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おしまいの後
助手席の君と
「役所っていうのはいつ来ても混んでるねえ袴田君」
「そうですね」
俺だけの尾台さんの転居届けや住民票の書換えする為に役所に来た。
もちろん愛しの彼女も一緒だ、隣から甘い香りのする良く晴れた平日の午前、今日は二人で休みを取った。
それにしても、俺が御茶ノ水に来て三年というのに、尾台さんは未だに有給を消費を嫌がる。
こないだ俺の席に呼び出して、彼女の勤怠管理票を見ながらこの日はどうですかって候補を出していたのだが、尾台さんは何かに理由つけて「この日はぁ~あの日はぁ~」ってぶつぶつ始めて頷かない。
極め付けが「でもこの日は桐生さんのぉ~」ときたから眼鏡直した指で勝手に有給申請した。
「ちょちょちょちょっとぉ!! 袴田君!!」ってスーツ引っ張ってきたので、軽く振り払う。椅子を引いて、彼女の方は向かずに背中越しに言ってやる。
「人事兼任総務部部長の袴田が、営業二課事務、尾台 絵夢の有給申請を受理しました。要件は以上です早急に仕事に戻って下さい」
「袴田君ッ!」
「大きな声で迷惑なんですけど」
「だって」
「まだ何か? 当日は……その、えーと何でした? んーと桐生さん? 誰ですかそれ、営業の人ですかその人、全く微塵も存じ上げませんが、当日そいつに迷惑が掛からないよう、先手を打って今の内に仕事のフォローしておいた方がいいのでは?」
「もうおばか!」
変な嫉妬して! って尾台さんはプリプリ怒って行ってしまったけど知るか、くたばれ桐生。
それで、どこの役所でも決まってある長い待ち時間の間、癒しの時間を得ようと思ったのに、安らぎをくれるはずの尾台さんは携帯を肌身離さず持ってて、案の定会社にメールを送っているようなので、取り上げてみた。
きゃあきゃあしてるので、眼鏡に手を添えながら見下してやる。
「従業員の有給消費率が100%の会社の方が優良企業なのだから、会社の為に休むって考えられないんですか」
「わかってるけどぉ、色々心配じゃないですか!」
「それは部下、同僚を信用してないって意味にも取れますが?」
「違うもん」
「違いませんね。俺は常に部下を愛し意見を尊重し、日頃から揺るぎない確固たる信頼関係が築けていますので、今日の業務は凡て伝達事項なしの丸投げですが何の心配もしてませんよ」
「え」
「そして彼らからの電話に出る気は一切ありません」
「鬼かよ」
「いえ、総務の袴田ですよ。本社から培われた阿吽の呼吸がなせる業です」
「絶対、今袴田君がいなくてテンパってるよあの二人」
「そんなの事前に上司のスケジュール確認を怠ったのが原因でしょう。俺は一週間前から有給申請してますから」
俺の頭上で携帯を揺らせば、尾台さんは怒った顔(死ぬ程萌える)で、「あん、返して袴田君」って手を伸ばしてきた。
人はそこそこいる役所だが、俺にとって尾台さん以外の人間は薄暗い道端の石に生えた苔くらいどうでもいい存在なので、全く気にせず腰を引き寄せたらか弱く抵抗しながら柔らかい体が俺に倒れ込んでくる。
「こんなとこでダメだったら」
「公共の場で抱っこしてほしかったの尾台さん」
「もう! 逆だよ。恥ずかしいでしょ! 本当に構ってちゃんなんだから、袴田君は」
「尾台さんだって希代の構ってちゃんでしょ、俺達似た者同士ですよ」
「え? そうかな」
「そうです」
黒い瞳が何かを思い出すようにぐるりと動く、そして
「ふうん? …………そっか……だから気が合うのか」
尾台さんはクスクスしながら俺の胸に顔を埋めて何かに納得したように頷いた。何を考えてるのか分からないけど、勝手に手が髪を撫でている。
あれ、区役所ってこんなに楽しい所だったかな。尾台さんは大人しく頭を俺に預けて小さな声で歌ってる。どこでだって彼女がいれば最高の時間だ。
区は違えど、二十八年も生きてれば役所来る機会は幾度とある。最後に来たのは婚姻届けを会社帰りに取りにいった時だ。
覚悟を決めろって緩んだネクタイ締め直して、一人でここに来た。
懐かしいな、何十枚と重なった婚姻届けの一枚を引き出してその場で自分の名前を書いた。
その用紙に本当に彼女の名前が並ぶなんてあの日の俺に想像できただろうか。いや、書いてくれるまで引き下がるつもりはなかったけれど。
そして今、一緒に暮らしている現状を国に申請する為に尾台さんとここに来てる。
月曜日だからか、役所は混んでて俺達の番号はまだ呼ばれそうにない。
実際はそこまで執着していなかったんだろう、俺がポケットに携帯をしまっても尾台さんは怒る様子はなく体勢を変えて今度は自分から寄りかかってきた。
そりゃそうだ、尾台さんの席の隣には久瀬さんに八雲さんがいるからな、彼女達がいれば大抵のトラブルは処理できるだろう。
深呼吸した尾台さんは目を閉じワンレンの前髪をかきあげた。顔を振ればいい匂いがした。薄く開いた二重瞼の奥にあるのは綺麗な漆黒の瞳だ。
吸い込まれそうな造形に思わず額にキスをした、触れて、少し離したけど惜しくなって、今度は少し産毛が濡れるキスをする。音を出して唇を離せば尾台さんはプルプルってしてた。
周りを見て、また軽いため息みたいのを吐いて、肩にもたれかかった尾台さんは少し顔をあげて俺を見上げて口を開く。
「もう、役所くらい草食系でいて下さい」
「不問ですよ。そもそも俺が草食系って誰が決めたんですか?」
「皆がそう言ってたんだもん」
「尾台さん知らないの? 草食動物の生殖行動ってメチャクチャ激しいんですよ。ウサギのセックスってバイブ並みの高速ピスト」
「しーらーなーいーでーすーからぁ!」
細い指で唇を塞がれて、にやってして噛めば尾台さんはきゅうって唇をつぐんだ。
体が密着してるし、こんな所でスイッチ入れてもどうにもならないので濡れる前に、家に帰ってからだよって耳元で言えば、尾台さん分かってますぅ! とでもいう様に俺を睨んで距離を取った。
二人で辺りを見渡して、尾台さんがボソッと言う。
「そういえばここで免許の更新できるんです?」
話題変えて体の熱を冷まします作戦! よく人前でおろおろし始めた尾台さんがやる作戦だ。
得策だ、と俺はこれ以上触らない意志を含めて腕を組んで言う。
「免許? 免許って車の?」
「はい」
「それはできないですね、ここは役所。運転免許は警視庁が管轄してるものですからね」
「ふうん、そっか……」
「更新の時は東陽町にある運転免許試験場に行ってますよ」
「へえ……」
足も組んで答えれば、尾台さんはポーっと考えた後にキリッて微妙に俺を睨んで。
「やだ、私の事バカだと思った?」
「え」
「世間知らずって」
もちろん、尾台さんは天から産み落とされし神の子なので首を横に振って真剣な眼差しで答える。
「いいえ、免許のない人からしてみたら、全部お役所仕事に見えて当然です」
「取らなかったんだよなあ、免許……実家も家の前がバス停で駅に着けば直ぐ電車が来るし、車が便利って感覚なくて、タクシーも乗らないし……」
「都会の人はそうかもしれないですね。俺は一人で遠くに行きたい願望あってバイクが欲しかったから取りましたけど、都内で車を運転するとなると駐車場代もかかりますからね。維持費もあるし……」
「でしょでしょ」
うんうんっと上下する形のいい頭をポンポンしたら、不意に尾台さんがポンっと拳で手の平を打った。
「あ」
「どうしたんですか?」
胸の所から俺を見上げて言う、
「取ろうかな、私も!」
「ん?」
「ん、じゃないよ。免許だよ免許。尾台さんも車の免許取ろうかなって言ってるの」
「挑戦する姿勢はいいと思いますが、なぜ急に? 俺の運転で怖かった経験ありますか」
「ないよ! 袴田君って穏やかに運転しそうな見た目して、性格じゃ煽りそうだけど、実際は安心なアクセル走行でした。ブレーキも優しいしむしろうちのお姉ちゃんの方が荒かったくらい」
「一般的な運転でしょ。尾台さん助手席にいればさらに慎重になりますがね。身分証明の一つとして所持していたいのなら止めませんけど」
「マイナンバーカードあるから身分証明じゃなくて、車運転する為に欲しいの!」
急に興奮した眼差しで見上げてくるけど、正直あんまり尾台さん車の運転向いてなさそうに見えるし、一人で乗られんの嫌だな。
「どうかな……筆記はすんなりいけそうでも尾台さんは実技の面で難ありそうですし、無理しなくても」
「例えば?」
「色々ありますが…………縦列駐車とか難しいですよ」
と何となく口元を手で覆えば尾台さんは俺の膝を叩いて意気揚々と言う。
「そんなの追い込み車線からの高速ドリフトでピタリ縦列駐車をキメてやりますよ! 進入速度めっちゃ早いから」
「YouTubeで何の動画見たの? 教習所でそんな事してる人前代未聞だから」
「いけないの?」
「停まればいいってもんじゃないしょ、公道で高速ドリフトしてる時点で道路交通法違反です」
「…………」
無言の目が訴えてくる。
マジかよ、じゃないんだよ。にゃんにゃんさんのこういう突き抜けた発想好きだが、教習所に迷惑がかかるといけなので、ここで止めておかないとな。
「今からわざわざお金払って免許取る必要ないでしょう。他の資格」
「でもおお!」
俺の服力いっぱい握ってきて、どうしたんだ。
「何がそこまで尾台さんを動かすんですか」
尾台さんは唇を一度噛んで泣きそうな視線を合わせると、グッと顔の距離を狭めてきた。ふわりと香る彼女の匂いに胸が疼いて、細く繊細な指が少し下がった俺の眼鏡を直す、その綺麗な指が横にずれ耳に手を添えられて、尾台さんの唇が迫る。
クッと息を飲み込んで、甘く湿った声が熱い吐息と一緒に俺の鼓膜を揺らした。
「ねえ袴田君」
「はい」
「怒らない?」
「怒りません」
「あのね……?」
「はい」
「私の運転する車でかーせっく」
「最短の免許取得に向け手取り足取り教えます。実技にはぜひうちの別荘を使って下さい。私道ですから、ドリフトし放題です」
※本日より、袴田君のコミカライズがスタートします!
コミまだ君、とってもイケメンです。
尾台さんも可愛いので、ぜひ読んでみてください。
https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/809000362/4426
「そうですね」
俺だけの尾台さんの転居届けや住民票の書換えする為に役所に来た。
もちろん愛しの彼女も一緒だ、隣から甘い香りのする良く晴れた平日の午前、今日は二人で休みを取った。
それにしても、俺が御茶ノ水に来て三年というのに、尾台さんは未だに有給を消費を嫌がる。
こないだ俺の席に呼び出して、彼女の勤怠管理票を見ながらこの日はどうですかって候補を出していたのだが、尾台さんは何かに理由つけて「この日はぁ~あの日はぁ~」ってぶつぶつ始めて頷かない。
極め付けが「でもこの日は桐生さんのぉ~」ときたから眼鏡直した指で勝手に有給申請した。
「ちょちょちょちょっとぉ!! 袴田君!!」ってスーツ引っ張ってきたので、軽く振り払う。椅子を引いて、彼女の方は向かずに背中越しに言ってやる。
「人事兼任総務部部長の袴田が、営業二課事務、尾台 絵夢の有給申請を受理しました。要件は以上です早急に仕事に戻って下さい」
「袴田君ッ!」
「大きな声で迷惑なんですけど」
「だって」
「まだ何か? 当日は……その、えーと何でした? んーと桐生さん? 誰ですかそれ、営業の人ですかその人、全く微塵も存じ上げませんが、当日そいつに迷惑が掛からないよう、先手を打って今の内に仕事のフォローしておいた方がいいのでは?」
「もうおばか!」
変な嫉妬して! って尾台さんはプリプリ怒って行ってしまったけど知るか、くたばれ桐生。
それで、どこの役所でも決まってある長い待ち時間の間、癒しの時間を得ようと思ったのに、安らぎをくれるはずの尾台さんは携帯を肌身離さず持ってて、案の定会社にメールを送っているようなので、取り上げてみた。
きゃあきゃあしてるので、眼鏡に手を添えながら見下してやる。
「従業員の有給消費率が100%の会社の方が優良企業なのだから、会社の為に休むって考えられないんですか」
「わかってるけどぉ、色々心配じゃないですか!」
「それは部下、同僚を信用してないって意味にも取れますが?」
「違うもん」
「違いませんね。俺は常に部下を愛し意見を尊重し、日頃から揺るぎない確固たる信頼関係が築けていますので、今日の業務は凡て伝達事項なしの丸投げですが何の心配もしてませんよ」
「え」
「そして彼らからの電話に出る気は一切ありません」
「鬼かよ」
「いえ、総務の袴田ですよ。本社から培われた阿吽の呼吸がなせる業です」
「絶対、今袴田君がいなくてテンパってるよあの二人」
「そんなの事前に上司のスケジュール確認を怠ったのが原因でしょう。俺は一週間前から有給申請してますから」
俺の頭上で携帯を揺らせば、尾台さんは怒った顔(死ぬ程萌える)で、「あん、返して袴田君」って手を伸ばしてきた。
人はそこそこいる役所だが、俺にとって尾台さん以外の人間は薄暗い道端の石に生えた苔くらいどうでもいい存在なので、全く気にせず腰を引き寄せたらか弱く抵抗しながら柔らかい体が俺に倒れ込んでくる。
「こんなとこでダメだったら」
「公共の場で抱っこしてほしかったの尾台さん」
「もう! 逆だよ。恥ずかしいでしょ! 本当に構ってちゃんなんだから、袴田君は」
「尾台さんだって希代の構ってちゃんでしょ、俺達似た者同士ですよ」
「え? そうかな」
「そうです」
黒い瞳が何かを思い出すようにぐるりと動く、そして
「ふうん? …………そっか……だから気が合うのか」
尾台さんはクスクスしながら俺の胸に顔を埋めて何かに納得したように頷いた。何を考えてるのか分からないけど、勝手に手が髪を撫でている。
あれ、区役所ってこんなに楽しい所だったかな。尾台さんは大人しく頭を俺に預けて小さな声で歌ってる。どこでだって彼女がいれば最高の時間だ。
区は違えど、二十八年も生きてれば役所来る機会は幾度とある。最後に来たのは婚姻届けを会社帰りに取りにいった時だ。
覚悟を決めろって緩んだネクタイ締め直して、一人でここに来た。
懐かしいな、何十枚と重なった婚姻届けの一枚を引き出してその場で自分の名前を書いた。
その用紙に本当に彼女の名前が並ぶなんてあの日の俺に想像できただろうか。いや、書いてくれるまで引き下がるつもりはなかったけれど。
そして今、一緒に暮らしている現状を国に申請する為に尾台さんとここに来てる。
月曜日だからか、役所は混んでて俺達の番号はまだ呼ばれそうにない。
実際はそこまで執着していなかったんだろう、俺がポケットに携帯をしまっても尾台さんは怒る様子はなく体勢を変えて今度は自分から寄りかかってきた。
そりゃそうだ、尾台さんの席の隣には久瀬さんに八雲さんがいるからな、彼女達がいれば大抵のトラブルは処理できるだろう。
深呼吸した尾台さんは目を閉じワンレンの前髪をかきあげた。顔を振ればいい匂いがした。薄く開いた二重瞼の奥にあるのは綺麗な漆黒の瞳だ。
吸い込まれそうな造形に思わず額にキスをした、触れて、少し離したけど惜しくなって、今度は少し産毛が濡れるキスをする。音を出して唇を離せば尾台さんはプルプルってしてた。
周りを見て、また軽いため息みたいのを吐いて、肩にもたれかかった尾台さんは少し顔をあげて俺を見上げて口を開く。
「もう、役所くらい草食系でいて下さい」
「不問ですよ。そもそも俺が草食系って誰が決めたんですか?」
「皆がそう言ってたんだもん」
「尾台さん知らないの? 草食動物の生殖行動ってメチャクチャ激しいんですよ。ウサギのセックスってバイブ並みの高速ピスト」
「しーらーなーいーでーすーからぁ!」
細い指で唇を塞がれて、にやってして噛めば尾台さんはきゅうって唇をつぐんだ。
体が密着してるし、こんな所でスイッチ入れてもどうにもならないので濡れる前に、家に帰ってからだよって耳元で言えば、尾台さん分かってますぅ! とでもいう様に俺を睨んで距離を取った。
二人で辺りを見渡して、尾台さんがボソッと言う。
「そういえばここで免許の更新できるんです?」
話題変えて体の熱を冷まします作戦! よく人前でおろおろし始めた尾台さんがやる作戦だ。
得策だ、と俺はこれ以上触らない意志を含めて腕を組んで言う。
「免許? 免許って車の?」
「はい」
「それはできないですね、ここは役所。運転免許は警視庁が管轄してるものですからね」
「ふうん、そっか……」
「更新の時は東陽町にある運転免許試験場に行ってますよ」
「へえ……」
足も組んで答えれば、尾台さんはポーっと考えた後にキリッて微妙に俺を睨んで。
「やだ、私の事バカだと思った?」
「え」
「世間知らずって」
もちろん、尾台さんは天から産み落とされし神の子なので首を横に振って真剣な眼差しで答える。
「いいえ、免許のない人からしてみたら、全部お役所仕事に見えて当然です」
「取らなかったんだよなあ、免許……実家も家の前がバス停で駅に着けば直ぐ電車が来るし、車が便利って感覚なくて、タクシーも乗らないし……」
「都会の人はそうかもしれないですね。俺は一人で遠くに行きたい願望あってバイクが欲しかったから取りましたけど、都内で車を運転するとなると駐車場代もかかりますからね。維持費もあるし……」
「でしょでしょ」
うんうんっと上下する形のいい頭をポンポンしたら、不意に尾台さんがポンっと拳で手の平を打った。
「あ」
「どうしたんですか?」
胸の所から俺を見上げて言う、
「取ろうかな、私も!」
「ん?」
「ん、じゃないよ。免許だよ免許。尾台さんも車の免許取ろうかなって言ってるの」
「挑戦する姿勢はいいと思いますが、なぜ急に? 俺の運転で怖かった経験ありますか」
「ないよ! 袴田君って穏やかに運転しそうな見た目して、性格じゃ煽りそうだけど、実際は安心なアクセル走行でした。ブレーキも優しいしむしろうちのお姉ちゃんの方が荒かったくらい」
「一般的な運転でしょ。尾台さん助手席にいればさらに慎重になりますがね。身分証明の一つとして所持していたいのなら止めませんけど」
「マイナンバーカードあるから身分証明じゃなくて、車運転する為に欲しいの!」
急に興奮した眼差しで見上げてくるけど、正直あんまり尾台さん車の運転向いてなさそうに見えるし、一人で乗られんの嫌だな。
「どうかな……筆記はすんなりいけそうでも尾台さんは実技の面で難ありそうですし、無理しなくても」
「例えば?」
「色々ありますが…………縦列駐車とか難しいですよ」
と何となく口元を手で覆えば尾台さんは俺の膝を叩いて意気揚々と言う。
「そんなの追い込み車線からの高速ドリフトでピタリ縦列駐車をキメてやりますよ! 進入速度めっちゃ早いから」
「YouTubeで何の動画見たの? 教習所でそんな事してる人前代未聞だから」
「いけないの?」
「停まればいいってもんじゃないしょ、公道で高速ドリフトしてる時点で道路交通法違反です」
「…………」
無言の目が訴えてくる。
マジかよ、じゃないんだよ。にゃんにゃんさんのこういう突き抜けた発想好きだが、教習所に迷惑がかかるといけなので、ここで止めておかないとな。
「今からわざわざお金払って免許取る必要ないでしょう。他の資格」
「でもおお!」
俺の服力いっぱい握ってきて、どうしたんだ。
「何がそこまで尾台さんを動かすんですか」
尾台さんは唇を一度噛んで泣きそうな視線を合わせると、グッと顔の距離を狭めてきた。ふわりと香る彼女の匂いに胸が疼いて、細く繊細な指が少し下がった俺の眼鏡を直す、その綺麗な指が横にずれ耳に手を添えられて、尾台さんの唇が迫る。
クッと息を飲み込んで、甘く湿った声が熱い吐息と一緒に俺の鼓膜を揺らした。
「ねえ袴田君」
「はい」
「怒らない?」
「怒りません」
「あのね……?」
「はい」
「私の運転する車でかーせっく」
「最短の免許取得に向け手取り足取り教えます。実技にはぜひうちの別荘を使って下さい。私道ですから、ドリフトし放題です」
※本日より、袴田君のコミカライズがスタートします!
コミまだ君、とってもイケメンです。
尾台さんも可愛いので、ぜひ読んでみてください。
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