10 / 10
10
しおりを挟む
学院を卒業したロブは、伯爵家に入って領地経営を学ぶことになった。
ロブとしては、まだ婚約中なのだから家から通いたいと希望したのだが、エミリーがロブとの同居を熱望した。
幼馴染とはいえ、姉の婚約者だったロブとはまだ十分親しくなっていない。結婚までの一年間で、仲を深めたいと言うのだ。
姉が居なくなって寂しいの、とエミリーが訴えると、彼女に要望は容易く通った。
こうして卒業と同時に、ロブはドナドナされる事となった。
領地経営の勉強というが、領地経営は伯爵の大叔父はじめ一族の者が担っている。
伯爵家に来たロブの役目はエミリーのお守りだった。
卒業式の一週間後。
伯爵邸の前に立ったロブは気遅れしていた。
伯爵邸に住むという事は、元婚約者のロザリーとも一緒に住むという事だ。
婚約解消からロザリーはロブに素っ気なくなり、ほとんど会う事もなくなったが、同じ屋根の下にいればそういう訳にもいかない。
ロザリーとは嫌いで別れたわけではないため、その気まずさは言葉にできない程だった。
しかしロブのそんな思いは肩透かしに終わる。
ロザリーは隣国に留学してしまい、伯爵邸には居なかった。
「お姉さまは隣国に留学してしまったの。私、寂しいわ。ねえ、ロブ。お姉さまの代わりにずっと側にいてね」
エミリーからロザリーの不在を知らされ、ロブはぎょっとした。
大嫌いなエミリーの面倒を見るなんて、冗談じゃなかった。
エミリーが学院に行って不在の時、ロブは何度も伯爵に領地経営の勉強のため、実際に領地を見てみたいと訴えた。
伯爵家の領地は王都から馬車で一週間ほどのところにある。
ロザリーに続いてロブまで居なくなったらエミリーが寂しがるからダメだと伯爵はにべもなかったが、ロブは諦めなかった。
伯爵についてまわり、伯爵邸にある書籍と書類は全て目を通した。その知識から、伯爵邸ではこれ以上領地については学べない、領地を預かっている伯爵の大叔父について、領地経営を学びたいと何度も訴えた。
あまりのしつこさに伯爵も折れ、学院の夏季休暇にエミリーと一緒ならば、と条件をつけた。
ロブは頷き、夏季休暇までエミリーの相手をよく務めた。
伯爵から見ても、これなら二人の将来は安泰だろうと思えるほど、ロブは献身的だった。
そして夏季休暇になり、ロブに口説かれて領地に行ったエミリーだが、当然のように退屈だからとすぐに帰ってきてしまった。
一人で。
ロブは将来のために大事な事だから、と領地に残り、夏季休暇が終わっても帰ってこなかった。
「お前さんが、ロザリーを捨てた男か」
エミリーを振り切って領地に逃げ込んだロブだが、領地でも彼は歓迎されなかった。
まがりなりにもロザリーは伯爵家の総領娘だったのだ。
真面目な性格で、領地のじじばば達にも可愛がられていた。
ロブへの風当たりは強く、何度も心が折れかけた。それでもなんとか食らい付いていったのは、ひとえにエミリーの側に戻りたくなかったからだ。
エミリーにとって、ロブは婚約者というより姉から奪った戦利品だ。
ロブがエミリーに仕えるのは当たり前で、ロブが意見を言うとすぐに金切り声をあげてヒステリーを起こす。
そうなると義両親が出てきてエミリーの味方をする。
エミリーの側にいると、ロブは自分が家畜にでもなったような気分になった。
もういっそ婚約を解消されてもいいとさえ思ったが、ロブを逃したら後がない伯爵家が、ロブの実家に圧力をかけているため、逃げる事も出来ない。
ロザリーと婚約していた時、ロブはロザリーの不甲斐なさを責めたが、いまなら彼女の辛い立場がよく分かった。
仕方ないと婚約の解消を片付けてしまった自分が、ロザリーに何をしたのか、やっと理解する事が出来た。
ロザリーに謝りたい。
しかし隣国に留学したというロザリーの消息は、ロブには知らされなかった。
領地でロブは土下座して、彼らの総領姫にした非道を詫び、領地について教えて欲しいと頼み込んだ。
ここで役に立てなければ、一生エミリーのオモチャで終わる。
簡単ではなかった。
最初は使用人の下働きを命じられた。それが嫌なら王都に帰れと。
将来の伯爵が淡々と下働きをこなす姿を、最初は使用人達が受け入れ、領民が受け入れた。
ロブは大人しい男だ。
優しい性質でもある。
流されやすく弱い心は、下働きを経て領地に尽くすうちに、なにか別なものへと変わっていった。
数ヶ月が経ち、結婚式のために戻るよう、伯爵から手紙が届いた。
ロブは静かに頷き、領地を後にした。
そこにはエミリーに振り回されていただけの少年の姿はなかった。
ロブが領地で男を学んでいた頃、ロザリーは侯爵家に迎え入れられ、カルチャーショックを受けていた。
ロブとしては、まだ婚約中なのだから家から通いたいと希望したのだが、エミリーがロブとの同居を熱望した。
幼馴染とはいえ、姉の婚約者だったロブとはまだ十分親しくなっていない。結婚までの一年間で、仲を深めたいと言うのだ。
姉が居なくなって寂しいの、とエミリーが訴えると、彼女に要望は容易く通った。
こうして卒業と同時に、ロブはドナドナされる事となった。
領地経営の勉強というが、領地経営は伯爵の大叔父はじめ一族の者が担っている。
伯爵家に来たロブの役目はエミリーのお守りだった。
卒業式の一週間後。
伯爵邸の前に立ったロブは気遅れしていた。
伯爵邸に住むという事は、元婚約者のロザリーとも一緒に住むという事だ。
婚約解消からロザリーはロブに素っ気なくなり、ほとんど会う事もなくなったが、同じ屋根の下にいればそういう訳にもいかない。
ロザリーとは嫌いで別れたわけではないため、その気まずさは言葉にできない程だった。
しかしロブのそんな思いは肩透かしに終わる。
ロザリーは隣国に留学してしまい、伯爵邸には居なかった。
「お姉さまは隣国に留学してしまったの。私、寂しいわ。ねえ、ロブ。お姉さまの代わりにずっと側にいてね」
エミリーからロザリーの不在を知らされ、ロブはぎょっとした。
大嫌いなエミリーの面倒を見るなんて、冗談じゃなかった。
エミリーが学院に行って不在の時、ロブは何度も伯爵に領地経営の勉強のため、実際に領地を見てみたいと訴えた。
伯爵家の領地は王都から馬車で一週間ほどのところにある。
ロザリーに続いてロブまで居なくなったらエミリーが寂しがるからダメだと伯爵はにべもなかったが、ロブは諦めなかった。
伯爵についてまわり、伯爵邸にある書籍と書類は全て目を通した。その知識から、伯爵邸ではこれ以上領地については学べない、領地を預かっている伯爵の大叔父について、領地経営を学びたいと何度も訴えた。
あまりのしつこさに伯爵も折れ、学院の夏季休暇にエミリーと一緒ならば、と条件をつけた。
ロブは頷き、夏季休暇までエミリーの相手をよく務めた。
伯爵から見ても、これなら二人の将来は安泰だろうと思えるほど、ロブは献身的だった。
そして夏季休暇になり、ロブに口説かれて領地に行ったエミリーだが、当然のように退屈だからとすぐに帰ってきてしまった。
一人で。
ロブは将来のために大事な事だから、と領地に残り、夏季休暇が終わっても帰ってこなかった。
「お前さんが、ロザリーを捨てた男か」
エミリーを振り切って領地に逃げ込んだロブだが、領地でも彼は歓迎されなかった。
まがりなりにもロザリーは伯爵家の総領娘だったのだ。
真面目な性格で、領地のじじばば達にも可愛がられていた。
ロブへの風当たりは強く、何度も心が折れかけた。それでもなんとか食らい付いていったのは、ひとえにエミリーの側に戻りたくなかったからだ。
エミリーにとって、ロブは婚約者というより姉から奪った戦利品だ。
ロブがエミリーに仕えるのは当たり前で、ロブが意見を言うとすぐに金切り声をあげてヒステリーを起こす。
そうなると義両親が出てきてエミリーの味方をする。
エミリーの側にいると、ロブは自分が家畜にでもなったような気分になった。
もういっそ婚約を解消されてもいいとさえ思ったが、ロブを逃したら後がない伯爵家が、ロブの実家に圧力をかけているため、逃げる事も出来ない。
ロザリーと婚約していた時、ロブはロザリーの不甲斐なさを責めたが、いまなら彼女の辛い立場がよく分かった。
仕方ないと婚約の解消を片付けてしまった自分が、ロザリーに何をしたのか、やっと理解する事が出来た。
ロザリーに謝りたい。
しかし隣国に留学したというロザリーの消息は、ロブには知らされなかった。
領地でロブは土下座して、彼らの総領姫にした非道を詫び、領地について教えて欲しいと頼み込んだ。
ここで役に立てなければ、一生エミリーのオモチャで終わる。
簡単ではなかった。
最初は使用人の下働きを命じられた。それが嫌なら王都に帰れと。
将来の伯爵が淡々と下働きをこなす姿を、最初は使用人達が受け入れ、領民が受け入れた。
ロブは大人しい男だ。
優しい性質でもある。
流されやすく弱い心は、下働きを経て領地に尽くすうちに、なにか別なものへと変わっていった。
数ヶ月が経ち、結婚式のために戻るよう、伯爵から手紙が届いた。
ロブは静かに頷き、領地を後にした。
そこにはエミリーに振り回されていただけの少年の姿はなかった。
ロブが領地で男を学んでいた頃、ロザリーは侯爵家に迎え入れられ、カルチャーショックを受けていた。
117
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです
山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。
「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」
「まぁそれは本当ですか?」
「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」
「畏まりました」
部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。
「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」
残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。
異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。
克全
恋愛
『私を溺愛する方伯閣下は猛き英雄でした』
ネルソン子爵家の令嬢ソフィアは婚約者トラヴィスと踊るために王家主催の舞踏会にきていた。だがこの舞踏会は、ソフィアに大恥をかかせるために異母妹ロージーがしかけた罠だった。ネルソン子爵家に後妻に入ったロージーの母親ナタリアは国王の姪で王族なのだ。ネルソン子爵家に王族に血を入れたい国王は卑怯にも一旦認めたソフィアとトラヴィスの婚約を王侯貴族が集まる舞踏会の場で破棄させた。それだけではなく義母ナタリアはアストリア帝国のテンプル方伯家の侍女として働きに出させたのだった。国王、ナタリア、ロージーは同じ家格の家に侍女働きに出してソフィアを貶めて嘲笑う気だった。だがそれは方伯や辺境伯という爵位の存在しない小国の王と貴族の無知からきた誤解だった。確かに国によっては城伯や副伯と言った子爵と同格の爵位はある。だが方伯は辺境伯同様独立裁量権が強い公爵に匹敵する権限を持つ爵位だった。しかもソフィアの母系は遠い昔にアストリア帝室から別れた一族で、帝国守護神の聖女に選ばれたのだった。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる