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第1話
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その日、夕食の席に国王であり夫であるエリオット様が姿を見せないので、不思議に思っていた。
今まで遅くなる時は事前に連絡が入るか、側近が・・・・・・。
ああ、来たみたい。
ノックとともに、エリオット様の側近が姿を見せた。
「王妃様、国王様は急な予定が入り、夕食は先に召し上がって下さいとのことです」
「そうですか、わかりました」
このような時、エリオット様は決まってメッセージカードや贈り物をくださる。
詩集だったり、私好みの海外作家の小説に、私と同じ名前の百合の花。
カードには、日頃の感謝の言葉が綴られ、“愛を込めて エリオット”で締めくくられる。
それを見るたび、胸が温かくなる。
すると、珍しく側近が何か話したそうな落ち着かない様子を見せていた。
どうしたものかと側近の手元に目を向けると、カードも贈りも花束も、何も手にしていなかった。
「申し訳ございません。
本日はお忙しく・・・・・・」
歯切れの悪い側近に、大丈夫ですよ。と伝えたものの、明らかにいつもと異なる状況に違和感、いや、不安のようなものを感じた。
夜遅くなってもまだ戻らないエリオット様を待つ傍ら読書をしていた。
大好きな海外作家の小説は発売されたばかりで、この国で手に入れるのは難しい。
真っ赤な薔薇が描かれた表紙をなぞりながら、この本の贈り主のことを思い、そのまま眠りについた。
「リリー、おはよう」
「・・・・・・おはようございます、エリオット様」
目覚めると、寝台の隣にはいつものようにエリオット様の姿があった。
柔らかいブロンドの髪がところどころ寝癖で跳ねているを見つけると、ほっとするような気持ちになる。
「昨夜は済まなかった」
「気になさらないで下さい」
「・・・・・・実は」
「何か御座いましたか?」
「・・・・・・フランが事故に遭ったんだ」
フラン・・・・・・。
その名前を耳にした瞬間、身体中に緊張が走った。
・・・・・・フランといえば、エリオット様の口から出るフランといえば、あの方しかいない。
「馬車の事故に遭って、パルディール侯爵は・・・・・・亡くなった。
フランは怪我を負ったものの、治療により意識もしっかりしている。
・・・・・・たんだ。
フランが私を、思い出したんだ」
涙目になりながら語る姿に、全てを理解した。
彼女の記憶が戻ったんだ。
フラン・・・・・・フランチェスカ様・・・・・・。
エリオット様の元婚約者。
麗しい王太子殿下と可憐で妖精のような公爵令嬢。
学生時代、相思相愛の二人に誰もが憧れた。
が、それはフランチェスカ様の落馬事故により、婚約解消という形で終わりを迎える。
フランチェスカ様はほぼ全ての記憶を、エリオット様の記憶を失い、その後パルディール侯爵令息と恋をし結婚する。
そして、エリオット様の新たな婚約者に決まったのが私だった。
その後、私は何と答えただろう。
『パルディール侯爵はまだお若いのに。残念です』
『フランチェスカ様がご無事で何よりです』
だった?
「しばらくは遅くなるから夕食は先に取って構わないし、先に休んでくれ。
では、悪いが先に朝食の席に行かせてもらうよ」
気づいた時にはエリオット様の姿は寝室になく、私はベッドに取り残されていた。
『フランが私を、思い出したんだ』
エリオット様の少し震えた声が頭から離れなかった。
その後、着替えを済ませて朝食の席へ向かうも、エリオット様は既に執務に向かわれていた。
この日を境に、公務や夜会以外でエリオット様と顔を合わせる機会が減っていった。
夜遅くにベッドに入り、朝早くに寝室を出ていく。
もちろん、私に触れることなんて無い。
執務を終わらせると、ご実家の公爵家で療養されているフランチェスカ様を見舞っていると耳にした。
そして、いつしかエリオット様は寝室で休まなくなり、回復されたフランチェスカ様と王宮の庭園で一緒にいる姿を見せるようになった。
今まで遅くなる時は事前に連絡が入るか、側近が・・・・・・。
ああ、来たみたい。
ノックとともに、エリオット様の側近が姿を見せた。
「王妃様、国王様は急な予定が入り、夕食は先に召し上がって下さいとのことです」
「そうですか、わかりました」
このような時、エリオット様は決まってメッセージカードや贈り物をくださる。
詩集だったり、私好みの海外作家の小説に、私と同じ名前の百合の花。
カードには、日頃の感謝の言葉が綴られ、“愛を込めて エリオット”で締めくくられる。
それを見るたび、胸が温かくなる。
すると、珍しく側近が何か話したそうな落ち着かない様子を見せていた。
どうしたものかと側近の手元に目を向けると、カードも贈りも花束も、何も手にしていなかった。
「申し訳ございません。
本日はお忙しく・・・・・・」
歯切れの悪い側近に、大丈夫ですよ。と伝えたものの、明らかにいつもと異なる状況に違和感、いや、不安のようなものを感じた。
夜遅くなってもまだ戻らないエリオット様を待つ傍ら読書をしていた。
大好きな海外作家の小説は発売されたばかりで、この国で手に入れるのは難しい。
真っ赤な薔薇が描かれた表紙をなぞりながら、この本の贈り主のことを思い、そのまま眠りについた。
「リリー、おはよう」
「・・・・・・おはようございます、エリオット様」
目覚めると、寝台の隣にはいつものようにエリオット様の姿があった。
柔らかいブロンドの髪がところどころ寝癖で跳ねているを見つけると、ほっとするような気持ちになる。
「昨夜は済まなかった」
「気になさらないで下さい」
「・・・・・・実は」
「何か御座いましたか?」
「・・・・・・フランが事故に遭ったんだ」
フラン・・・・・・。
その名前を耳にした瞬間、身体中に緊張が走った。
・・・・・・フランといえば、エリオット様の口から出るフランといえば、あの方しかいない。
「馬車の事故に遭って、パルディール侯爵は・・・・・・亡くなった。
フランは怪我を負ったものの、治療により意識もしっかりしている。
・・・・・・たんだ。
フランが私を、思い出したんだ」
涙目になりながら語る姿に、全てを理解した。
彼女の記憶が戻ったんだ。
フラン・・・・・・フランチェスカ様・・・・・・。
エリオット様の元婚約者。
麗しい王太子殿下と可憐で妖精のような公爵令嬢。
学生時代、相思相愛の二人に誰もが憧れた。
が、それはフランチェスカ様の落馬事故により、婚約解消という形で終わりを迎える。
フランチェスカ様はほぼ全ての記憶を、エリオット様の記憶を失い、その後パルディール侯爵令息と恋をし結婚する。
そして、エリオット様の新たな婚約者に決まったのが私だった。
その後、私は何と答えただろう。
『パルディール侯爵はまだお若いのに。残念です』
『フランチェスカ様がご無事で何よりです』
だった?
「しばらくは遅くなるから夕食は先に取って構わないし、先に休んでくれ。
では、悪いが先に朝食の席に行かせてもらうよ」
気づいた時にはエリオット様の姿は寝室になく、私はベッドに取り残されていた。
『フランが私を、思い出したんだ』
エリオット様の少し震えた声が頭から離れなかった。
その後、着替えを済ませて朝食の席へ向かうも、エリオット様は既に執務に向かわれていた。
この日を境に、公務や夜会以外でエリオット様と顔を合わせる機会が減っていった。
夜遅くにベッドに入り、朝早くに寝室を出ていく。
もちろん、私に触れることなんて無い。
執務を終わらせると、ご実家の公爵家で療養されているフランチェスカ様を見舞っていると耳にした。
そして、いつしかエリオット様は寝室で休まなくなり、回復されたフランチェスカ様と王宮の庭園で一緒にいる姿を見せるようになった。
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