完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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百章 パラレルワールド

4-11 都では

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 一方の陽華宮ようかきゅうでは――

 陳偉チンエイが慌ただしく、書斎に入る。
「蒼瑛さま、ついに毒薬の販路を突き止めました」

 蒼瑛は思わず立ち上がった。
「誰だ――」

「蒼瑛さまの予測通り、清苑セイエン妃殿にございます」 

 裏で危険薬を密輸入しているという噂がある、薬商――
 表向きは市井の店だが、やはり黒だったようだ。陳偉チンエイは興奮気味に続ける。

「凌暁におとり捜査を頼んだ甲斐がありましたな」
 凌暁は、さる高貴な方の使いということにし、身分を偽り潜入していた。表向きは薬商であり、向こうも簡単には尻尾を出さない。信用してもらうまでに大分時間を要してしまった。

「帳簿に購入履歴が残っており、写しもこの通りにございます」

 そこには暗号で名が記されているが、読み解くと確かに清苑セイエン妃を示していた。

「よくやってくれた。礼を言う。凌暁も後で労わなければな」

 これでひとつ、翠蓮への脅威を減らすことができる――
 蒼瑛は、わずかだが肩の荷がおりた。
 しかしまだ迷いどころもある。

「問題はいつ罪を暴くかだな……」

 今すぐ清苑セイエン妃を罰するのは簡単だ。しかし、この毒殺事件に関わったのは、清苑妃と紫雲だけだと断言はできない。
 紫雲の楽譜を通して毒がやりとりされたことからも、少なくともあと一人は関わった者がいるはずなのだ。

 それに、懸念はまだある。
 皇后だ――


(一体なぜ皇后は翠蓮を?)

 初めは、楽府の主戦力である翠蓮を行軍に出すことで、蒼瑛派の弱体化をはかったのかと考えた。
 しかし、それなら蒼瑛に楽府を辞任させれば済む気もする。実際、自分の管轄で罪人を二名出した件で、蒼瑛は窮地に追いやられていた。

 皇后は、蒼瑛を助ける代わりに、わざわざ翠蓮を行軍に出したのだ。

 蒼瑛は、一旦思考を整理しようと腰を下ろす。

(皇后の目的は私ではなく、翠蓮なのだろうか)

 考えられるのは二つ。

 一つは翠蓮の歌に危機感を持ったから。
 あの夜宴で、皇后は翠蓮の声に涙を流した。
 たかが歌と思っていたものに心を動かされ、危険視したのかも知れない。
 実際、陽国には「声を持つものが争いを鎮めた」という神話や歴史がある。まつりごとを行なう上で、邪魔になりそうなものを早めに排除したというところか。



 二つめは――

 蒼瑛は顎を手でなぞり、長考に入っていた。

(兄上に覚えた違和感――)
 初めは小さなものだった。
 炎辰はあの通り、人に興味を持ったり執着をしない。皇位争いをしている蒼瑛には別だが。

 それが、翠蓮には距離を詰め威嚇し、演技の可能性もあるとは言え、彼女を助け御医呼んだ。

 もちろん、炎辰が翠蓮に恋しているなどと単純には思わない。

(しかし、兄上が翠蓮に執着しているのは確かだ……)

 皇后はそれを恐れたのかも知れない。自身の息子であり完璧な駒――
 炎辰の感情に、つけ入るかも知れない女性を。


「蒼瑛さま? この件はいかがなさいますか?」
 陳偉チンエイに声をかけられ、ハッとする。
 蒼瑛は深く息をつき、机の上の帳簿をじっと見つめる。


「少々弱いが、切り札としてとっておくか――」
 蒼瑛の予感が外れていなければ、翠蓮が行軍から帰った後も、皇后の目は厳しいものになるだろう。

 その時、皇后派の清苑セイエン妃の罪があれば、多少は戦えるかも知れない。


「皇后はすでに承知な気もするがな……
先に切られることのないよう、清苑妃に牽制だけは忘れないでくれ」

 蒼瑛の言葉に、陳偉は黙って頭を下げた。
 
「蒼瑛さま! 失礼いたします!」

「凌暁か、今回は良く……」

「それどころではありません!」
 よく見ると凌暁は顔を青白くさせている。蒼瑛はわずかに身構える。

「何があった?」


「それが」
 凌暁はぶるぶると肩を震わせている。やっとの様子で言葉を述べた。

「……皇帝陛下が倒れられました」

「何? 父が?」

「はい、御医が総出で当たっておりますが……現在意識を失われて……」

 そこへ、皇帝直属の欽使きんしが表れる。蒼瑛は思わず息を止めた。


(まさか……)
 崩御の知らせではないかという思いが頭をかすめる。

「欽使にございます。
本来、国の大事はすべて皇帝陛下の御裁可を仰ぐべきところ――
陛下は現在、御意識戻らず。
内廷にて合議の結果、本件一切を、蒼瑛殿にお預けするとの勅命を賜り、参上いたしました」


「何の件だ」

「はっ――援軍及び、炎辰殿下の軍に出陣許可をお願い申し上げます」

「――何だと」

「つきましては、早急に内殿にご参上ください」
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