完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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四章 最終章

4-2 かくせい ※4-5で本編完結予定

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 処置室に入ってきたのは炎辰だった。
 助けてくれたと聞き、彼に対する警戒心は少し緩んでいた。
 翠蓮は手で身体を支え、ゆっくり半身を起こす。


 炎辰は翠蓮の右横にあった椅子に腰掛けると、見舞いの言葉もなしに口火を切った。

「宮廷を去れ」

「なぜですか?」

 炎辰は答えなかった。翠蓮の身を案じているのか、彼の拳は、膝上で震えるほど強く握りしめられていた。
 翠蓮がそっと手を重ねると、彼の骨ばった手の甲は冷たかった。

「そんなに強く握っては、傷つきますよ」
 はっとしたように炎辰は、翠蓮を見た。

「俺が、怖くないのか?」

「怖くないです。今は……」
 今の炎辰には、人を威圧し支配するような毒気は感じられなかった。

 炎辰は再度確認する。

「出ていく気はないんだな?」

 ここを出た所で、翠蓮に戻る場所などなかった。答える代わりに力なく笑う。
 そんな翠蓮を見て、炎辰は自身の襟元から何かを取り出した。


 彼が取り出したのは首飾りだった。
 それを見て翠蓮は驚いた。

 翠蓮が持つ、蒼い首飾りと瓜二つだったからだ。

 違うのは色だけだった。炎辰の手にかかった首飾りは、炎のような赤色をしていた。


「翠蓮……もしここで生きていくなら、自分が何者か思い出せ」
 炎辰の力強い言葉に誘われて、何かが揺り動かされた。

(思い出す……?)
 翠蓮は両手で頭を押さえる。
 頭痛がする。まるで痛みが警告を出しているようだ。


 炎辰は立ち上がると、衣類籠にある蒼い首飾りを手に取り、自身の半月型の赤い首飾りと合わせた。
 二つの石は"かちり"と嵌ったような音がした。
 初めから二つで一つであったかのように、一つの円になる。

 円は淡い光を帯び始めた。
 翠蓮が息を飲んだ次の瞬間、壁に二匹の龍の影が映し出された。

 それは、いつか見た"皇族の紋章"だった。

 頭痛が酷くなる。
 なぜ母の首飾りが、炎辰の首飾りと対になってこんなものを映し出すのか。

 動かないでいる翠蓮の両肩に、炎辰は手を置いた。


「思い出したか?」

 翠蓮は割れそうになる頭を、強く左右に振った。


「いや、知らない……」

 肩を掴む炎辰の手に力が入った。
 その痛みが、逃避しようとする翠蓮を、この場へと引き戻す。

「運命から目を背けるな!」
 炎辰の叫び声に、翠蓮は頭を押さえていた手を下ろした。
 炎辰の紅い瞳――そこに自分が映っているのを見た。


 その刹那、翠蓮の中で何かが音を立てて弾け、視界が真っ白に感じられた。思わず目をつむる。
 記憶の中で、粉々になった翡翠色の欠片が組み合わさって、"形"を作っていく。

 『やめて』という心の声を無視して、まぶたの裏で、神秘的な輝きを放つ石が完成した。

 それは、翡翠の首飾りだった。

 翠蓮は、震える身体を両腕で抱き締める。
  

翠玉すいぎょく……?」
 

 全てを思い出したわけではない。
 ただ、母のこと、蒼い首飾り、幼い頃の蒼瑛、"声の力"――
 そんな記憶の断片が次々に浮かび、心と意識をかき乱す。


 炎辰の声が、遠くに聞こえる。

「皇后も、この力にきっと気づいた。行くところがないなら、俺のところに来い」

 翠蓮は、その言葉の真意を理解できなかった。  
 思考が追いつかない。整理しようと、手で伏せた顔を覆った時、


「翠蓮」
 
 声に呼び寄せられ顔を上げると、掴まれた肩ごと炎辰に引き寄せられた。
 次の瞬間、沈香じんこうに似た、ほの苦い香りが翠蓮を包む。


(え――) 

 熱は一瞬で消えた。
 口づけられたのだと理解したときには、炎辰はもう身を離していた。


「なんで……?」
 翠蓮はやっと、それだけ言った。
 炎辰は寂しそうに笑った。いつでも自信と皮肉に満ちた彼の、初めて見る顔だった。


 翠蓮は、去って行く背に声をかけることも出来なかった。
 後には、理由の分からない口づけと、沈香の香りだけが部屋に残っていた。
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