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「なにか勘違いなさっているようですが、ヴェラー伯爵家と私はなんの関係もありませんよ」

 ここは王立学園。貴族の子女、そして優秀さを選抜された平民が集まる学校。

 いまは昼休みなので、人を待っていた私はカフェテリアで一人座っていたのだが、突然現れた二人の男女のせいで注目を集めてしまった。

 困ったわ。注目を集めるのも噂の的になるのも本位ではないのに。

 私はアウリーデ公爵令嬢として学園に来ている。
 数少ない高位貴族、公爵令嬢の顔を知らない生徒は、そうそうはいないと思うけれど、私とヴェラー伯爵が関係あるだなんて、変な噂になったらたまらない。

 母亡きいま、あの家と私の関係はアウリーデ公爵であるお祖父様がぶった切り、社交界の噂にもさせていない。

 せっかくお祖父様が闇に葬ってくれたのに、こんなところで蒸し返されたら台無しだわ。

 さりげなく周囲に目をやり、噂好きな何人かの令嬢に目配せをする。

 変な噂を立てたらただじゃおかないわよ、という無言の圧力が効いたのか、彼女たちは顔をひきつらせた。
 それでも目を爛々と輝かせ、スキャンダルの香りによだれを垂らしそうになっているのだから、業が深いのね。

 場を制してから、見知らぬ男を睨み付ける。

「ましてやヴェラー伯爵家が私の婚約者を決めるなんて事、出来るはずがありません。他家の娘なんですから」

 そんなことがまかり通ったら貴族社会は崩壊してしまう。

 ここまで言ってもピンと来ていないのか、訝し気に私を見ている目の前の男女に、止めをさす。

「大変な侮辱です。この事は、アウリーデ公爵家から厳重に抗議させていただきます。それで」

 私は右手に持った扇を畳んだまま、ピシリと左手の掌に叩きつけ。

「貴方、どこの家の御子息なの?」

 名乗りもしない無礼な正体不明の男へ言い渡した。

 じろりと男を威圧して、女を眺める。

 男の顔にはまったく覚えがないが、女はあの忌まわしきヴェラー伯爵家の養子を成長させたらこうなるだろう、という姿にそっくりだった。

 厄介な事。

『お姉さま』と恥知らずにも呼びかけられた時には、どこの誰が許しも与えていないのに、気安く呼ぶのかと怒りを覚えたけれど、この娘であれば礼儀知らずでもおかしくない。

 いまも淑女とはとても思えない、体幹がブレブレの立ち姿をしている。

 男性にエスコートされている時も、女性は美しく凛として立ってこそ、エスコートする男性の男ぶりも上がるもの。

 男の方も酷い。ただ立っているだけなのに、重心が偏っている。学園の男子ならば騎士候補として剣の訓練も受けているはずなのに、まったく鍛錬の成果が見えない。

 軟弱で低能。とても視界に入れたくない二人だった。

 自慢ではありませんが、私は能力主義です。
 平民でも見るべきところががあれば、お友達として加えていただきたいと思っています。

 この二人とは、同じ学園の空気を吸うのも嫌、というのはさすがに我儘だから、せめて視界に入らないところにいて欲しい。





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