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第1章 王子は私を追いかける

兄様は最強です

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「やぁリズ」



 皆様ごきげんよう、只今驚愕しているジゼル=ウェリスでございます。



「………殿下、何故ここに……?」

「婚約者の顔を見に来て何が悪いのかな?」



 ニコニコと悪びれもなく我が家の庭のテラスに腰掛けるジルフォード殿下に思わず頭を抱えてしまいました。ティーカップを静かに置いた殿下は、優雅に組んでいた脚を解き、こちらに歩んで来ます。無意識の内に私は後ろに引き下がりました。

 しかしそれは許して貰えず、ジルフォード殿下は私の手をすくい上げて握ると、12歳にして既に出る色気を十分に放出しつつ、顔を近づけてきます。

 私の耳元に唇を寄せピタリとくっつけると、ジルフォード殿下はこう囁きました。



「友人として教えてくれるんだろう?それならば私達はちゃんと交流しなくちゃね」

「ひっ」

「はい、そこまで。殿下、これ以上妹に近づけば出禁にしますよ」



 固まった私と殿下の間に兄様が割り入ってくれました。殿下は深い笑みを貼り付けていますが、あれは絶対怒ってる顔だって……。しかし兄様もそれに負けず劣らずの腹黒いお顔をしていますが。



「フィリップ、キューピットの役割を忘れているのかい?」

「それを了承した覚えはありませんね、殿下」

「へぇ……?」

「それに殿下」



 フィル兄上が片眼鏡をクイッと上げて首を傾けました。フィル兄様が怒るときの仕草です。



「執務が終わったからと言って勝手に城を抜け出すのはおやめください。殿下は嫌というほどご自分の立場は分かっていらっしゃるでしょう。どれほどの人が殿下の失踪に胆を冷やしたか。近衛たちを見て下さい、あんなに疲弊して。連れまわすのもほどほどにして下さい。アレを渡したときにもう予想は付いていたので今回は直ぐに見つけることが出来ましたが。いいですね?」



 近衛騎士の方々がお兄様をキラキラしい目で見ております。



「あぁ、すまない。今回は特に唐突だった。次は置き手紙を残しておくから、ね?」

「『置き手紙を残しておくからね?にこっ』じゃあないんですよ……」

「じゃあ、私とリズの婚約に一枚噛んでくれるなら「断固お断り致します」」



 バチッ。
 この二人は嫌味を言えるとても親しい仲です。もしかして……。



「……殿下はそういうご趣味を「いや、無いから」……そうですか」



 死期迫るような必死の形相で否定されました。結婚についても婚約についても淡白な殿下ならありうる話かと思ったのですが、どうやら違ったようです。はい、フィル兄様。隠しているつもりかもしれませんが、肩が震えているので笑っているのバレバレですよ。妹の勘違いをそんな笑わないで下さいませ。

 でももしかしたら照れ隠しなのかもしれません。妹に、「お前の兄を狙っているから」とは確かに言いにくいでしょう。でも、兄様はいけません。兄様は既に愛する婚約者の方がいるので、殿下が権力を使って離しでもしたら、悲劇小説になりかねません。

 初の失恋ですね……殿下。



「リズ?今何を考えていたのですか?」

「……いえ」

「そんな笑顔作ったって意味ないよ?さっき私を憐れむような顔ははっきり見たんだ。どうやったらそんな表情になるのかな?」



 ば、ばれてる。



「はい、迫らない」



 私に近づいてきた殿下を兄様が引き剥がしました。兄様、ありがとうございます。ずっと隣にいて下さい。



「はぁ……殿下、本来の目的をお忘れですか?」

「あぁ。リズ、今度『百合のお茶会』があるのは知っているよね?」

「はい、存じ上げております」



『百合のお茶会』とは、王家の紋章に描かれる百合からとったもので、王妃様が主催する公式的なお茶会をそう呼びます。公務の忙しい王妃様が、私的なお茶会ではないものを開くことはとても珍しいのです。

 完全にこの間とは別目的のお茶会ですね。この間は婚約者探しでしたが、今回は王妃様のお眼鏡にかなった選ばれし者達の集まり、つまり、私達貴族のステータス上げにかかわることなのです。招かれたご夫人は、素晴らしい方、として見られ、その家の見られ方も変わります。

 ……なぜ今この話題なのでしょう。嫌な予感がしてきました。



「私とリズに招待状がきたから、よろしくね」

「……」

「当日は私がエスコートするから。ドレスも贈らせてね?」

「……」

「断るなんて言わないよね?だってほら、連名で呼ばれてるし」

「……はい」



 押しに弱いのをどうにかしなければいけないと思いました……



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