完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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百章 パラレルワールド

4-9 炎辰と劉剣の会話

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 声が消え、翠蓮が一度呼吸を置くと、劉剣は静かに微笑んだ。

「うん……いい歌だな……」
 ぽつりと呟き無言になる彼は、いつもの豪快な副将とは違って見えた。
 翠蓮は何かに気づいたのか、おもむろに暖炉に手を指し示す。

「冷えますか……?」
 その言葉で、劉剣は自分の手が震えていたことに気づいたようだ。
 首を横に振り、いつもの調子に戻った。

「いや、寒くはないんだ! ありがとな」

 眉を下げ、心配そうな表情をする翠蓮。劉剣はそれを取り払うように、彼女の肩を軽くたたく。
「それより、今日くらい中で休んだらどうだ。空き部屋があったよな?」
 
 劉剣は首を回し、炎辰に尋ねる。

「そうだな、今日は部屋で休め」

 炎辰の言葉に、翠蓮は驚いた顔をした。

 無理もなかった。翠蓮は、炎辰が自分に危害を加えた人物なのではと疑っていた。
 それを無しにしても、彼は後宮で翠蓮に威圧的な態度を取り、行軍の挨拶時も嫌味を言った。そして今日も、今の今まで翠蓮を存在しないかのように扱っていたのだから。

 炎辰は、何のことはないというように続ける。

「歌が多少は役に立つと、数値に表れているんでな。
お前は刃だ。野に晒すか、戦に備えるかの違いに過ぎん」

 刃――その言葉に、翠蓮は瞳を切なげに揺らした。


「それは……ご命令でしょうか」

「それ以外に何がある」
 静かだが、有無を言わせない声だった。
 翠蓮は唇を結び、お辞儀をする。

「……御心遣い、感謝申し上げます」

 軍議室を出ていこうとする背を、炎辰の声が追う。

「明日から、歌は軍歌に限れ」
 それを聞くと、翠蓮はさっと身体ごと部屋に向き直る。怯えるように、手を胸の前で握っている。

 わずかな望みを打ち砕くように、炎辰は冷たい声で告げる。

「これも命令だ」

 その言葉に、翠蓮の手は力なく解け、胸からすっと降ろされる。

「仰せの通りにいたします……」
 深く緩やかに腰をおると、翠蓮は今度こそ軍議室を出て行った。
 
◇ ◆

 二人残された軍議室で、劉剣は炎辰の前に腰を下ろした。

「……なんで、わざわざ傷つける言い方するかな」

「事実だろう」

「歌えなくなったらどうすんだよ」

 炎辰は、目の前に広げた地図に目を落としていたが、不敵な笑みを劉剣に向けた。

「歌えなくなったら――な。つまり、あの声を"使える"と思っているのは、お前も同じなのだろう」

「ちが……」
 劉剣はそこで声を止めたかと思うと、机に突っ伏した。両手で頭を抱えている。
「違わないのか? 俺も……彼女を使える兵器扱いしてるって……?」

「さぁな。どのみち、あの声が兵の心を惑わすことになれば面倒だ。
お前のように沈まれては敵わん」

「確かにさっきので、意外と自分が張り詰めてたことに気づいた……
けど、惑わすって言い方は悪意があるだろ――」

 劉剣はふと、机から顔を上げた。
「いつか遠征で、そんな話聞いたよな。 声で人を惑わして、処罰された一族がいたとか……」

 炎辰の返事はない。

「『声を持つ者を讃えた』って史実と随分違ったな。今までは、そもそも歌にそんな影響力あるのか? って思ってたけどな……」

 暖炉でパチっと音がし、火が小さくなった。それを見た炎辰は立ち上がり、薪を暖炉に焚べる。

「とにかく、あの女はこれしきのことでは沈まん」

「そうか? 俺には脆く見えたけどな。
見た目じゃなく、共感性が強いって言うのかな、人の傷みに敏感で……」


「自分の傷みに鈍感、か……」

 薪は乾いた音を立て火を大きくする。
 眩しいのか、炎辰は目を細めていた。

「炎辰、お前やっぱり――」
 劉剣が言いかけた、その時――


コンコン――

「失礼いたします」
 伝令だった。
 部屋の空気が一瞬で張り詰める。

「前線軍は兵の二割を失っております。
 このままでは、兵の交代では持たず、支援を要請しているとのこと――」

 炎辰は即座に机上の地図へ視線を落とした。
「地点はどこだ」

「はっ、西嶺山せいれいざんにございます」
 炎辰の眉がわずかに寄る。劉剣の口が開く前に、彼は決定を下した。

「今夜のうちに支援を出す。都にもそのように伝えろ」

 伝令は頭を下げ、身を翻し去って行った。

 軍議室には不穏な空気が漂う。
 劉剣も、炎辰と共に地図に目を落とす。

「なぁ、前線軍って……豪雨で河沿いを避けて、山側の迂回路に切り替えてたよな……」

 炎辰も険しい表情をしている。
「敵の動きが早すぎるな……」

 二人は言葉を失い、それぞれ黙って地図を見つめ続けた。
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