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お断りします
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その日の就業時間少し前。
紫音の所に島田と理央がやってきた。
「水森さん、急で悪いんだけど、吉田の仕事、手伝ってやってくれないか?」
「はい?」
島田のその言葉に、紫音は顔をしかめた。
「吉田さんの仕事って、新プロジェクトの方の仕事ですか?」
「ああ。向こうで苦労しているらしくって。指導役だったよしみで、助けてやってくれないか?」
「水森先輩、すみません。お願いします」
すまなそうに肩をすぼめ、頭を下げる。
昼に話を聞いていなかったら、思わず『いいよ』と言ってしまいそうなしょんぼりした様子だったが、
『騙されないわよ。データまとめを渋々承諾した後も、無駄話ばっかりだし、しょっちゅうどっか行って戻ってこないって、聞いたんだからね』
紫音は一度深呼吸をし、二人を見た。
「すみませんが、お断りします」
「えっ?」
二人とも驚いたように紫音を見る。
「こっちでやっていた仕事が残ってるのなら勿論フォローさせてもらいますけど、もう、別の仕事ですよね。全く関係ないんですから、そちらのチーム内でどうにかして下さい」
「え、でも……実は向こうのチームの人達、わたしの事、気に入らないみたいで……リーダーも、わたしにだけキツくあたるんです」
「という事なんだよ。で、無理な量の仕事を押し付けられたそうなんだ。今回だけ、助けてやってくれ。俺からも頼む」
諦めない二人に、紫音は少し悩み……、
「……じゃあ、リーダーさんに言って、了承とってからにします。わたし、リーダーさんと一緒に仕事した事あるんですよ。一人では無理だって言っているから、手伝いますって」
「えっ?」
理央の表情が歪む。気のせいかもしれないが、睨まれているようにも感じられる。
しかし、今きちんと言わなければ駄目だ、と、紫音は理央としっかりと目を合わせて言った。
「だって、吉田さんがどの程度仕事できるか把握してないと、今後の仕事にも支障が出てくるじゃないですか。わたしが今回手伝って課題クリアしたら、今後も、同等の働きを期待されて、仕事を任せられますよね。そしたらまた、わたしが手伝うんですか? そんなの困ります。わたしにはわたしの仕事があるし、そっちの仕事の手伝いで本来の仕事量が減ったら、わたしの評価も下がりますから」
「そんな……」
理央は涙ぐんだが、紫音は『惑わせられない!』と、心を落ち着ける為深呼吸した。
「ちゃんと仕事をしなさい。そして無理なら、ちゃんと笹原リーダーに言いなさい。笹原さんは、無理な事を言いつける人じゃないわ」
きっぱりとそう言うと、理央は『わかりました』と、不貞腐れた声で言った。
「もういいです。自分でやります!」
「そうね、そうして。それが、当たり前なんだから」
理央の不満を隠さない態度は無視する事にし、紫音はそれ以上話を聞く気はないという事を示すように自分の仕事に戻った。
紫音の所に島田と理央がやってきた。
「水森さん、急で悪いんだけど、吉田の仕事、手伝ってやってくれないか?」
「はい?」
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「ああ。向こうで苦労しているらしくって。指導役だったよしみで、助けてやってくれないか?」
「水森先輩、すみません。お願いします」
すまなそうに肩をすぼめ、頭を下げる。
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「えっ?」
二人とも驚いたように紫音を見る。
「こっちでやっていた仕事が残ってるのなら勿論フォローさせてもらいますけど、もう、別の仕事ですよね。全く関係ないんですから、そちらのチーム内でどうにかして下さい」
「え、でも……実は向こうのチームの人達、わたしの事、気に入らないみたいで……リーダーも、わたしにだけキツくあたるんです」
「という事なんだよ。で、無理な量の仕事を押し付けられたそうなんだ。今回だけ、助けてやってくれ。俺からも頼む」
諦めない二人に、紫音は少し悩み……、
「……じゃあ、リーダーさんに言って、了承とってからにします。わたし、リーダーさんと一緒に仕事した事あるんですよ。一人では無理だって言っているから、手伝いますって」
「えっ?」
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しかし、今きちんと言わなければ駄目だ、と、紫音は理央としっかりと目を合わせて言った。
「だって、吉田さんがどの程度仕事できるか把握してないと、今後の仕事にも支障が出てくるじゃないですか。わたしが今回手伝って課題クリアしたら、今後も、同等の働きを期待されて、仕事を任せられますよね。そしたらまた、わたしが手伝うんですか? そんなの困ります。わたしにはわたしの仕事があるし、そっちの仕事の手伝いで本来の仕事量が減ったら、わたしの評価も下がりますから」
「そんな……」
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「もういいです。自分でやります!」
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