蜘蛛の糸の雫

ha-na-ko

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秘書として、そして……

3. これが……僕の席……!?

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突然激しく求められ驚く。

ついさっきおめでとうと言ってくれたスタッフや秘書の方がすくそこに居るのを思い出し、流石に今見つかっては困ると社長に耳打ちすると、社長ははっとしてちょっと閥が悪そうにタバコに火を点けた。
手を引かれた時思わず落としてしまった卒業証書を社長が拾い、僕は慌てて立ち上がった。

「あっ!すいません!」

社長は僕の方を見ないで、そっとそれを僕に差し出した。

「あそこにでも、しまっておけ」

……あそこ?

広い社長室の隅に真新しい家具調のデスクが置かれていた。


ここはたしか、社長のデスクと応接セットしかなかったはず。
きょとんとした顔でそのデスクを眺めていると、社長がちょっとイラッとした口調でいう。

「お前のデスクだ!
まだ、4月から新入社員としての実習や合宿などもあるが、……一応規則だからな。
だが、それが終わればすぐに私の側で働いてもらう」

デスクの上には最新式のノートパソコン、横には専用の書棚までついていた。
今までの何人か居る秘書は、社長室の外の部屋の秘書室にそれぞれのデスクがあり、僕も当たり前にそこの仲間入りをするとばかり思っていた。

「これが……僕の席……!?」

高価な装飾が施された引き出しを開けてみる。
何も入っていないそこに、卒業証書を入れ、静かに椅子に座る。

まだ22歳。
こんな駆け出しの僕が、こんな待遇をうけていいのだろうか。

戸惑いの表情で社長を見ると、社長はタバコを片手にまた自分のデスクの書類に目を通し始めた。

大きな窓からの光を背に、真剣に書類に目を通す社長。
この席から、これから毎日こんなかっこいい社長を見られるなんて……。
ドキドキと高鳴る想いでその光景を見ていた。

「あっ……僕、コーヒー入れてきます」

手持ち無沙汰もあって、すくっと立ち上がると、社長室の外へと飛び出した。



秘書室に隣接いている給湯室へ向かいコーヒーの準備をしていると、ぼそぼそと人の声が聞こえてきた。

「あれは流石になぁ……」

「ああ……いくら手塩にかけて育てたにしても……。
まだ22歳そこらだぞ。
何年も社長と共にこの会社を支えてきたつもりだったのに……」

「だな。手島君はいい奴だし能力も高い。わかるけど……。
でも、あれは社長がどうかしてる。まだ入社も決まっていない人間にあそこまで。
僕らの立場もなにもあったもんじゃないよ」

今まで僕に秘書の仕事を教えてくれていた先輩たちの声だった。
……いきなりあの社長室のデスクが僕に宛がわれるのが癇に障るのだ。

よく考えたらそうだ。
あの秘書の方々もどんなに会社のため、社長のため、仕事をしてきたのか知っている。
あの席はあの方たちに宛がわれてもおかしくなかった。
……なのに僕が……。

僕の事をいくら悪く言われてもよかったが、社長の事だけは言われたくない。
このままでは僕のせいで、この秘書の方々の社長への忠誠心も揺らいでしまう。

僕はコーヒーを持ち、その立ち話をしている秘書の方々に見つからないように給湯室を出た。



「コーヒーを……」

僕は忙しそうに書類に目を通している社長のデスクの端にコーヒーを置いた。

「……あの……」

「ん……?」

仕事の邪魔はしたくはなかった。だが、後回しにするわけにはいかないと思った。

「……僕のデスクですが。
有り難いんです、でも……他の方と同じ秘書室にお願いできますか……」

社長は手にしていた書類をぱさっとデスクに投げ出すように置いた。

「それはお前の希望か?」

「…………」

「お前は私とこの部屋で仕事をするのが嫌だと……」

「そんなこと!!……あるわけない…です…」

僕は俯いた。
どう言い訳したらいいのか、考えあぐねていた。



「……他の奴に何か言われたか……」

社長は顎に手を当てながら、独り言のように呟く。
僕は精一杯首を横に振った。

ガタン!!

その時社長はいきなり立ち上がり僕の後ろに腕を回したかと思うと、後頭部の髪を鷲掴みにし俯く顔を上へと向けさせた。
突然の事で、僕は仰け反る。社長の顔がとても近くて心臓が跳ねた。
社長は僕を睨み付け、同時に反応を伺っているようだった。

しばらく見つめ合った。
この見透かしたような眼差しに、視線を逸らすことなんてできない。
そして徐に髪を掴んでいた手を離す。

「誰に何を言われたか知らんが、
お前が私の一番側に居て、誰にも文句を言わせない仕事をすればいい。
それだけだ」

僕の髪を掴んでいた手を離し、静かに椅子に座り直すとまた書類に目を通しだした。
僕はその場にへたっと座り込んだ。

社長の一番のお側に……。

それは性奴隷としての僕の役目。

その為に 
"誰にも文句を言わせない仕事をする"
これが、僕が社長の秘書として、そして性奴隷として、新たな存在意義となった。



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