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番外編 ロージー・ディクソン
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ブルージェ王国へやってきた翌朝、眠い目を擦りながらディクソン侯爵家が誇るやたらと広い練習場へ向かうと、まだ薄暗いそこにお目当ての人はいた。
しなやかでいて、無駄のない美しい動きに胸が弾む。
カンカン!カンカンカンカン!
相手をしている騎士は見たことがなかったけれど、新人にしては体つきが壮年のように出来上がっていて、よく見れば・・・・・・
「お義父様・・・?」
「おっ!ロージーか!おはよう!」
「お義父様、おはよう。・・・って、え?ここで何してるの?」
「何って、鍛練に決まってる。
今まではなかなか時間が取れなかったが、俺は元々体を動かすのは嫌いじゃないんだ」
「ヘェ~」
確かに練習着姿のお義父様はガシッとしていて、打ち合いの際にも身体はブレずに手慣れてた騎士のようだった。
「・・・おっと、もう明るくなってきてるじゃないか。
ミラが起きる前に、俺はそろそろ戻るとするか。
ジェイミー、明日も頼むぞ」
「はい」
「じゃあ、ロージー、後で食堂でな」
空が明るくなってきているのを確認すると、お義父様は足早に屋敷に向かっていった。
こんな早くから体を鍛えるなんて。
以前、お母様が護衛騎士の鍛練を見学して『皆さん逞しくて素敵ですね』一言漏らした時、お義父様は[え?ミラはああいうのが好みなのか?]驚きを隠せていなかった。
お母様はただ褒め言葉として言っただけなんだけど。
視線を戻すと、ジェイミーば右手で木剣を器用に繰り返し複雑に動かしていた。
「ジェイミー、久しぶり」
「ロージーお嬢様、おはようございます」
お嬢様・・・。
距離を感じる言葉に寂しさを感じながらも、そんなものはおくびにも出さずに相手をしてもらった。
相変わらずディクソン侯爵家は朝食から豪勢だ。
しかも大半がお母様の好物ときている。
お義父様は「ミラな好きなサラダを盛ろう」なんて給仕の仕事を自ら買って出て、小食気味のお母様が笑顔でパンをお代わりしてるのを見るのなんて初めてで驚いてしまった。
『ミラとローリー上手くやってるかしら?』
『大丈夫だろう』
『あなたったら、そんな簡単に・・・』
『いや、2人は昔からよく知る間柄なんだし、問題なんてないだろう』
『あなた、従兄妹と夫婦は違ってよ。それに、ミラはあの環境に身を置いていたせいか自己評価が低いところがあるの』
『でも、ローリーはミラ一筋で見ていて分かりやすいし、気にしすぎじゃないか?』
『そうかも知れないけれど、仕事の出来る人が必ずしも全てにおいて完璧とは限らないわよ。それにローリーって、そもそも恋愛したことあるのかしら?』
お祖母様は心配していたけれど、私が見る限り2人は仲良くしている。
今だって、幸せそうに微笑みながらお義父様を見送ってるし。
これは娘として見守るべきか少し距離を取るべきか考えていると、顔を強張らせ不慣れな手つきでお母様を抱きしめて口付けする、お義父様の不自然な動きを目撃してしまう。
お母様はあまり気にしてないようだけど、違和感を感じずにはいられなかった。
そして、その違和感が5日も続けば明らかにおかしいと決定づけるに値した。
顔色ひとつ変えず、いつも冷静沈着なメイソンまでが眉をピクリと動かし、お義父様を残念そうな人を見る眼差しで見つめている。
お祖母様の話を思い出す。
お義父様は仕事が抜群にできても、恋愛に関してはいつだったか友人から聞いたポンコツというタイプなのかも知れない。
それに、これ以外にもひっかかることがあった。
お母様は温室で栽培しているフルーツを私の為だと勘違いし、お屋敷が随分と改装されてお母様好みになってることにも気づいておらず、尚且つお義父様に「屋敷はミラの好きなようにしてくれ」と言われてもスルーしている。
「お母様の為のフルーツに決まってるでしょ」
それを聞いても、笑うだけ。
正直、これに関してはお義父様を気の毒に思ってしまった。
こういうのは当人同士が解決するに限る。
余計なことは極力しないようにしていたものの、残念な2人を見ていられなくなり、それとなく結婚した友人の話を例えに「お屋敷を好みに変えてくれなんて、愛されている証拠よね」と話すと、「ロージー、もしかしてあなた結婚に憧れているの?」見当違いのことを言い出す始末で。
でも、この問題はすぐに解決の方向へ進むことになる。
それは私の何気ない、ちょっとした発言から始まった。
「お母様、こっちへ来て本当によく食べるようになったわね。パンを3つも食べてるのなんて初めて見るもの。
ああ、そのイチゴは酸っぱくない?こっちの白いイチゴの方がお母様好みで甘いと思うけど」
素早く反応したのは侍女長で、お母様の食欲、味の好み(酸味のあるものを好む)、よくお昼寝をすることを挙げた。
要は懐妊の可能性があるのではないかと。
話を聞いたお義父様の反応は驚くほど早かった。
多分メイソンに合図でも送ったのか、すぐに女性医師が到着。
戸惑うお母様は、お義父様に抱き上げられて別室へ。
そして、お母様の懐妊が確認された。
妊娠4ヶ月。
お義父様は号泣、私はお母様に抱きついた。
お母様の懐妊が分かってからのお義父様の変わりようときたら。
いつもお母様に張り付いて、少しの移動でも抱き上げ「愛している」としきりに口に出して、正直見ていられないけれど、
「ローリー、私も愛してる」
お母様が幸せそうだから、まぁいいか。
私はというと、騎士団試験を受ける予定で、最近は騎馬訓練を中心に行っていた。
ジェレミーへの気持ちが恋心というものだと確信。
ぎこちなくなっている私も、もしかするとポンコツというタイプかも知れない。
でも、人生は一度きり。
後悔なんてしたくない。
勇気を振り絞って行動した結果、
私とジェイミーは恋人同士になった。
お母様はせっせと赤ちゃん用の洋服を作り、それを見つけるたびにお義父様が心配して、取り上げては小さな言い合いが始まる。
結局いつも最後はお義父様が謝って、お母様は呆れながらも幸せそうに微笑んでいる。
その微笑みは本物で。
自分に物心がついた頃には、お母様は笑っていてもいつもどこか悲しそうだった。
ずっと長いことそれは続いて、胸が痛かった。
でも、お義父様と一緒の時は自然で、結婚してからはずっと心から幸せなのが伝わってきて、嬉しくなる。
そんな日々が続いてーー
お母様は男の子を出産。
私に小さな小さな弟ができた。
しなやかでいて、無駄のない美しい動きに胸が弾む。
カンカン!カンカンカンカン!
相手をしている騎士は見たことがなかったけれど、新人にしては体つきが壮年のように出来上がっていて、よく見れば・・・・・・
「お義父様・・・?」
「おっ!ロージーか!おはよう!」
「お義父様、おはよう。・・・って、え?ここで何してるの?」
「何って、鍛練に決まってる。
今まではなかなか時間が取れなかったが、俺は元々体を動かすのは嫌いじゃないんだ」
「ヘェ~」
確かに練習着姿のお義父様はガシッとしていて、打ち合いの際にも身体はブレずに手慣れてた騎士のようだった。
「・・・おっと、もう明るくなってきてるじゃないか。
ミラが起きる前に、俺はそろそろ戻るとするか。
ジェイミー、明日も頼むぞ」
「はい」
「じゃあ、ロージー、後で食堂でな」
空が明るくなってきているのを確認すると、お義父様は足早に屋敷に向かっていった。
こんな早くから体を鍛えるなんて。
以前、お母様が護衛騎士の鍛練を見学して『皆さん逞しくて素敵ですね』一言漏らした時、お義父様は[え?ミラはああいうのが好みなのか?]驚きを隠せていなかった。
お母様はただ褒め言葉として言っただけなんだけど。
視線を戻すと、ジェイミーば右手で木剣を器用に繰り返し複雑に動かしていた。
「ジェイミー、久しぶり」
「ロージーお嬢様、おはようございます」
お嬢様・・・。
距離を感じる言葉に寂しさを感じながらも、そんなものはおくびにも出さずに相手をしてもらった。
相変わらずディクソン侯爵家は朝食から豪勢だ。
しかも大半がお母様の好物ときている。
お義父様は「ミラな好きなサラダを盛ろう」なんて給仕の仕事を自ら買って出て、小食気味のお母様が笑顔でパンをお代わりしてるのを見るのなんて初めてで驚いてしまった。
『ミラとローリー上手くやってるかしら?』
『大丈夫だろう』
『あなたったら、そんな簡単に・・・』
『いや、2人は昔からよく知る間柄なんだし、問題なんてないだろう』
『あなた、従兄妹と夫婦は違ってよ。それに、ミラはあの環境に身を置いていたせいか自己評価が低いところがあるの』
『でも、ローリーはミラ一筋で見ていて分かりやすいし、気にしすぎじゃないか?』
『そうかも知れないけれど、仕事の出来る人が必ずしも全てにおいて完璧とは限らないわよ。それにローリーって、そもそも恋愛したことあるのかしら?』
お祖母様は心配していたけれど、私が見る限り2人は仲良くしている。
今だって、幸せそうに微笑みながらお義父様を見送ってるし。
これは娘として見守るべきか少し距離を取るべきか考えていると、顔を強張らせ不慣れな手つきでお母様を抱きしめて口付けする、お義父様の不自然な動きを目撃してしまう。
お母様はあまり気にしてないようだけど、違和感を感じずにはいられなかった。
そして、その違和感が5日も続けば明らかにおかしいと決定づけるに値した。
顔色ひとつ変えず、いつも冷静沈着なメイソンまでが眉をピクリと動かし、お義父様を残念そうな人を見る眼差しで見つめている。
お祖母様の話を思い出す。
お義父様は仕事が抜群にできても、恋愛に関してはいつだったか友人から聞いたポンコツというタイプなのかも知れない。
それに、これ以外にもひっかかることがあった。
お母様は温室で栽培しているフルーツを私の為だと勘違いし、お屋敷が随分と改装されてお母様好みになってることにも気づいておらず、尚且つお義父様に「屋敷はミラの好きなようにしてくれ」と言われてもスルーしている。
「お母様の為のフルーツに決まってるでしょ」
それを聞いても、笑うだけ。
正直、これに関してはお義父様を気の毒に思ってしまった。
こういうのは当人同士が解決するに限る。
余計なことは極力しないようにしていたものの、残念な2人を見ていられなくなり、それとなく結婚した友人の話を例えに「お屋敷を好みに変えてくれなんて、愛されている証拠よね」と話すと、「ロージー、もしかしてあなた結婚に憧れているの?」見当違いのことを言い出す始末で。
でも、この問題はすぐに解決の方向へ進むことになる。
それは私の何気ない、ちょっとした発言から始まった。
「お母様、こっちへ来て本当によく食べるようになったわね。パンを3つも食べてるのなんて初めて見るもの。
ああ、そのイチゴは酸っぱくない?こっちの白いイチゴの方がお母様好みで甘いと思うけど」
素早く反応したのは侍女長で、お母様の食欲、味の好み(酸味のあるものを好む)、よくお昼寝をすることを挙げた。
要は懐妊の可能性があるのではないかと。
話を聞いたお義父様の反応は驚くほど早かった。
多分メイソンに合図でも送ったのか、すぐに女性医師が到着。
戸惑うお母様は、お義父様に抱き上げられて別室へ。
そして、お母様の懐妊が確認された。
妊娠4ヶ月。
お義父様は号泣、私はお母様に抱きついた。
お母様の懐妊が分かってからのお義父様の変わりようときたら。
いつもお母様に張り付いて、少しの移動でも抱き上げ「愛している」としきりに口に出して、正直見ていられないけれど、
「ローリー、私も愛してる」
お母様が幸せそうだから、まぁいいか。
私はというと、騎士団試験を受ける予定で、最近は騎馬訓練を中心に行っていた。
ジェレミーへの気持ちが恋心というものだと確信。
ぎこちなくなっている私も、もしかするとポンコツというタイプかも知れない。
でも、人生は一度きり。
後悔なんてしたくない。
勇気を振り絞って行動した結果、
私とジェイミーは恋人同士になった。
お母様はせっせと赤ちゃん用の洋服を作り、それを見つけるたびにお義父様が心配して、取り上げては小さな言い合いが始まる。
結局いつも最後はお義父様が謝って、お母様は呆れながらも幸せそうに微笑んでいる。
その微笑みは本物で。
自分に物心がついた頃には、お母様は笑っていてもいつもどこか悲しそうだった。
ずっと長いことそれは続いて、胸が痛かった。
でも、お義父様と一緒の時は自然で、結婚してからはずっと心から幸せなのが伝わってきて、嬉しくなる。
そんな日々が続いてーー
お母様は男の子を出産。
私に小さな小さな弟ができた。
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