26 / 35
3章
3-9 わたしの答え
しおりを挟むリリアナが目を覚ますと、隣にオスカーが寝ていた。
彼の手を取ると少し冷たかったが、呼吸や顔色は悪くない。
どうやら、リリアナに魔力の一部を送ったせいでダメージを受けているようだった。
毛布をかけ直すと、彼のまぶたがぴくっと動く。
「オスカー様、わかりますか?」
「……あぁ」
彼はゆっくり上半身を起こした。
リリアナは思わず抱きつくが、オスカーは冷静にその身を押し返した。
「俺は、そんなことをしてもらう資格はない」
辛そうな顔。彼が自分の過ちを悔いていることは、聞かなくてもすぐに分かった。
リリアナは首を振り「私がこうしたいんです」と頼むが、オスカーは喉から絞り出すように言う。
「それは……恐怖に縛られているだけだ」
リリアナの胸がぎゅっと締め付けられる。
「違います……。私はオスカー様のことを……」
出会って間もないが、常に気遣って優しさを与えてくれた。リリアナの王妃としての働きを認めてくれた。
なにより、歌で時を共有した。
ホワイトムスクのアロマに包まれた日、あの時に自分の気持ちは決まっていた。
「守ろうと、してくれたんですよね……?」
溢れる想いが、涙となって頬を伝う。
リリアナは、恐怖にとらわれた隠し書庫での口づけをやり直すように、オスカーを抱きしめる。
触れるだけのキス。
すぐに唇を離すと、首に手を回したままオスカーを見つめた。
「これが、私の答えです……」
それを聞いたオスカーは目を見開くが、すぐに口づけを返してきた。
(これが……思いが通じ合うということなの?)
家族の愛を知らずに育ったリリアナ。その心のひび割れが、深い口づけの熱と、ふわふわした感覚で埋まっていく――
しばらくそうしていたが、何度も口づけられ、リリアナは段々、朦朧としてきた。
息を吸おうと堅い胸を押すが、頭を押さえられて動けない。
「んーん……っ!」
拳を握り、どんどんと胸を叩くとやっと解放してくれた。リリアナは新鮮な空気を吸い込み抗議した。
「苦しいです!」
「悪い……つい……離れがたく……」
照れたような顔が可愛くて、リリアナは尖らせた唇から、小さく笑い声を漏らした。
釣られるようにオスカーも目を細める。
彼の雪解けのような笑顔に、心がくすぐられる。
「もう決して、力で支配したりしない……」
懺悔だけではない、決意がにじむ声だった。
(この人は、私を傷つける度に……自分を傷つけてきたんだ……)
心の棘を抜くように、二人は手を重ねる。
それからは、すれ違っていた時を取り戻すようにいろいろな話をした。
ユリウスと兄弟のように育ったという話から、話題はオスカーの母のことに移っていた。
リリアナは、大体のことは侍女の噂話で知っていた。
彼の母は他国から来た王妃で、隠れるように歌う繊細な女性。しかしオスカーの父親に愛されず、最後は国同士の戦争の時に、人質として処分された。
怖くて聞けなかったこと――リリアナは意を決して口にする。
「私は……お母様と似ていますか?」
オスカーは「いいや」と首を振り、はっきり言い切った。
「似ていない。初めは、歌という共通点からそう感じたこともあったが……
リリアナは自分で乗り越える強さがある」
「そうですか……?」
「あぁ、あの高さから、即席ロープで逃げ出すとは思わなかったからな」
リリアナが苦笑すると、彼の手が頬に触れ、ブロンドの髪を愛おしそうに揺らす。
「なにより、その歌声に魅せられてしまった。恐らく、初めて聴いたときから――」
何度目かの口づけを受け入れる。リリアナが甘い息を零すと、今度は早めに解放してくれた。
それがどこか物足りなくて、リリアナはゆっくり身を預ける。
熱く脈打つ彼の心音が、溶け合って一つになっていった。
――――――――
第二章完▶第三章へ続く
13
あなたにおすすめの小説
断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました
由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。
このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。
「――だったら、その前に稼げばいいわ!」
前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。
コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。
そんなある日、店に一人の青年が現れる。
落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。
しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!?
破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。
これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む
ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。
政略結婚のはずが、完璧公爵の溺愛が子リス系令嬢を解き放ちました
宮野夏樹
恋愛
「冷徹」と噂されるヴァレリオ公爵ジュリアンと、淑女らしからぬ「男前」な本性を隠すリシェル伯爵令嬢。
政略結婚で結ばれた二人は、すれ違うばかりの初夜を過ごし、互いの距離は開く一方だった。
だが、ある秘密の趣味が露見したことで、完璧な公爵の仮面が剥がれ落ち、リシェルへの底なしの溺愛が止まらなくなる! 完璧主義の公爵が、リシェルを「可愛いもの」と認識した瞬間から、公爵邸は甘く蕩けるような空気に包まれる。
一方、執拗な嫌がらせを繰り返す邪魔な存在、シャルロッテの出現。
しかし、ジュリアンは「俺の可愛い妻を傷つける者は、決して許さない」と、その絶対的な愛と庇護で全てを排除。
そして、リシェルの長年のコンプレックスだった「男前」な本性も、ジュリアンの愛によって全て肯定され、真の幸福を掴む。
完璧公爵の強すぎる愛で、政略結婚から始まる「愛され新婚生活」は、予想もしない甘さで満たされていく——。
※以前投稿したものの修正版です。
読みやすさを重視しています。
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?
桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。
生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。
(……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
もちもちほっぺ
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる