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第四章
王妃殿下のお茶会
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レースやフリルを付けていないシンプルな七分袖の青いシルクのドレスに、王太子の成年パーティーで身に着けたのと同じ形だが、パールは付けていないケープを重ねる。
「もっと凝ったドレスが沢山ありますが……これでよろしいのでしょうか。ケープだってパール付きの豪華なものがあるのに……」
「王妃様より豪華な格好は良くないから、これくらいでちょうどいいのよ。シンプルでも高価で貴重なドレスだから、招かれてとても光栄です、という気持ちは充分伝わるでしょう」
「なるほど~、そういうものなんですね」
「さすがエリザベート様です」
侍女達は感心しながら、エリザベートにせっせと化粧をし、髪をセットし、ドレスを着付け……それを見学しているマダム・ポッピンはコクコク頷く。
「エリザベート様は、そういう事をしっかり考えていて素晴らしいんですよ。学園の卒業パーティーで着るドレスも、卒業生のお嬢様方に配慮したものをご希望ですし」
「さすがです! エリザベート様」
「お優しいです!」
「素晴らしいです!」
「お仕えできて誇らしいです!」
(侍女達から思われている、怖くてキツくて癇癪持ちという悪い印象を払拭しようと、ここ数か月努力してきたのが報われたわね。でも、あまりにも褒められるのは恥ずかしくなるわ……話題を変えましょう)
「……ところで、王妃殿下への贈り物の部屋着の用意は大丈夫かしら?」
「ええ、もちろんです」
「エリザベート様、こちらでございます」
見事、王妃殿下への贈り物として選ばれ、金一封をもらったお針子のアシュリーが、満面の笑みでスリップドレスとその上に羽織るガウンを掲げた。
スリップドレスの裾とガウンの襟元には、王妃の好きな黄色いバラの刺繍が入っている。
「お揃いのガウンなんて、とても良い発想だったわね」
「ありがとうございます! では、お包み致しますね」
箱に入れ、リボンがかけられる。
「アメリア、お菓子の用意はいいかしら?」
「はい。常温の物と、冷やしてお持ちする物と、別々にお包みしております」
「完璧ね。ルークの準備はどうかしら」
「はい、ちゃんと制服を着て馬車の前に待機しております」
「……では、参りましょうか」
(準備は完璧なんだから、大丈夫。大丈夫よ! 頑張れわたし!)
緊張する自分を鼓舞しながら、エリザベートは王宮に向けて出発した。
「エリザベート・スピネル公爵令嬢様、お待ちしておりました」
馬車が王宮に到着すると、大勢の侍女や侍従達に丁寧な挨拶で迎えられ、エリザベートとルークは、美しい庭園へと案内された。
ルークはどこか、別の所で待機させられるだろうと思っていたのだが『王妃殿下より、護衛の方も一緒にと仰せつかっております』との事。
(特別待遇ね。でも……)
贈り物の箱を持ち、少し後ろを歩くルークを振り返ってみる。
(ああ、緊張している顔だわ……って、そりゃあそうよね、わたしだってものすごく緊張しているもの)
しばらく歩いて行くと、美しく甘い香りが漂うバラ園にたどり着く。そしてそこに、席が設けられていた。
「王妃殿下に、エリザベートスピネルがご挨拶申し上げます」
「招待を受けてくれて嬉しいわ。今日のお客様はエリザベート嬢、貴女だけよ。気楽にしてちょうだい」
「ありがとうございます。本日は、王妃殿下にお贈りしたい品をお持ち致しました」
「まあ! ありがとう。さあ、掛けて」
「失礼致します」
ルークから荷物を受け取り、席につく。
一仕事終えたルークは、侍女に少し離れたテーブルへと案内されたようだ。
「先のパーティーで、王妃殿下がわたくしの作った菓子にご興味がおありだとお聞きしましたので、僭越ながら、何種かお持ち致しました」
「嬉しいわ。とても気になっていたの。どんなものか教えてもらえる?」
「かしこまりました」
軽く頭を下げ、エリザベートは自分の前に置いた箱の一つを、中央に移動させた。
「あら! 素敵ね!」
下は浅く、被せていた深型の蓋を外すと、そこには焼き菓子が綺麗に並べられていた。
「こちらはクッキーという物です。固くて持ち運びしやすいく、手でつまんで食べます。そして隣が、以前お召し上がり頂いたパウンドケーキです」
「そうそう、これ!」
王妃の顔がパッとほころぶ。
「美味しすぎて夢にまで出てきたわ! もう一度食べたいと、ずっと思っていたのよ」
「今回は王妃殿下にお召し上がりいただくということで大人の味を意識し、乾燥果物をお酒に漬けた物を入れて焼いてみました」
「まあ! 楽しみ! さっそくいただきたいわ」
しかしエリザベートは『申し訳ございません』と頭を下げた。
「実はもう一つ、最近完成させたばかりの菓子をお持ちしております。これはまだ、公爵家外に出した事がない物で、冷たい状態が美味しいので、氷魔法を施した箱でお持ち致しました。まずはこちらからお召し上がりいただいてもよろしいでしょうか」
「そういう事ならもちろん」
「ありがとうございます」
そう言って、先ほどの物より小さな箱を隣りに並べて蓋を外すと、フワッと冷気が溢れた。中には茶色い一口大の丸いものが、縦横4列、計16個並べられている。
「……これは?」
「はい、こちらはシュークリームと申します。薄く膨らんだ生地の中に、たっぷりの特製クリームを詰めました。手でつまんでも、フォークで刺してもどちらでも良いのですが、できれば一口で、口の中に入れていただければと思います。かじる場合は中のクリームが出てきますので、ドレスを汚さぬようご注意下さい。……あの、もしよろしければ、毒味も兼ねて、わたくしが先に食べてみますが」
「ええ、そうしてちょうだい」
「では、王妃殿下に、わたくしが食べる物を決めていただいてもよろしいでしょうか」
「では、これを」
「はい、かしこまりました」
エリザベートは、王妃が指さしたシュークリームを皿に一旦置いてから、一口でパクリと食べて見せた。
「もっと凝ったドレスが沢山ありますが……これでよろしいのでしょうか。ケープだってパール付きの豪華なものがあるのに……」
「王妃様より豪華な格好は良くないから、これくらいでちょうどいいのよ。シンプルでも高価で貴重なドレスだから、招かれてとても光栄です、という気持ちは充分伝わるでしょう」
「なるほど~、そういうものなんですね」
「さすがエリザベート様です」
侍女達は感心しながら、エリザベートにせっせと化粧をし、髪をセットし、ドレスを着付け……それを見学しているマダム・ポッピンはコクコク頷く。
「エリザベート様は、そういう事をしっかり考えていて素晴らしいんですよ。学園の卒業パーティーで着るドレスも、卒業生のお嬢様方に配慮したものをご希望ですし」
「さすがです! エリザベート様」
「お優しいです!」
「素晴らしいです!」
「お仕えできて誇らしいです!」
(侍女達から思われている、怖くてキツくて癇癪持ちという悪い印象を払拭しようと、ここ数か月努力してきたのが報われたわね。でも、あまりにも褒められるのは恥ずかしくなるわ……話題を変えましょう)
「……ところで、王妃殿下への贈り物の部屋着の用意は大丈夫かしら?」
「ええ、もちろんです」
「エリザベート様、こちらでございます」
見事、王妃殿下への贈り物として選ばれ、金一封をもらったお針子のアシュリーが、満面の笑みでスリップドレスとその上に羽織るガウンを掲げた。
スリップドレスの裾とガウンの襟元には、王妃の好きな黄色いバラの刺繍が入っている。
「お揃いのガウンなんて、とても良い発想だったわね」
「ありがとうございます! では、お包み致しますね」
箱に入れ、リボンがかけられる。
「アメリア、お菓子の用意はいいかしら?」
「はい。常温の物と、冷やしてお持ちする物と、別々にお包みしております」
「完璧ね。ルークの準備はどうかしら」
「はい、ちゃんと制服を着て馬車の前に待機しております」
「……では、参りましょうか」
(準備は完璧なんだから、大丈夫。大丈夫よ! 頑張れわたし!)
緊張する自分を鼓舞しながら、エリザベートは王宮に向けて出発した。
「エリザベート・スピネル公爵令嬢様、お待ちしておりました」
馬車が王宮に到着すると、大勢の侍女や侍従達に丁寧な挨拶で迎えられ、エリザベートとルークは、美しい庭園へと案内された。
ルークはどこか、別の所で待機させられるだろうと思っていたのだが『王妃殿下より、護衛の方も一緒にと仰せつかっております』との事。
(特別待遇ね。でも……)
贈り物の箱を持ち、少し後ろを歩くルークを振り返ってみる。
(ああ、緊張している顔だわ……って、そりゃあそうよね、わたしだってものすごく緊張しているもの)
しばらく歩いて行くと、美しく甘い香りが漂うバラ園にたどり着く。そしてそこに、席が設けられていた。
「王妃殿下に、エリザベートスピネルがご挨拶申し上げます」
「招待を受けてくれて嬉しいわ。今日のお客様はエリザベート嬢、貴女だけよ。気楽にしてちょうだい」
「ありがとうございます。本日は、王妃殿下にお贈りしたい品をお持ち致しました」
「まあ! ありがとう。さあ、掛けて」
「失礼致します」
ルークから荷物を受け取り、席につく。
一仕事終えたルークは、侍女に少し離れたテーブルへと案内されたようだ。
「先のパーティーで、王妃殿下がわたくしの作った菓子にご興味がおありだとお聞きしましたので、僭越ながら、何種かお持ち致しました」
「嬉しいわ。とても気になっていたの。どんなものか教えてもらえる?」
「かしこまりました」
軽く頭を下げ、エリザベートは自分の前に置いた箱の一つを、中央に移動させた。
「あら! 素敵ね!」
下は浅く、被せていた深型の蓋を外すと、そこには焼き菓子が綺麗に並べられていた。
「こちらはクッキーという物です。固くて持ち運びしやすいく、手でつまんで食べます。そして隣が、以前お召し上がり頂いたパウンドケーキです」
「そうそう、これ!」
王妃の顔がパッとほころぶ。
「美味しすぎて夢にまで出てきたわ! もう一度食べたいと、ずっと思っていたのよ」
「今回は王妃殿下にお召し上がりいただくということで大人の味を意識し、乾燥果物をお酒に漬けた物を入れて焼いてみました」
「まあ! 楽しみ! さっそくいただきたいわ」
しかしエリザベートは『申し訳ございません』と頭を下げた。
「実はもう一つ、最近完成させたばかりの菓子をお持ちしております。これはまだ、公爵家外に出した事がない物で、冷たい状態が美味しいので、氷魔法を施した箱でお持ち致しました。まずはこちらからお召し上がりいただいてもよろしいでしょうか」
「そういう事ならもちろん」
「ありがとうございます」
そう言って、先ほどの物より小さな箱を隣りに並べて蓋を外すと、フワッと冷気が溢れた。中には茶色い一口大の丸いものが、縦横4列、計16個並べられている。
「……これは?」
「はい、こちらはシュークリームと申します。薄く膨らんだ生地の中に、たっぷりの特製クリームを詰めました。手でつまんでも、フォークで刺してもどちらでも良いのですが、できれば一口で、口の中に入れていただければと思います。かじる場合は中のクリームが出てきますので、ドレスを汚さぬようご注意下さい。……あの、もしよろしければ、毒味も兼ねて、わたくしが先に食べてみますが」
「ええ、そうしてちょうだい」
「では、王妃殿下に、わたくしが食べる物を決めていただいてもよろしいでしょうか」
「では、これを」
「はい、かしこまりました」
エリザベートは、王妃が指さしたシュークリームを皿に一旦置いてから、一口でパクリと食べて見せた。
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