素敵なものは全て妹が奪っていった。婚約者にも見捨てられた姉は、「ふざけないで!」と叫び、家族を捨てた。

あお

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 伯爵は姉妹の婚約の入れ替えを大した事だととらえていなかったが、まったく聞かされていなかった親戚一同はびっくりした。

 どういうことかと伯爵家に問い合わせが相次いだが、伯爵は家内の事情ということで押し通した。

 伯爵家は王国貴族の中ではパッとしないが、長く続く家なので親戚の数も多い。

 歴代の伯爵は温和な人物が多く、親戚一同との仲もうまくやっていたのだが、今の伯爵に変わってからどうもおかしい。

 今回の事も、本来なら各家の家長に根回しした上でお披露目されるほど大事なことのはずなのだが、お前たちには関係ないという態度を崩さない伯爵に対して、不信感は募るばかりだった。

 それでも現役の伯爵である父が健在のうちは、なかなか文句もいいづらいようで、姉妹の妹が家を継ぐ事情はひそひそと噂されることになった。

 それは世間も同じ事で、社交の場ではロザリーは格好の的になった。

 学院でもそれは変わらなかったが、友達がいる分、学院の居心地の方が格段によかった。

 家に帰らないために、学院に遅くまで残るようになり、上の下ぐらいだったロザリーの成績はトップクラスへと飛躍した。それに伴い、友達の顔ぶれも少し変わり。

 ロザリーは隣国の留学生達と交友をもった。



「女性が家に籠るなんて、社会の損失だ。僕の国では、女性の社会進出が進んでいて、女性官吏も数多く活躍している。君が専攻している農作物の改良も専門の研究所があるんだ。結婚後はもちろん、子どもが生まれた後も活躍している女性は多いんだよ」

 友人となった留学生たちの話を聞いて、ロザリーは心を決めた。



「留学して、そのまま向こうで就職するわ」

 晴れやかな顔で宣言するロザリー。

 友人たちは心から祝福した。

 この国と違い、隣国は女性の社会進出が進んでいる。

 留学生の友人たちの言葉をきっかけに、教授たちにも相談して、ロザリーは新しい道を選んだ。

「寂しくなるわね」

 友人の門出を祝う気持ちは嘘ではないが、仲のいい友達が隣国に行って会えなくなるのは寂しい。

「そんなに遠くないし、遊びにきて。きっと伯母も歓迎してくださるわ」

「ええ。きっと行くわ。それに手紙も書く。返事をくれる?」

「もちろんよ!」

「研究にかまけて、忘れては嫌よ」

 寝食を忘れるようにして勉学に打ち込んでいた学生時代を知る友人のストレートな皮肉に、ロザリーは真っ赤になった。

 放っておくとすぐ食事を抜いてしまうロザリーの手を引っ張って、彼女たちに食堂へと連れて行かれたのも、いい思い出だ。

「も、もちろんよ」

「ロザリー。大好きよ。身体に気を付けてね」

 友人に抱きしめられ、ロザリーの目に涙が浮かぶ。

「私も。大好きよ、ハンナ」

 二人は固く抱き合い、少し離れて微笑みあった。

「「元気で」」

 その言葉を最後に、卒業パーティには参加せず、ロザリーは隣国へと旅立っていった。





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