スキルなし王妃の逆転劇〜冷酷王と結婚しましたが、問題はそこではありません〜

雪城 冴

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2章

2-2 背比べ

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 振り返ると後ろにオスカーが立っていた。

「ははっ、すみません。楽しくてついつい」

 そう言うユリウスを一瞥し、オスカーは本を次々選んでいく。


(全てお読みになるのかしら……)

 異国の本も、分厚い論文のような本もお構いなしで、博学というのも頷ける。
 そういえば彼は色が白いが、インドアなのだろうかと考えてみる。

(噂の中に『顔色一つ変えずに敵を切り捨てる、恐ろしく腕の絶つ王』というのがあったわね……)

 噂を信じないと決めたばかりだったと思い直し、リリアナは頭を振った。


 オスカーは本棚を向いたまま、背中で声をかけてきた。


「何を読みたいんだ」

「エルジオ国の歴史や、後は、魔力のことを知りたいと思って……思いましたの」
 
 ナターシャに指摘された言葉遣いのことが気になる。彼女の真似をして話せば、王にも失礼にならないだろうか。

 オスカーは長い足で数歩で距離を詰め、リリアナの手を取る。
 導かれるまま奥の本棚に行くと、オスカーは顎で本棚の上段を指し示した。


(ここにあるってことなのね?)

 段々彼のことがつかめてきた。
 口数は少ないが、確かに傷つけたり侮辱されるようなことは一切言われていない。


「ありがとうございます」

 お礼を言ったが、オスカーは立ち去らない。
 まだ何かあるのだろうか。
 リリアナは上目遣いにオスカーをうかがった。

「届かないだろう」

 それもそうだった。天井近くまである本は、190cm近くありそうなオスカーが、思い切り手を伸ばして、ちょうど届くくらいだった。
 160cmちょっとのリリアナではまず届かない。

 木でできたはしごが目にとまり、リリアナはそれをそっと引き寄せた。

「……おかまいなく、こちらを使います。……わ」

「そのドレスで昇るのか。ひっくり返るぞ」

「ですが、陛下のお手をわずらわせるわけには……」



「さっさと選べ。俺は暇ではない」

 苛立ったような低い声に、リリアナは慌てて首を伸ばすが、表紙の細かい文字までは見えない。
 下がって確認しようとしたとき、ふわっと身体が浮いた。


(え――?)

 オスカーに、向かい合わせに持ち上げられていた。リリアナは一瞬で身体が熱くなる。

「あ、の……」
 
 震え声で下ろしてもらおうとするが、オスカーは『早く選べ』というように、一段高く持ち上げた。

 ここで抗うとまた叱られるかもしれない。
 混乱しながらも、さっと本のタイトルを確認した。


 オスカーは、リリアナを降ろすと本に手を伸ばす。
 その背中を見つめながら、リリアナは胸を押さえ呼吸を整える。


「……お戯れが過ぎますわ」

「おたわむれ……?」

 オスカーは、リリアナの言葉遣いに怪訝な顔をした。
「……俺がいない時は、ユリウスに……いや、書記に取ってもらえ」
 
 なぜかユリウスの名前を言い直すとき、彼は気まずげに視線を外した。
 まさかそれが、彼の独占欲に絡んでいるかもとはつゆほども思わず、リリアナは小首をかしげる。

「……心得ましたわ」

 しばし二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙が気まずいのか、心地よいのか、自分でも分からず、リリアナは視線を彷徨わせた。

 オスカーは眉をひそめて言う。
 

「さっきからなんだ、その話し方は」

 お茶会での貴婦人たちの真似をしているつもりだが、つけ焼き刃ではやはりおかしいのだろうか。


「何を言われたか知らんが、俺の前では今まで通りでいい。落ち着かない」


 うつむいたままのリリアナの顔を、不意にオスカーが覗き込んだ。
 目が合い、どきっとすると、そのまま彼の指がリリアナの頬に触れる。

「……熱いようだが……大丈夫か?」

 一瞬、返事が喉につかえた。
 目を合わせたまま、リリアナは小さく息を吸った。

「だ、大丈夫です……」

 
 オスカーが遠ざかり、本棚の陰に姿が消れても、リリアナの鼓動は高鳴ったままだった。
 胸の奥がとろけるように熱く、落ち着かない。
 彼の腕や手の感触が、まるでまだ自分を包んでいるかのように、身体に残っている。

 近くで感じた体温。
 腕に抱き上げられたときの、頼もしくて硬い胸。そのすべてが鮮明すぎて、思い出すだけで頬が熱を帯びた。

(――あんなふうに触れられたのは、初めて……)


 本来なら恐れ多いはずなのに、怖さよりも戸惑いと、甘い疼きのような感情が胸いっぱいに広がっていく。


 リリアナは頭を振る。

「さぁ、戻って真相を解明しなくちゃ……」



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