拝啓 愛しの部長様

鏡野ゆう

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番外小話

同窓会 中編

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 駅前のターミナルホテルが今回の同窓会の会場。クラスだけではなく学年全体での同窓会ということだったので結構な人数が集まっていた。あちらこちらで久し振りに会った友達との近況報告やら情報交換で賑やかなことになっている。全然変わってない子もいれば、誰?って感じで名前を聞かせてもらわないと直ぐには分からない子もいたりして、八年間会わなかっただけなのにって驚いちゃうことが数度。たかが八年、されど八年って感じだ。

「宮内さんだよね」

 担任の先生と話をしている時に声をかけてきたのは宮島君。当然のことながら記憶しているよりもずっと大人っぽくなっていて分かっていたのにちょっとビックリ。記憶の中のイガグリ頭の宮島君は何処へ?な感じかな。

「宮島君、だよね、お久し振り」
「もう就職してるんだっけ?」
「うん。MCNの商品開発にいるの」
「学校で言ってたもんな、コンビニの商品開発って面白そうって。ちゃんと初志貫徹したんだ」
「えへへ。希望通りの部署につけて怖いぐらいだよ」

 もともとスイーツは食べる方が好きなんだけど、今の会社に就職して商品開発の仕事に携わりたいって考えるようになったのはコンビニの裏側を特集した番組を見たのがきっかけなのだ。色々と苦労することもたくさんあるけど自分達で新しい商品を考えるのって凄く楽しくて面白い。

「宮島君は大学に通ってるんだよね」
「ああ。学校の先生になりたくてさ、教育学部に入ったんだ」
「あれ? 野球は?」
「野球は続けてるよ。ただ最近は勉強の方を優先させてるから、なかなかできないんだけどね」
「へえ、宮島君が先生か。なんだか賑やかで元気な先生になりそう」
「それって小学校の時の俺の印象から?」
「うん。だってクラスのムードメーカーだったし盛り上げるのも上手だったでしょ?」

 学校での記憶を懐かしく思い出しながらそう言うと、宮島君は少しだけ困ったような恥ずかしがっているように笑みを浮かべた。

「ところでさ、宮内さんはこっちには戻らないつもり?」
「ん?」
「ほら、最近はUターンとか言われてるからさ」
「お爺ちゃん達のリンゴ畑や田んぼは叔父さん夫婦が引き継いでくれるし、うちのお父さんは研究職で跡取りが必要な仕事でもないしね。母親にはいい人が見つかったんだったらそっちで根を下ろしても良いわよって言われてる」
「いい人?」
「うん……今ね、お付き合いしている人がいるんだ。そんな話まだ一度もしてないからどうなるかは分からないんだけどね」

 年末年始に実家に連れて行ってもらってから少しだけ『結婚』の二文字を意識したのは本当。だけど部長は一度離婚しているから、まだ結婚とかそういうのはまだ考えられないんじゃないかなとは思ってるんだ。もしかしたら永久にそんな話は言い出さないかも……とか。だけど私のことをとても大事にしてくれているし、実家にだって連れて行ってくれたんだから少しぐらいそんな夢を見たって良いよね?

「そっか。付き合っている人、いるんだ」
「うん、同じ職場の人なの。なんて言うか私が押し掛け女房みたいな感じではあるんだけど」
「まさか一緒に暮らしているとか?」
「まさかまさか!!」

 週末は殆ど部長の家で過ごしていて最近では部長の家のあちらこちらに私の私物が増えてきていることは事実。だけど一緒に暮らそうか?とか言われたことないし? お互いに社会的責任を持ったいい大人ですし? こういう私達の状態って何て言ったら良いんだろう……んー……週末婚? 通い婚? 通い妻? キャーーー、恥ずかしいっ!! 自分で思ったくせに急に恥ずかしくなって思わず宮島君の腕をパタパタと叩いてしまった。

「わわわ、なに、なんだよ、どうしたんだよ」
「ああ、御免なさい、ちょっと恥ずかしくて動揺しただけ」

 そんな私のことを宮島君はなんだかとっても複雑そうな表情で見下ろしてきた。

「ごめん、痛かった?」
「そうじゃなくてさ、何だか宮内さんが凄く幸せそうだなあって」
「えへへ、分かる? 職場でも会社に来てまで惚気るなって先輩達にいっつも怒られてる」

 そんなつもりはないんだけど長野部長には愛海ちゃんは毎日フルパワーで惚気ているよってよく言われる。会社の中心で愛を叫ぶ?みたいな感じらしい。おかしいなあ、そんなことしてないんだけどなあ。私と部長、公私混同はしないようにって会社では仕事絡みの会話以外は極力しないようにって配慮しているんだよ?

「本当にその人のことが好きなんだね」
「うん、就職前の面接の時にね一目惚れしたの。んで、当たって砕けろって感じで告白したようなものかな」

 酔った勢いで押し倒しましたなんて言えないのでその辺はちょっとだけ脚色。嘘はついてないから大丈夫、だよね。そこへ何故かタイミングを見計らっていたかのように薫ちゃんと小百合ちゃんがジュースを手にやってきた。

「はい、まなみん。やっとアップルソーダ確保できたよ」
「ありがとー」

 実はここのアップルソーダに使われているリンゴ、うちのお爺ちゃんが育てたリンゴなのだ。

「ところで宮島君、その様子だとまなみんの盛大な惚気攻撃を食らったみたいだけど大丈夫だった?」
「え、いやあ、まあ……宮内さんが幸せそうだから相手の人がちょっと羨ましいかな、とか」
「写真を見せてもらったけど年上の凄くカッコいい人だよ。しかもMCNの部長さんでかなりの高物件。まったくどうやったら、ぼんやりさんのまなみんがあんな高物件の男性を捕まえることが出来たのかちょっとした七不思議よね」
「小百合ちゃん、ちょっとそれ酷い。部長は私のこと凄く大事にしてくれるし捕まったなんて思ってないよ」
「はいはい、熱烈な相思相愛なのよね、御馳走様」

 私がちょっとムッとして反論すると薫ちゃんと小百合ちゃんはおかしそうにクスクスと笑った。宮島君もそんな二人につられてか口元に困ったような笑みを浮かべている。

「そんなに惚気てないよ、聞かれたことに答えただけだもん。そうだよね?」

 そんなふうに同意を求めても宮島君は困ったように笑うだけ。ちょっと、それじゃあ私が宮島君を捕まえて盛大に惚気ていたみたいじゃない!! 笑っている三人に囲まれて私はちょっとだけ憤慨してしまった。


+++++


「あ……」

 会がお開きになり先生に挨拶をすませて皆の輪から離れた場所に移動してからスマホに新しいメールが届いていることに気が付いた。部長からだ。どうしたのかな、会社で何かあったのかな。

「どうしたの?」
「んー? 職場からのメール、だと思う」
「れいの部長さん?」
「うん」

 メールを開いてみると九時に駅前で待ってるという文章と言うには短すぎる言葉。んー? 明日の九時に東京駅? ちょっと早くない? それとも夜の九時? それはそれで遅すぎない?

「駅に迎えに来てくれるみたいなんだけど、ちょっと省略しすぎな文章でイミフになってる」
「見てもいい?」
「うん」

 メールの画面を薫ちゃんに見せる。薫ちゃんはそれを見てちょっとだけ首を傾げて考え込んだ。

「ねえ、この駅前ってここの駅のことじゃない?」
「え? ここ? ホテルを出たところだよ、駅前」
「うん。だからその駅前。時間だってほら、今、八時五十分。同窓会が終わる予定は八時半って案内ハガキに書いてあったじゃない。それを読んだんじゃ?」
「でもでも長野だよ、ここ。東京からここまでって……」

 いや、でも神戸まで車で行っちゃえる人なんだからナビがあれば長野まででも平気で来ちゃうかも。同窓会のハガキ、確か部長の家に置いてきちゃってたし会場の住所なんて丸分かり……。

「電話してみる」
「その方が良いね」

 電話するとワンコールで直ぐに部長の返事が聞こえてきた。

『今どこにいる?』
「えっと、まだターミナルホテルの中ですけど」
『だったらロビーで待っている』
「本当に来てるの?」
『嘘ついてどうする。早く降りて来いよ』

 こちらが何か言う前に切られてしまったよ。

「その通りみたい。下のロビーで待ってるって」
「やっぱりね」
「何が?」
「彼氏さん、心配で迎えに来ちゃったのよ」
「心配ってなんで?」
「そりゃあ地元のクラスメートと旧交を温めれば焼きぼっくいに火がついた、なんてこともあるからじゃない?」

 三人でエレベーターに乗るとロビーのあるフロアのボタンを押す。

「えー、考えすぎだよ」
「だってそれだけ年の差があればやっぱり若い人の方がって考える子もいるだろうし? 現に同じクラスの岡田さん? 確か旦那さんが十歳年上みたいこと言っていたけど、さっき長澤君と何だか怪しげな雰囲気を醸し出していたわよ?」
「あの二人って高校の時に付き合ってたのよね、どうして別れちゃったのか知らないけど」
「え? ほんと? 私、岡田さんと長澤君が付き合っていたの知らなかった!!」

 私の言葉に薫ちゃんと小百合ちゃんは“まなみんはぼんやりさんだったからね~”と納得したように頷く。それって何気に酷くないですか? ちょっとむくれながらエレベーターから出ると部長の姿を探した。
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