絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした

松ノ木るな

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 愛娘マドラインが年頃になり、さしもの私も、ただ悠長にしてはいられなくなりました。

(そろそろ先を定めなくては……)

 そんな折りに、彼より提案されたのです。娘を由緒あるジェンクス公爵家のご嫡男に嫁がせるのが最善だと。

「洗練された立ち振る舞いの、物腰柔らかな好青年だと噂の方ですわね」

「仄聞ですが……以前の舞踏会でマドライン様は、かの若君に好感を持たれておられたと」

「まぁ……それは知らなかったわ」

 それならば願ってもないお話です。彼が取り成すと約束してくれました。

 公爵家に嫁いだ娘が子を産めば、彼女の地位は盤石となる──。あそこの御家なら生まれた子が女児であっても、王家に入ることが確約されます。

 私の人生は我が娘という存在のための布石であった。それで構いません、十分に報われます。

 すべての懸念を払拭し、これからの私はどこへでも行ける。

 ゆえにこの頃から、私は出国を目論んでおりました。



 マドラインが16になり、婚約しておりましたブルース・ジェンクス様との挙式も、つつがなく終えました。

(長かったわ、ここまで……)

 私にとりましては計画の総仕上げへ、カウントダウンが始まったのでございます。

 挙式より季節が一巡した時節に、マドライン懐妊祝いの夜会を我が家で催す運びとなりまして。

 私は私の名でステュアートに招待状を送りました。


 暮れ時より始まった夜会は毎度のことですが、集う人々の思惑が混ざりあい、煙のこもったようです。

 食事の席では、夫とその取り巻きがいつもと変わらぬ話に興じておりました。過去の栄光を称えられ悦に浸る夫。周囲では大概の者が食傷を腹におさめ、終わらない巧言に耳を傾けて。

 私は一度バルコニーに出て夜空に浮かぶ三日月を眺め、そして庭先に目を向けました。

 荘厳な表玄関口の向こうに多くの新聞記者が詰めかけております。それはステュアートと私で呼び掛けておいた者々。

 私は踵を返し、そのまま晩餐の場を抜け廊下で辺りを見回しました。ステュアートが到着している頃ですから。

「ステュアート!」

「ルシール様、本日はお招きいただきまして」

 相も変わらず身のこなしの美しい彼は、儀礼のキスの後、私を誰の目にも触れない踊り場に連れていきました。

「あなたのための記者陣は十分でしたでしょうか。彼らの、ネタへの期待値も上げておきましたが」

「私の目的はほんのついでですわ。あなたのお披露目の方が大事。嫡男であるあなたのお兄様を穏便に排し、今宵、あなたの悲願であった襲爵とクアーク家の陞爵を世間に発表する。後見役の方も到着していますわね? このために十数年もの間、あなたはブランドンのような無能の大臣にこき使われていたのだもの」

「いいえ。私は襲爵いたしません」

「え?」

 思いもよらぬ返事が返ってきました。彼は、私のような一婦女をも利用して、叙爵のため奔走していたというのに。

「どういうこと? 今までのあなたの労苦はなかったことにしますの?」
「こちらへ」
「え……?」

 彼が私の手を引いて連れてきた部屋は書斎でした。

「こちらにアリンガム侯をお呼びしております。あなたはカーテンの中に隠れてください」
「え、ええ……」

 ここにきて夫と何を話すというのか、私は予想だにしておりませんでした。

 間を置かず、のしのしと夫が入室してまいりました。重そうな身体を振るうように机に向かい腰掛けます。

「貴様と私は公の場でけして顔を合わせぬ決まりだ。忘れたのか?」

「話は手短に済ませます。まずはこちらをご覧ください」

 一刻も早く酒席に戻りたい夫は、つまらなさそうに彼の持ち込んだ書類に目を通します。

 それほど灯の至らぬところでございましたが、私には夫の顔がみるみる青くなるのが見て取れました。

「すべて、あなたによる不正授爵の証拠です」

「貴様ッ……!」

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