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最終章
4-1 破滅の始まり
しおりを挟む今日はナターシャの処分の日だった。
リリアナの体調不良は、ナターシャが指示して薬をすり替えていたせいだった。
動機は、リリアナが叔父の横領を暴いたことを逆恨みしたという。
全財産没収の上、国外追放――
処分を言い渡されたナターシャは、冷たい石床の上で俯いたまま何も言わなかった。
彼女が乗った馬車は、脱走を阻む兵以外は見送りもなく、ひっそりと城を去った。
ユリウスが部屋に入る。
「先ほど、ナターシャ様が発たれました……」
「ご苦労だった」
オスカーは、わずかに息を吐いた。
ナターシャのことは城内の者にも伏せていた。
ユリウスが改めて確認する。
「リリアナ様にもお伝えしなくて良いのですか?」
「あぁ。余計な気を回させたくない……」
その表情は、どんな感情も読み取れない。
ユリウスが頷いたのを見ると、オスカーは「そろそろだな」と部屋を出た。
向かう先は、リリアナのために作った防音室だった。
扉を開けると、
「オスカー様! 成功しました!」
リリアナがロザリオを握りしめ、興奮気味に報告する。
このロザリオはオスカーの魔力が込められており、歌ってもリリアナの力が暴走しないように助けてくれる。
「よくやった」
なんとなしに暗く見えるオスカーを、リリアナはじぃっと見て、小首をかしげる。
「オスカー様、何かありましたか……?」
わずかにオスカーの眉が跳ねるのをリリアナは見逃さない。
やはりなにかあったのだ。
「もしかして――」
「いや、悪いな。いつまでもこんな狭い防音室で。いずれ国民に説明して、音楽をエルジオに取り戻そう」
ごまかすように遮られた。
気になるが、こうなった彼が簡単に口を開かないことをしっている。
リリアナは問いただすかわりに、ぎゅっと彼の手を握る。
「十分です。公の場で歌えるようになるには色々整理が必要ですから。それに……」
小さな声でぽつりと言う。
「今は、国の立て直しが先ですから……」
ナターシャと音楽のこと以外にも、エルジオ国には、大きな問題があった――
防音室の扉がわななく。
ユリウスが駆け込んできた。
「オスカー様! 大変です。リタ国が……」
部屋が一瞬で緊張感に包まれる。
リタ国――エルジオの天然資源を巡り、近頃良くない関係だった。
先月、一方的に条約の破棄を言い渡されていた。
「リタ国が軍を伴い、国境を越えました……!」
「そんな……それは侵略ではありませんか。このままでは戦争に……」
戦争になれば、この国は一体どうなってしまうのだろうか。
青ざめたリリアナとは対照的に、オスカーは冷静に指示を出した。
「ユリウス、軍議を開く。司令官たちを集めてくれ」
「かしこまりました」
ユリウスの足音が遠ざかると、オスカーはリリアナに向き直った。
「大丈夫だ」
落ち着いた声が響くと、本当に安心してしまいそうな気になるが、リリアナはかぶりを振った。
またオスカーは一人で抱え込むつもりなのではないか――
今にも泣きそうなリリアナを見ると、オスカーはふっと微笑み、頬に軽くキスをする。
「行ってくる」
庭に散歩にでも行く調子で言い残し、オスカーは静かに部屋を出ていった。
その背中は、なぜか遠く見えてリリアナの心をざわつかせた。
そして、その予感を裏付けるように――
その日のうちに、オスカーは開戦を宣言した。
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