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デートの最後に
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中州から橋を渡り、ワードロウに戻る。
日が西に傾き、薔薇色に染まり始めた空に、聖堂の鐘が5回鳴る音が響いた。
『そろそろ、楽しかったデートもおしまい』
せめて――もう少しだけ、一緒にいたい。
祈るように俯いた、元男爵令嬢の耳に、
「ロージー……もう少しだけ、付き合ってくれるか?」
国境警備隊長の、少し緊張した声が届いた。
「はいっ!」
大きく頷いたロージーがエスコートされたのは、橋の下に広がる河原。
川沿いに敷かれた砂利の中に、丸い石畳が3個並んで埋まっている。
「アッシュ様、これは……?」
「危ないから少し――そこの橋桁まで、離れてくれるか?」
言われた通りに15メートル程後退してから、
「離れましたー!」
両手を大きく振って合図を送る。
振り向いたアッシュが少し笑って、
「見ててくれ……!」
声を張って告げてから、石畳に向き直った。
大きな左手を伸ばし、中央の石に向ける。
眉根を寄せて意識を集中。
右手をパチンと鳴らし、呪文を唱えた。
「テイク・ザ・リィード!」
魔法の言葉を放った途端、左手の先の石畳が、ぐらぐらっと何度か揺れる。
と、ボンッ……!
直径20cm、高さ10㎝ほどの円柱型の石が、地面から押し出されるように、勢いよく飛び出した。
「きゃっ……!」
思わず叫んだ口を、両手で押さえたロージーの目の前で、
アッシュがさっと、後ろに飛びのく。
そこに重さが10㎏近くありそうな、石の『蓋』がドスンッ!
砂利を跳ね飛ばし、何度かバウンドしながら、転がって――止まった。
振り向いたアッシュが急いで駆け寄り、両手でロージーの肩を掴む。
「ロージー、大丈夫か? 跳ねた小石でケガとかしてないかっ!?」
真剣な顔で問いかけてくる、警備隊長。
「アッシュ様……」
「ん?」
「すごい……すごいです!」
元男爵令嬢が思わず伸ばした両手で、屈んだ首元にぎゅっと抱きついた。
地面の蓋ごと、今までの不名誉なウワサを、うっぷんを――見事に跳ね飛ばした英雄。
「もうだれも、『魔法いらず』なんて呼びませんっ……!」
「ありがとう。ロージーが、ヒントをくれたおかげだ」
力強い腕に優しく、抱き締め返される。
「ここで毎日こっそり、エルムと練習してたんだ。
実戦で使えるレベルになるまで。
成功したらきみに会える……そう自分に言い聞かせて」
「わたしに……?」
「うん」
そっと腕をほどいたアッシュが、白いドレス姿のロージーの前に片膝を付いた。
「あっ、アッシュ様……いけません! わたしはただの、ティールームの給仕ですっ!」
慌てて止めようとしたロージーに、
「きみが給仕だろうと、メイドだろうと、そんな事は関係ないっ……!」
きっぱりと言い切る。
右手で、レースの手袋に包まれた、左手を掴み。
呆然としている顔を、熱を帯びた瞳で見上げて。
「ロージー・クリフォード……わたし、アシュトン・リードと」
プロポーズの言葉を、口にしかけた時、
ウーーーーッ! ウーーーーッ!!
不吉なサイレンの音が、二人の頭上に響き渡った。
「アッシュ様――今のは!?」
「非常事態の合図だ!」
素早く立ち上がった隊長が、厳しい顔で周囲を警戒していると、
「アッシュ……! やっぱりここか⁉」
白馬に乗ったエルム・コリンズ中尉が、橋の上から叫ぶのが見えた。
「エルム、何が起きた!?」
馬から降り、河原に駆け下りた友人に、アッシュが尋ねる。
「『危険動物』の脱走」
「何だと――?」
「マルト経由で『ヤバい品』を密輸しようとした、フランク王国の『自称商人』が、税関に引っ掛かって。
『ただの石像だ』って言い訳してる内に、その像がなぜか動き出し、鋭い爪と牙で木箱を破って逃げ出した――って聞いたけど?」
何とも不可思議な事態に、眉根を寄せて。
「とりあえず……逃げた動物って、クマか? ヒョウか?」
前髪をくしゃりとかき上げて、警備隊長が問いかける。
「クマでも、ヒョウでもないよ……『オオカミ』!」
「「オオカミ……!?」」
エルムの答えに、アッシュとロージーは、声を揃えて叫んだ。
日が西に傾き、薔薇色に染まり始めた空に、聖堂の鐘が5回鳴る音が響いた。
『そろそろ、楽しかったデートもおしまい』
せめて――もう少しだけ、一緒にいたい。
祈るように俯いた、元男爵令嬢の耳に、
「ロージー……もう少しだけ、付き合ってくれるか?」
国境警備隊長の、少し緊張した声が届いた。
「はいっ!」
大きく頷いたロージーがエスコートされたのは、橋の下に広がる河原。
川沿いに敷かれた砂利の中に、丸い石畳が3個並んで埋まっている。
「アッシュ様、これは……?」
「危ないから少し――そこの橋桁まで、離れてくれるか?」
言われた通りに15メートル程後退してから、
「離れましたー!」
両手を大きく振って合図を送る。
振り向いたアッシュが少し笑って、
「見ててくれ……!」
声を張って告げてから、石畳に向き直った。
大きな左手を伸ばし、中央の石に向ける。
眉根を寄せて意識を集中。
右手をパチンと鳴らし、呪文を唱えた。
「テイク・ザ・リィード!」
魔法の言葉を放った途端、左手の先の石畳が、ぐらぐらっと何度か揺れる。
と、ボンッ……!
直径20cm、高さ10㎝ほどの円柱型の石が、地面から押し出されるように、勢いよく飛び出した。
「きゃっ……!」
思わず叫んだ口を、両手で押さえたロージーの目の前で、
アッシュがさっと、後ろに飛びのく。
そこに重さが10㎏近くありそうな、石の『蓋』がドスンッ!
砂利を跳ね飛ばし、何度かバウンドしながら、転がって――止まった。
振り向いたアッシュが急いで駆け寄り、両手でロージーの肩を掴む。
「ロージー、大丈夫か? 跳ねた小石でケガとかしてないかっ!?」
真剣な顔で問いかけてくる、警備隊長。
「アッシュ様……」
「ん?」
「すごい……すごいです!」
元男爵令嬢が思わず伸ばした両手で、屈んだ首元にぎゅっと抱きついた。
地面の蓋ごと、今までの不名誉なウワサを、うっぷんを――見事に跳ね飛ばした英雄。
「もうだれも、『魔法いらず』なんて呼びませんっ……!」
「ありがとう。ロージーが、ヒントをくれたおかげだ」
力強い腕に優しく、抱き締め返される。
「ここで毎日こっそり、エルムと練習してたんだ。
実戦で使えるレベルになるまで。
成功したらきみに会える……そう自分に言い聞かせて」
「わたしに……?」
「うん」
そっと腕をほどいたアッシュが、白いドレス姿のロージーの前に片膝を付いた。
「あっ、アッシュ様……いけません! わたしはただの、ティールームの給仕ですっ!」
慌てて止めようとしたロージーに、
「きみが給仕だろうと、メイドだろうと、そんな事は関係ないっ……!」
きっぱりと言い切る。
右手で、レースの手袋に包まれた、左手を掴み。
呆然としている顔を、熱を帯びた瞳で見上げて。
「ロージー・クリフォード……わたし、アシュトン・リードと」
プロポーズの言葉を、口にしかけた時、
ウーーーーッ! ウーーーーッ!!
不吉なサイレンの音が、二人の頭上に響き渡った。
「アッシュ様――今のは!?」
「非常事態の合図だ!」
素早く立ち上がった隊長が、厳しい顔で周囲を警戒していると、
「アッシュ……! やっぱりここか⁉」
白馬に乗ったエルム・コリンズ中尉が、橋の上から叫ぶのが見えた。
「エルム、何が起きた!?」
馬から降り、河原に駆け下りた友人に、アッシュが尋ねる。
「『危険動物』の脱走」
「何だと――?」
「マルト経由で『ヤバい品』を密輸しようとした、フランク王国の『自称商人』が、税関に引っ掛かって。
『ただの石像だ』って言い訳してる内に、その像がなぜか動き出し、鋭い爪と牙で木箱を破って逃げ出した――って聞いたけど?」
何とも不可思議な事態に、眉根を寄せて。
「とりあえず……逃げた動物って、クマか? ヒョウか?」
前髪をくしゃりとかき上げて、警備隊長が問いかける。
「クマでも、ヒョウでもないよ……『オオカミ』!」
「「オオカミ……!?」」
エルムの答えに、アッシュとロージーは、声を揃えて叫んだ。
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