50 / 87
050 罪(Sin)と罪(Crime)
しおりを挟む
アルトが力尽きてから、数十分後。
俺――シンは、Cランクダンジョン【蜥蜴の巣穴】の外に出ていた。
ある一人の少女を連れて。
「んんっ……」
すると、まるでタイミングを見計らったかのように彼女――赤髪の少女、クリムがゆっくりと目を開けた。
「ここは……? ダンジョンの外? いったい、何が……」
クリムは状況を確かめるようにきょろきょろと周囲を見渡す。
そんな中、彼女の視線は俺に止まった。
しばしの沈黙のあと、クリムはその目を大きく見開く。
「――!」
警戒した様子で、バッと立ち上がるクリム。
気絶するまでの出来事を思い出したのだろう。
彼女は怒りを隠す素振りも見せず、俺をキッと睨みつける。
「そうでした、私は貴方の攻撃で意識を失って……っ! そうです、他の皆は――」
「俺が殺した」
「――え?」
時が止まったように、クリムはぴたりと動きを止める。
そんな彼女に現実を突きつけるように、俺は続けて言った。
「セドリックだけじゃない。ガレンも、シエラも、アルトも……全員、俺がこの手で最大の苦痛を与えて殺してやった」
「そん、な……」
クリムにとって、それはあまりにも衝撃的だったのだろう。
両足はぷるぷると震え、呼吸が荒くなる。
それでも今、この場所に俺とクリムが二人でいるという状況が、その事実を完膚なきまでに証明していた。
弱弱しい声で、クリムは告げる。
「どう、して……そんなことを……アルトさんたちは、私の恩人です。居場所がなかった私に、生き方を教えてくれた優しい人たちです……なのにどうして、そんな人たちを殺したんですか!?」
「………………」
回答に、少しだけ悩んだ。
ここでクリムに対し、かつてアイツらが俺にしたことを教えるのは簡単だ。
しかしそれで、果たして彼女は信じるのだろうか。
今のクリムは、かつての――二年前、アルトたちに裏切られる前の俺だ。
俺だって、あの瞬間まではアイツらのことを心から尊敬し、信頼していた。
仮にそんな状態で、今回のような襲撃者による復讐が起きたとしても、俺が襲撃者の言葉を信じることはなかっただろう。
だとするなら、クリムだって同じだ。
いくら俺が懇切丁寧に説明しようと、そこに意味はない。
ゆえに――
「さっきも言った通りだ」
「え?」
「お前に、わざわざそれを語る筋合いはない」
「――――ッ!」
切り捨てるような俺の言葉に、クリムは目を見開いた後。
これ以上ない怒りの形相を浮かべた。
「……してやる」
「何だ?」
「殺してやる! 貴方だけは絶対に、私が!」
それは紛うことなき殺意。
そして復讐の宣言だった。
どこまでも、嫌になるほどあの日の俺を彷彿とさせられる。
もっとも、立場だけはこうして反転してしまったわけだが。
でも、これでいいのかもしれない。
突如として寄る辺を失った彼女にとって、復讐《それ》が新しい生きる目的になるのであれば。
アイツらから騙されていたという意味では俺と同じ立場にあるクリムが、不必要に死んでほしいとまでは思わないからな。
だからこそ、俺は――
「――そうか」
「ッッッ!?!?!?」
あえてここで、全力の殺気を放った。
それを受けクリムは、耐えることができずその場に膝をつく。
続けて、俺はクリムに告げる。
「その様子では、とても叶いそうにはない願いだな」
「……っ! だま、れ! 私は、絶対に、諦めない……!」
それでも、彼女の瞳に宿る意思は死なない。
もしかしたら本当に、いつの日か復讐にやってくる時が来るかもしれない。
そんなありもしない未来を、俺は幻想した。
俺はその場で踵を返す。
「じゃあな」
最後に別れの言葉を残し、俺は前に足を踏み出した。
後ろからはクリムの殺意を感じるが、気にせず歩を進めていく。
――しばらく歩き、クリムとも十分な距離が開いた後。
俺は改めて、今後について考え始めた。
今回の復讐で得た新たな情報。
それは、全ての始まりがアダムだったという事実と、その裏に潜むブラスフェミー公爵家という存在。
ヤツらもアルトたちと同じ目に遭わせなければ、この復讐は終わらない。
復讐を効率的に行うためにも、俺は拠点を代えることにした。
アダムの行方は不明だが、少なくともブラスフェミー公爵家に関してははっきりとしている。
まずはそこを目指すべきだろう。
それに、もう一つ。
俺には気になっていることがあった。
「……あの声だ」
【黒きアビス】の最深部にて。
無限に攻略報酬を受け取り続ける俺に対して降り注いだ幾つもの声。
あの声はこう言っていた。
『神の裁きが、必要である』――と。
それが何を指し示しているのか、今の俺にはまだ分からない。
しかし、また同じようにダンジョンの攻略を続ければ、何か分かる日がやってくるかもしれない。
そのためにも、次の目的地は都合がよかった。
俺は歩を進めながら、ゆっくりとその目的地を口にした。
「――迷宮都市【トレジャーホロウ】。そこが、新しい復讐の舞台だ」
かくして、プロローグは幕を閉じる。
本当の意味での俺の物語は、ここから始まるのだった。
『外れスキル【無限再生】が覚醒して世界最強になった』 第一部 完
俺――シンは、Cランクダンジョン【蜥蜴の巣穴】の外に出ていた。
ある一人の少女を連れて。
「んんっ……」
すると、まるでタイミングを見計らったかのように彼女――赤髪の少女、クリムがゆっくりと目を開けた。
「ここは……? ダンジョンの外? いったい、何が……」
クリムは状況を確かめるようにきょろきょろと周囲を見渡す。
そんな中、彼女の視線は俺に止まった。
しばしの沈黙のあと、クリムはその目を大きく見開く。
「――!」
警戒した様子で、バッと立ち上がるクリム。
気絶するまでの出来事を思い出したのだろう。
彼女は怒りを隠す素振りも見せず、俺をキッと睨みつける。
「そうでした、私は貴方の攻撃で意識を失って……っ! そうです、他の皆は――」
「俺が殺した」
「――え?」
時が止まったように、クリムはぴたりと動きを止める。
そんな彼女に現実を突きつけるように、俺は続けて言った。
「セドリックだけじゃない。ガレンも、シエラも、アルトも……全員、俺がこの手で最大の苦痛を与えて殺してやった」
「そん、な……」
クリムにとって、それはあまりにも衝撃的だったのだろう。
両足はぷるぷると震え、呼吸が荒くなる。
それでも今、この場所に俺とクリムが二人でいるという状況が、その事実を完膚なきまでに証明していた。
弱弱しい声で、クリムは告げる。
「どう、して……そんなことを……アルトさんたちは、私の恩人です。居場所がなかった私に、生き方を教えてくれた優しい人たちです……なのにどうして、そんな人たちを殺したんですか!?」
「………………」
回答に、少しだけ悩んだ。
ここでクリムに対し、かつてアイツらが俺にしたことを教えるのは簡単だ。
しかしそれで、果たして彼女は信じるのだろうか。
今のクリムは、かつての――二年前、アルトたちに裏切られる前の俺だ。
俺だって、あの瞬間まではアイツらのことを心から尊敬し、信頼していた。
仮にそんな状態で、今回のような襲撃者による復讐が起きたとしても、俺が襲撃者の言葉を信じることはなかっただろう。
だとするなら、クリムだって同じだ。
いくら俺が懇切丁寧に説明しようと、そこに意味はない。
ゆえに――
「さっきも言った通りだ」
「え?」
「お前に、わざわざそれを語る筋合いはない」
「――――ッ!」
切り捨てるような俺の言葉に、クリムは目を見開いた後。
これ以上ない怒りの形相を浮かべた。
「……してやる」
「何だ?」
「殺してやる! 貴方だけは絶対に、私が!」
それは紛うことなき殺意。
そして復讐の宣言だった。
どこまでも、嫌になるほどあの日の俺を彷彿とさせられる。
もっとも、立場だけはこうして反転してしまったわけだが。
でも、これでいいのかもしれない。
突如として寄る辺を失った彼女にとって、復讐《それ》が新しい生きる目的になるのであれば。
アイツらから騙されていたという意味では俺と同じ立場にあるクリムが、不必要に死んでほしいとまでは思わないからな。
だからこそ、俺は――
「――そうか」
「ッッッ!?!?!?」
あえてここで、全力の殺気を放った。
それを受けクリムは、耐えることができずその場に膝をつく。
続けて、俺はクリムに告げる。
「その様子では、とても叶いそうにはない願いだな」
「……っ! だま、れ! 私は、絶対に、諦めない……!」
それでも、彼女の瞳に宿る意思は死なない。
もしかしたら本当に、いつの日か復讐にやってくる時が来るかもしれない。
そんなありもしない未来を、俺は幻想した。
俺はその場で踵を返す。
「じゃあな」
最後に別れの言葉を残し、俺は前に足を踏み出した。
後ろからはクリムの殺意を感じるが、気にせず歩を進めていく。
――しばらく歩き、クリムとも十分な距離が開いた後。
俺は改めて、今後について考え始めた。
今回の復讐で得た新たな情報。
それは、全ての始まりがアダムだったという事実と、その裏に潜むブラスフェミー公爵家という存在。
ヤツらもアルトたちと同じ目に遭わせなければ、この復讐は終わらない。
復讐を効率的に行うためにも、俺は拠点を代えることにした。
アダムの行方は不明だが、少なくともブラスフェミー公爵家に関してははっきりとしている。
まずはそこを目指すべきだろう。
それに、もう一つ。
俺には気になっていることがあった。
「……あの声だ」
【黒きアビス】の最深部にて。
無限に攻略報酬を受け取り続ける俺に対して降り注いだ幾つもの声。
あの声はこう言っていた。
『神の裁きが、必要である』――と。
それが何を指し示しているのか、今の俺にはまだ分からない。
しかし、また同じようにダンジョンの攻略を続ければ、何か分かる日がやってくるかもしれない。
そのためにも、次の目的地は都合がよかった。
俺は歩を進めながら、ゆっくりとその目的地を口にした。
「――迷宮都市【トレジャーホロウ】。そこが、新しい復讐の舞台だ」
かくして、プロローグは幕を閉じる。
本当の意味での俺の物語は、ここから始まるのだった。
『外れスキル【無限再生】が覚醒して世界最強になった』 第一部 完
57
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる