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第4章:魔王クラタ誕生「魔王ですか?」「いいえ、会長みたいなもんです……」

第4話:不死者イコール

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 ベルゼブブから借りた蠅について、イコールのダンジョンまで行く。
 といってもシルバーに跨って、俺は蠅を紐で吊るした竿を持ってシルバーの顔の前に蠅を垂らしての移動だが。
 シルバは蠅が飛ぶ方向に速やかに方向転換する。
 物凄い速さで。
 この状況でも、ぶれることなく案内出来るこの蠅はきっとただの蠅では無いのだろう。
 もしかしたら、蠅の伯爵とかかもな。
 最初はシルバもかなり嫌そうにしてたけど、シルバのスピードに付いてこられたことで一目置いたらしい。

「ここか……取りあえずシルバは一旦帰って良いぞ」
「ヒヒーン!」

 ここからは、蠅だけで十分だ。
 ちょっと心細い。

「じゃっ、行きますか」

 蠅がやる気満々で声を掛けてきたが、ノリノリである。
 しかしながら、こっちはそれほどでもない。
 なんせ、救出対象がブラムスだ。
 ロマンスの欠片もない。
 囚われのメイベルたんくらいなら、やる気も出るのに。

「なんか、面倒くさくなってきた」
「今更ですか?」

 顔の前を飛ぶ蠅と会話をするという、凄くシュールな光景だが。
 ここはゲーム……異世界だからと自分を納得。
 未だにその設定をまだ忘れていなかった事に、右手のセーブポイントから困惑の感情が伝わってきた。
 まあ、もう戻れないし。
 いま戻っても、会社に席は無い。
 もしかしたら姉貴あたりが捜索依頼を出してるかもしれないけど。

「行方不明の元会社員の男性が発見されました。本人はゲーム会社に拉致られて、VRMMOの世界に行っていたなどと訳の分からないことを口走っており、記憶がかなり混濁している様子です。現在警察の方で精神鑑定と薬物鑑定を行っておりますが、もしかするとなんらかの宗教団体に拉致されていたのではないかと事件と事故両方で調査が進められております」

 といって、精々地元のニュースか全国区のワイドショーで1週間くらい見世物にされる未来が想像できる。
 えっ? たかが社畜の男性一人が消えて見つかったところで、ニュースになんかならない?
 そうか……
 それはそれで、寂しい。

――――――
「お待ちしておりました、マスター・クラタ」

 イコールのダンジョンに踏み込むと、執事服のヴァンパイアが出迎えてくれる。
 おおっ、ブラムスのダンジョンとは偉い違いだ。
 中に入ると、空中を漂うクラゲやヒドラ……腔腸動物の方などなど異質な生き物が多い。
 あれは何かな?
 巨大なハロバチルスの魔物?
 特に害はない……そうですか。
 それってどんな魔物ですか?
 2億年以上生きる、長寿生物。
 殺せば、死ぬらしい。
 基本的に不死に近い生き物が住んでいるらしい。
 クマムシとか、ネムリユスリカの魔物とか。
 どれも巨大化してて気持ち悪い。

「あー、不死系の人型も居ますから……安心してください。あとは植物系の一部の魔物も居ますよ」
「そうですか……貴方は?」
「私はイコール様の部下で、ジル・ド・レと申します」
「ああ、貴方が」

 これで、ヴァンパイアの始祖3人全員と会ったのか。
 というか、改めて思う。
 これが普通だろうなと。
 ブラムスが酷すぎる。
 小心者なのは分かるが、いきなり襲い掛かって来ることは無いだろう。
 ちょっと安心。
 かなり、ヴァンパイアにアレな感情を抱いていたからね。

――――――
「イコール様、連れて参りました」
「うん、通して良いよ」

 扉も白基調で、申し訳程度に金の意匠が施してある。
 装飾もそこまで華美なものじゃ無い。
 でも、それでいて高級感がある。
 まさに、ヴァンパイアのトップに相応しいと思う。

 その扉のある建物が凄い。
 ダンジョンに入って、隠し通路的なところを通って転移陣に乗って移動した先は広い湖だった。
 その湖の中心にある島。
 その島の中央に城があった。
 分かるかな?
 一階層まるまる使って、この城のあるフロアーを作ってるんだろうというくらい大きい。
 シャンボール城のような造りで、正面からの全容が見事に湖に反射して綺麗。

 なんだろう……
 ここのマスターと、ブラムスが同格?
 嘘……だろ?

 中に入ると、今度は違う男性が案内してくれた。
 ヘルシングさんという名前らしい。
 きみ、ただの人だよね?
 イコールさんの眷族となって、不死性を得た。
 そうですか。
 ミイラ取りがミイラ……
 ヴァンパイアハンターがヴァンパイアか……
 異世界って広いね。

 てか、やっぱりゲームだろう、ここ!
 固有名詞が被ってる人物が、多すぎる問題。
 
 しかし、イコールは本物のヴァンパイアっぽいな。
 いや、他のも本物だろうけど。
 格という意味でね。 

 えっ?
 ヴァンパイアじゃないの?
 イコールってヴァンパイアじゃないの?
 ただの不死者?

 ただの不死者ってのが良く分からないけど。
 吸血鬼じゃない、不死者ってことかな?
 むしろ、血を与える側と……
 うん、よく分からないけど会ってみよう。

「あっ、クラタ様!」
「お邪魔します」
「ようこそお越しくださいました」
 
 ブラムスが何か叫んでたが、取りあえず無視してここの主っぽい人に声を掛ける。
 普通に金の縁、赤い背もたれの椅子に座った若い男性。
 肌が青白いのはヴァンパイアと一緒か。
 ブラムスと違うのは、普通に立ち上がって綺麗な一礼をしてくれたところ。
 ふっ……どう考えてもブラムスより格上なんだが?

「えっと……取りあえず話はブラムスから聞いてます」
「ほらっ、謝った方が良いぞ? 今ならまだ許して貰えるから」
「俺に言ってるのか?」
「違いますよ! この若造にですよ!」
「ハッハッハ、酷いなブラムス。僕は君より遥かに長く生きてるんだけど?」

 ブラムスの言葉に対して、イコールが陽気に笑う。
 うん、爽やかだ。
 どこかの小細工ばかりする、陰険なおっさんよりよっぽど魅力を感じる。

「ん? で、イコールさんは俺に何か謝るような事をしたのか、ブラムス?」
「えっと、クラタ様の配下の私を捕らえました!」
 
 なんだろう……言ってる意味が良く分からない。
 取りあえず、なんでこいつは捕らえられてるんだろう?

「捕まる方が悪いと思うぞ。あとなんで磔にされてるの? イコールさん、詳細聞かせて?」
「はあ……一応ブラムスがクラタ様の配下に付いたという挨拶は受けたのですが、そこから精神同調を掛けながら懇々と、いかに貴方様が残虐で怖く強い人かと説明を受けまして。でもって、精神同調を受けていたので攻撃と判断して捕らえました」
「ほう……俺が残虐で怖い? そこのところを詳しく聞きたいかな?」
「えっとですね」

 イコールさんが説明しようとしたのを、柔らかな笑顔で押しとどめる。

「いえ、そこはブラムスから直接聞きたいかなと」
「えっと、それはですね……その……」
「ほら、光る眼で身体の動きを石のように封じて長い舌で体を切り刻んで、本人は首を手元で転がしながら5体に分身した体内で、それぞれがバラバラにした五体を溶かすような方なんでしょう?」

 盛り過ぎだろそれ!
 なんだ、その聖書に出てきそうな化け物的表現は。
 舌伸びないよ?
 眼、光らないよ?
 分身スキル取ってないよ?
 ブラムスを睨み付ける。

「ひっ!」

 あっ、固まった。 
 いや、別に眼光って無いよね?

「目光ってる?」
「いえ、普通の目だと思いますが?」

 うん、イコールもそう言ってるし。
 こいつの頭の中はどうなってるんだろう?

「お前には俺がどう見えているか凄く興味深い。その目を抉って水晶体の裏から覗いてみようか?」
「ひいっ……!」
「それとも、頭がおかしいのか? ちょっと脳みそを開いてみて虫が湧いて無いか調べてみようか?」
「勘弁してください」

 ビビり過ぎだろ。
 これで、イコールと同等?

『自分より強い相手に対して、極端に臆病なだけですから。実力はありますよ?』
「実力あっても、中身がこれじゃあね」

 イコールが不思議なものを見るような視線を送って来るので、苦笑いしてしまった。
 やらないよ? そんな事。

「いや、死なないヴァンパイアを普通に聖水に漬けたらどうなるか気になっただけだけど、別に目が光ったり、舌が伸びたり、分身したりしないから」
「なるほど……だったら私は大丈夫ですね。私は神の子なので」

 こいつも、イタイ奴だった。

「あっ、勘違いしないでください。身体に流れてる血が神の血というだけで、能力やスキルは生きてきた年数に比べたら妥当なものですから」

 神の血が流れてるとか言い出したけど?
 いや、じゃあ神の子って事?

「あー、確かに言い方があれでしたね。昔……まあ数千年規模の昔なのですが、たまたま地上に降りていた神を世話することになって、その時が14歳だったのですが……あっ、長くなりますけど良いですか?」
「うーん、座って良い?」
「すいません、気が利かなくて。ジルさん?」
「はっ、すぐに」

 ジルが一瞬で消えたかと思うと、普通の座り心地の良い椅子を持ってきてくれた。
 うん、この始祖さんも普通っぽい。

「えーと、神様の時間間隔っておかしいんですよね? 4年くらいしたら、お前でかくなってないかとか言い出して、人は年を取るので成長したって事を教えたら……あと200年くらい要るから、死なれても困るからって事で、血を全部入れ替えられました……物理的に」

 なにそれ?
 拷問?
 そこは奇跡的な何かじゃ無いのか?

「結果、不老不死になったのは良いのですが、その神様は、自分の世界に帰る時にうっかり私を人間に戻し忘れてしまって……だから、私はヴァンパイアでは無いですね」
「凄い美白なのに?」
「あー、ダンジョン暮らしが長いもので。それと、神の血って赤く無いんで」

 衝撃の事実がどんどん出てくる。
 でも、まあ良い人そうで良かった。

「でも、建設的な話が出来そうで良かった。ダンジョーンが亡くなったんで、ちょっとダンマス達で協力体制をと思ってね」
「なるほど、それで私の所に。それは武力も込みですか?」
「えっ? いや、俺手土産持ってブラムスのとこ行ったのに、あいつ話も聞かずに殺しにきたから力尽くで部下にしただけですよ? 話、通じますよ」
「それは助かります。お食事まだでしょう? ご一緒にどうですか?」

 おい、常識人居たぞ?
 やべ、俺はいま猛烈に感動している。

「あれっ? 私は?」

 なんか雑音が聞こえるな。

「あのー、クラタ様? イコール?」

 いや、でも良い出会いになると良いなー。
 
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