもそれは変わらなかったが、友達がいる分、学院の居心地の方が格段によかった。
家に帰らないために、学院に遅くまで残るようになり、上の下ぐらいだったロザリーの成績はトップクラスへと飛躍した。それに伴い、友達の顔ぶれも少し変わり。
ロザリーは隣国の留学生達と交友をもった。
「女性が家に籠るなんて、社会の損失だ。僕の国では、女性の社会進出が進んでいて、女性官吏も数多く活躍している。君が専攻している農作物の改良も専門の研究所があるんだ。結婚後はもちろん、子どもが生まれた後も活躍している女性は多いんだよ」
友人となった留学生たちの話を聞いて、ロザリーは心を決めた。
「留学して、そのまま向こうで就職するわ」
晴れやかな顔で宣言するロザリー。
友人たちは心から祝福した。
この国と違い、隣国は女性の社会進出が進んでいる。
留学生の友人たちの言葉をきっかけに、教授たちにも相談して、ロザリーは新しい道を選んだ。
「寂しくなるわね」
友人の門出を祝う気持ちは嘘ではないが、仲のいい友達が隣国に行って会えなくなるのは寂しい。
「そんなに遠くないし、遊びにきて。きっと伯母も歓迎してくださるわ」
「ええ。きっと行くわ。それに手紙も書く。返事をくれる?」
「もちろんよ!」
「研究にかまけて、忘れては嫌よ」
寝食を忘れるようにして勉学に打ち込んでいた学生時代を知る友人のストレートな皮肉に、ロザリーは真っ赤になった。
放っておくとすぐ食事を抜いてしまうロザリーの手を引っ張って、彼女たちに食堂へと連れて行かれたのも、いい思い出だ。
「も、もちろんよ」
「ロザリー。大好きよ。身体に気を付けてね」
友人に抱きしめられ、ロザリーの目に涙が浮かぶ。
「私も。大好きよ、ハンナ」
二人は固く抱き合い、少し離れて微笑みあった。
「「元気で」」
その言葉を最後に、卒業パーティには参加せず、ロザリーは隣国へと旅立っていった。
どういうことかと伯爵家に問い合わせが相次いだが、伯爵は家内の事情ということで押し通した。
伯爵家は王国貴族の中ではパッとしないが、長く続く家なので親戚の数も多い。
歴代の伯爵は温和な人物が多く、親戚一同との仲もうまくやっていたのだが、今の伯爵に変わってからどうもおかしい。
今回の事も、本来なら各家の家長に根回しした上でお披露目されるほど大事なことのはずなのだが、お前たちには関係ないという態度を崩さない伯爵に対して、不信感は募るばかりだった。
それでも現役の伯爵である父が健在のうちは、なかなか文句もいいづらいようで、姉妹の妹が家を継ぐ事情はひそひそと噂されることになった。
それは世間も同じ事で、社交の場ではロザリーは格好の的になった。
学院でもそれは変わらなかったが、友達がいる分、学院の居心地の方が格段によかった。
家に帰らないために、学院に遅くまで残るようになり、上の下ぐらいだったロザリーの成績はトップクラスへと飛躍した。それに伴い、友達の顔ぶれも少し変わり。
ロザリーは隣国の留学生達と交友をもった。
「女性が家に籠るなんて、社会の損失だ。僕の国では、女性の社会進出が進んでいて、女性官吏も数多く活躍している。君が専攻している農作物の改良も専門の研究所があるんだ。結婚後はもちろん、子どもが生まれた後も活躍している女性は多いんだよ」
友人となった留学生たちの話を聞いて、ロザリーは心を決めた。
「留学して、そのまま向こうで就職するわ」
晴れやかな顔で宣言するロザリー。
友人たちは心から祝福した。
この国と違い、隣国は女性の社会進出が進んでいる。
留学生の友人たちの言葉をきっかけに、教授たちにも相談して、ロザリーは新しい道を選んだ。
「寂しくなるわね」
友人の門出を祝う気持ちは嘘ではないが、仲のいい友達が隣国に行って会えなくなるのは寂しい。
「そんなに遠くないし、遊びにきて。きっと伯母も歓迎してくださるわ」
「ええ。きっと行くわ。それに手紙も書く。返事をくれる?」
「もちろんよ!」
「研究にかまけて、忘れては嫌よ」
寝食を忘れるようにして勉学に打ち込んでいた学生時代を知る友人のストレートな皮肉に、ロザリーは真っ赤になった。
放っておくとすぐ食事を抜いてしまうロザリーの手を引っ張って、彼女たちに食堂へと連れて行かれたのも、いい思い出だ。
「も、もちろんよ」
「ロザリー。大好きよ。身体に気を付けてね」
友人に抱きしめられ、ロザリーの目に涙が浮かぶ。
「私も。大好きよ、ハンナ」
二人は固く抱き合い、少し離れて微笑みあった。
「「元気で」」
その言葉を最後に、卒業パーティには参加せず、ロザリーは隣国へと旅立っていった。
94
あなたにおすすめの小説
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです
山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。
「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」
「まぁそれは本当ですか?」
「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」
「畏まりました」
部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。
「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」
残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。
異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。
克全
恋愛
『私を溺愛する方伯閣下は猛き英雄でした』
ネルソン子爵家の令嬢ソフィアは婚約者トラヴィスと踊るために王家主催の舞踏会にきていた。だがこの舞踏会は、ソフィアに大恥をかかせるために異母妹ロージーがしかけた罠だった。ネルソン子爵家に後妻に入ったロージーの母親ナタリアは国王の姪で王族なのだ。ネルソン子爵家に王族に血を入れたい国王は卑怯にも一旦認めたソフィアとトラヴィスの婚約を王侯貴族が集まる舞踏会の場で破棄させた。それだけではなく義母ナタリアはアストリア帝国のテンプル方伯家の侍女として働きに出させたのだった。国王、ナタリア、ロージーは同じ家格の家に侍女働きに出してソフィアを貶めて嘲笑う気だった。だがそれは方伯や辺境伯という爵位の存在しない小国の王と貴族の無知からきた誤解だった。確かに国によっては城伯や副伯と言った子爵と同格の爵位はある。だが方伯は辺境伯同様独立裁量権が強い公爵に匹敵する権限を持つ爵位だった。しかもソフィアの母系は遠い昔にアストリア帝室から別れた一族で、帝国守護神の聖女に選ばれたのだった。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる