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第3章
30.……さようなら(side:ローイン)
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“命が尽きる前に決着をつける!!!”
ローインは決意新たに男を見据えると、丁度ランプとトンビが男にしがみ付いて注意を引いてくれていた。
どんなに男が暴れようと、引き離そうとしても離れない。どれだけ傷つこうともこの手は離さないという強い意志でしがみ付いていた。
「ありがとう……さすがだよ。今から僕のやろうとする事を察してくれているなんて」
ローインは地を蹴った。
エクレアなら力を調整して目前で静止するがローインは調整しない。
元々制御なんてできるかどうか怪しいし、そもそも時間がないのだ。制御だなんて悠長なこと言ってられない。
だから止まらない。
止まらず……突っ込んだ。
ドゴン!!
爆発的な蹴力から繰り出された突撃……
折れた左腕の肩から仕掛けたタックルは男のみぞおちを捉え、そのまま壁際まで押し込んだ。
壁へ激突し大きなヒビが入る。
一瞬まずったと思った。
少し位置がずれていたらエクレアまで巻き込むところだったが、運よく彼女の磔にされていた箇所とはほど近い壁に激突してくれた。
その際、驚愕に満ちたエクレアと目が合うもローインは笑う。
何か言ってる。叫んでるがよく聞こえない。もう聴覚を失いかけてるのだろう。
合わせて視覚と触覚……視界が霞んで痛みの感覚もなくなってきたが、身体はまだ動く。
動いてくれる。力も今だ健在。
今がチャンス……今なら当てられる。
ローインは壁際まで押し込んだ男を前にし、力を貯める。
両足を踏みしめて腰を深く落とし、腰だめに構えた右手に力をこめる。
今から放つのは、限界まで爆発寸前まで貯めに貯め込んだ拳をまっすぐ繰り出す。
ただまっすぐ、ひたすらまっすぐ繰り出すただの『せいけんづき』
基本に忠実なただの『せいけんづき』だ。
ローインは昔から懐に飛び込まれると成すすべもないっという欠点があった。
それを補う方法としておやっさんが提示してくれた隠し技。
踏み込んできた敵にカウンターの一撃をかます、一発限りの初見殺しとなる『せいけんづき』
エクレアはその習練に付き合ってくれた。
エクレアは精神修行の一環と言ってはいたが、共に型を習って二人一緒にひたすら突いた。
時にはランプやトンビにモモちゃんまでも加わって、皆でひたすら倒れるまで何時間も突き続けた。
毎日……というわけではないが、習練の時は決まってぶっ倒れるぐらい突き続けた末に身に着けた『せいけんづき』。
ローインの、親から譲り受けた才能ではなく純粋な努力の末に得た、『力』であった。
ローインはさらに力を籠める。
エクレアの場合は『魔人化』が施された力を右手に一点集中させただけの一撃。
確かにあの拳はなんでも貫いた。
岩だろうが鉄だろうが魔力の盾だろうが、とにかくあらゆるモノを貫くというまさに
『どんな装甲だろうと…ただ打ち貫くのみ!!!!』
を体現させた『せいけんづき』ではあった。
しかし、エクレアはただ打ち貫くのみ。
魔法の心得がないエクレアは魔力を……属性を込める事ができなかった。
だからローインは力だけでなく魔力を、自身が得意とした『火』の属性を付与する。
真っ赤に燃えさかる拳……全てを焼き尽くし破壊する………
打ち貫くのではなく焼き滅ぼして灰へと返す拳を作り上げてゆく……
「ーーーー!!!」
エクレアが何か叫んだ。
わかってる。ローイン自身もわかってる。
こんなものを放てば自分がどうなるかなんて……反動で壊れるぐらいわかってるが、どのみち薬のせいで死は免れない。
なら最後の最後ぐらいエクレアの度肝を抜かしてやろう……
「だから……エクレアちゃん……さようなら」
エクレアが渾身の一撃を放つ時は決まってこう叫んでいた。
ローインはちょっと恥ずかしくていつもは気合のみにしてたが、この際エクレアを真似よう。
これから先を生きるエクレアへの……想いを込めて
「ファルコンパァァァァァァァァァァァァンチ!!!!」
命と引き換えにして放つ拳をローインは放った。
習練で繰り返してきた動きを忠実になぞるかのごとくひたすらまっすぐに収束された拳が男に着弾しようとしたその瞬間……
男は笑った。
笑って宣言した。
“あっぱれ見事!!よく絶望を乗り越えた!!!試験は合格だ!!!!お前はエクレアと共に歩むがよい!!!!”
閃光が走る。
まぶしいばかりの閃光。爆音も何もかもを全てのみ込むかのような閃光………
閃光に紛れて不死鳥が空高く舞い上がったかのような赤く紅く輝いた閃光は………
男を跡形もなく消し飛ばした。
ローインは決意新たに男を見据えると、丁度ランプとトンビが男にしがみ付いて注意を引いてくれていた。
どんなに男が暴れようと、引き離そうとしても離れない。どれだけ傷つこうともこの手は離さないという強い意志でしがみ付いていた。
「ありがとう……さすがだよ。今から僕のやろうとする事を察してくれているなんて」
ローインは地を蹴った。
エクレアなら力を調整して目前で静止するがローインは調整しない。
元々制御なんてできるかどうか怪しいし、そもそも時間がないのだ。制御だなんて悠長なこと言ってられない。
だから止まらない。
止まらず……突っ込んだ。
ドゴン!!
爆発的な蹴力から繰り出された突撃……
折れた左腕の肩から仕掛けたタックルは男のみぞおちを捉え、そのまま壁際まで押し込んだ。
壁へ激突し大きなヒビが入る。
一瞬まずったと思った。
少し位置がずれていたらエクレアまで巻き込むところだったが、運よく彼女の磔にされていた箇所とはほど近い壁に激突してくれた。
その際、驚愕に満ちたエクレアと目が合うもローインは笑う。
何か言ってる。叫んでるがよく聞こえない。もう聴覚を失いかけてるのだろう。
合わせて視覚と触覚……視界が霞んで痛みの感覚もなくなってきたが、身体はまだ動く。
動いてくれる。力も今だ健在。
今がチャンス……今なら当てられる。
ローインは壁際まで押し込んだ男を前にし、力を貯める。
両足を踏みしめて腰を深く落とし、腰だめに構えた右手に力をこめる。
今から放つのは、限界まで爆発寸前まで貯めに貯め込んだ拳をまっすぐ繰り出す。
ただまっすぐ、ひたすらまっすぐ繰り出すただの『せいけんづき』
基本に忠実なただの『せいけんづき』だ。
ローインは昔から懐に飛び込まれると成すすべもないっという欠点があった。
それを補う方法としておやっさんが提示してくれた隠し技。
踏み込んできた敵にカウンターの一撃をかます、一発限りの初見殺しとなる『せいけんづき』
エクレアはその習練に付き合ってくれた。
エクレアは精神修行の一環と言ってはいたが、共に型を習って二人一緒にひたすら突いた。
時にはランプやトンビにモモちゃんまでも加わって、皆でひたすら倒れるまで何時間も突き続けた。
毎日……というわけではないが、習練の時は決まってぶっ倒れるぐらい突き続けた末に身に着けた『せいけんづき』。
ローインの、親から譲り受けた才能ではなく純粋な努力の末に得た、『力』であった。
ローインはさらに力を籠める。
エクレアの場合は『魔人化』が施された力を右手に一点集中させただけの一撃。
確かにあの拳はなんでも貫いた。
岩だろうが鉄だろうが魔力の盾だろうが、とにかくあらゆるモノを貫くというまさに
『どんな装甲だろうと…ただ打ち貫くのみ!!!!』
を体現させた『せいけんづき』ではあった。
しかし、エクレアはただ打ち貫くのみ。
魔法の心得がないエクレアは魔力を……属性を込める事ができなかった。
だからローインは力だけでなく魔力を、自身が得意とした『火』の属性を付与する。
真っ赤に燃えさかる拳……全てを焼き尽くし破壊する………
打ち貫くのではなく焼き滅ぼして灰へと返す拳を作り上げてゆく……
「ーーーー!!!」
エクレアが何か叫んだ。
わかってる。ローイン自身もわかってる。
こんなものを放てば自分がどうなるかなんて……反動で壊れるぐらいわかってるが、どのみち薬のせいで死は免れない。
なら最後の最後ぐらいエクレアの度肝を抜かしてやろう……
「だから……エクレアちゃん……さようなら」
エクレアが渾身の一撃を放つ時は決まってこう叫んでいた。
ローインはちょっと恥ずかしくていつもは気合のみにしてたが、この際エクレアを真似よう。
これから先を生きるエクレアへの……想いを込めて
「ファルコンパァァァァァァァァァァァァンチ!!!!」
命と引き換えにして放つ拳をローインは放った。
習練で繰り返してきた動きを忠実になぞるかのごとくひたすらまっすぐに収束された拳が男に着弾しようとしたその瞬間……
男は笑った。
笑って宣言した。
“あっぱれ見事!!よく絶望を乗り越えた!!!試験は合格だ!!!!お前はエクレアと共に歩むがよい!!!!”
閃光が走る。
まぶしいばかりの閃光。爆音も何もかもを全てのみ込むかのような閃光………
閃光に紛れて不死鳥が空高く舞い上がったかのような赤く紅く輝いた閃光は………
男を跡形もなく消し飛ばした。
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