素敵なものは全て妹が奪っていった。婚約者にも見捨てられた姉は、「ふざけないで!」と叫び、家族を捨てた。

あお

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 学院を卒業したロブは、伯爵家に入って領地経営を学ぶことになった。

 ロブとしては、まだ婚約中なのだから家から通いたいと希望したのだが、エミリーがロブとの同居を熱望した。

 幼馴染とはいえ、姉の婚約者だったロブとはまだ十分親しくなっていない。結婚までの一年間で、仲を深めたいと言うのだ。

 姉が居なくなって寂しいの、とエミリーが訴えると、彼女に要望は容易く通った。

 こうして卒業と同時に、ロブはドナドナされる事となった。



 領地経営の勉強というが、領地経営は伯爵の大叔父はじめ一族の者が担っている。

 伯爵家に来たロブの役目はエミリーのお守りだった。




 卒業式の一週間後。
 伯爵邸の前に立ったロブは気遅れしていた。

 伯爵邸に住むという事は、元婚約者のロザリーとも一緒に住むという事だ。

 婚約解消からロザリーはロブに素っ気なくなり、ほとんど会う事もなくなったが、同じ屋根の下にいればそういう訳にもいかない。

 ロザリーとは嫌いで別れたわけではないため、その気まずさは言葉にできない程だった。

 しかしロブのそんな思いは肩透かしに終わる。

 ロザリーは隣国に留学してしまい、伯爵邸には居なかった。

「お姉さまは隣国に留学してしまったの。私、寂しいわ。ねえ、ロブ。お姉さまの代わりにずっと側にいてね」

 エミリーからロザリーの不在を知らされ、ロブはぎょっとした。

 大嫌いなエミリーの面倒を見るなんて、冗談じゃなかった。

 エミリーが学院に行って不在の時、ロブは何度も伯爵に領地経営の勉強のため、実際に領地を見てみたいと訴えた。

 伯爵家の領地は王都から馬車で一週間ほどのところにある。

 ロザリーに続いてロブまで居なくなったらエミリーが寂しがるからダメだと伯爵はにべもなかったが、ロブは諦めなかった。

 伯爵についてまわり、伯爵邸にある書籍と書類は全て目を通した。その知識から、伯爵邸ではこれ以上領地については学べない、領地を預かっている伯爵の大叔父について、領地経営を学びたいと何度も訴えた。

 あまりのしつこさに伯爵も折れ、学院の夏季休暇にエミリーと一緒ならば、と条件をつけた。

 ロブは頷き、夏季休暇までエミリーの相手をよく務めた。

 伯爵から見ても、これなら二人の将来は安泰だろうと思えるほど、ロブは献身的だった。

 そして夏季休暇になり、ロブに口説かれて領地に行ったエミリーだが、当然のように退屈だからとすぐに帰ってきてしまった。

 一人で。

 ロブは将来のために大事な事だから、と領地に残り、夏季休暇が終わっても帰ってこなかった。






「お前さんが、ロザリーを捨てた男か」

 エミリーを振り切って領地に逃げ込んだロブだが、領地でも彼は歓迎されなかった。

 まがりなりにもロザリーは伯爵家の総領娘だったのだ。

 真面目な性格で、領地のじじばば達にも可愛がられていた。

 ロブへの風当たりは強く、何度も心が折れかけた。それでもなんとか食らい付いていったのは、ひとえにエミリーの側に戻りたくなかったからだ。

 エミリーにとって、ロブは婚約者というより姉から奪った戦利品だ。

 ロブがエミリーに仕えるのは当たり前で、ロブが意見を言うとすぐに金切り声をあげてヒステリーを起こす。

 そうなると義両親が出てきてエミリーの味方をする。

 エミリーの側にいると、ロブは自分が家畜にでもなったような気分になった。

 もういっそ婚約を解消されてもいいとさえ思ったが、ロブを逃したら後がない伯爵家が、ロブの実家に圧力をかけているため、逃げる事も出来ない。

 ロザリーと婚約していた時、ロブはロザリーの不甲斐なさを責めたが、いまなら彼女の辛い立場がよく分かった。

 仕方ないと婚約の解消を片付けてしまった自分が、ロザリーに何をしたのか、やっと理解する事が出来た。

 ロザリーに謝りたい。

 しかし隣国に留学したというロザリーの消息は、ロブには知らされなかった。

 領地でロブは土下座して、彼らの総領姫にした非道を詫び、領地について教えて欲しいと頼み込んだ。

 ここで役に立てなければ、一生エミリーのオモチャで終わる。

 簡単ではなかった。

 最初は使用人の下働きを命じられた。それが嫌なら王都に帰れと。

 将来の伯爵が淡々と下働きをこなす姿を、最初は使用人達が受け入れ、領民が受け入れた。

 ロブは大人しい男だ。

 優しい性質でもある。

 流されやすく弱い心は、下働きを経て領地に尽くすうちに、なにか別なものへと変わっていった。

 数ヶ月が経ち、結婚式のために戻るよう、伯爵から手紙が届いた。

 ロブは静かに頷き、領地を後にした。




 そこにはエミリーに振り回されていただけの少年の姿はなかった。




 ロブが領地で男を学んでいた頃、ロザリーは侯爵家に迎え入れられ、カルチャーショックを受けていた。







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