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第2章 夏
◆可愛いは正義!シルフォニアファミリー
夏の熱気がまだ地面にへばりついているような午後。
私はお気に入りの夏藍葉染めストールポンチョを羽織り、ガチャ丸とお揃いの農作業スタイルで畑とハーブガーデンの草毟りに追われていた。
(ついこの間、むしったのにもう!?)
夏の草花の生命力、侮ってはならない。
繁茂した緑が無言の圧で私を脅してくる。
「ふぅ……」
腰をトントン叩いて立ち上がったその時、向こうからケイトさんが走ってくるのが見えた。
「リアムさんが来てます。お店でお待ちです」
とのこと。どうやら何か相談らしい。
私は服の土をパンパンと払い、髪を軽く指で整えてお店へ向かった。
中に入ると、リアムさんがカウンター脇でちょっと困ったような顔をして、頬をかきながら立っていた。
お客さんの姿は他にない。
「どうぞ、こちらに」
椅子を二脚並べて促すと、ケイトさんが 白月氷を浮かべた精霊水をそっと差し出してくれた。
氷の中で咲く白い花が、グラスの中で小さく揺れる。
リアムさんはその美しさに少し驚いたように目を見開くと、私の顔を見て、口をへの字にして苦笑した。
首にはちゃっかり夏藍葉のバンダナを巻いている。似合ってるけど、アンジーさんを取られたみたいでちょっと悔しい。
「……で、どうしたんですか?」
白月白月の品のいい香りが鼻を抜ける中、リアムさんが口を開いた。
「可愛らしい(?)ウルサスの冷却小物を夜市で渡した女性のこと、覚えてる?」
「もちろん!」
秒で即答した。
朝方にフルトッピングで全部お買い上げの超絶美人を忘れるわけがない。
「その人、実は娘さんが三人いてさ。どうも、あの小物を巡って長女と次女が喧嘩してるらしいんだよ」
(えっっっ!?)
思考、即座にストップ。
三人もお子さんが!?うそでしょ!?
あのウエスト、あの肌艶、あの透明感――どこに三人分の出産の痕跡が!?
(……ということは、あの蜂蜜は三女ちゃんの時に?)
三人も産んだとは思えないプロポーション。それにどう見ても私と同い年か少し年上かくらいにしか見えなかった。
同じ女性とは思えない…いえ、もはや同じ人間とは思えない。まさか性別に才能があったなんて…。圧倒的な違いに戦慄を覚えていると――
「でね、それで…あと三つ作ってもらえないかな?」
どうやら私が戦慄の沼に沈んでる間に話は進んでいたらしい。
「三つ……?同じものをですか?」
「いや、できれば……オリジナルで……。冷却効果はいらない。その……とても言いにくいんだけど…特別に誂えて欲しい」
リアムさんは眉をハの字にしながら困った面持ちで頼んで来た。
どうやら、私が作った丸っこいぬいぐるみストラップが、お嬢様たちのハートをがっちり掴んでしまったらしい。
私の中で、ある記憶がパチンと弾けた。
(……あれだ……あれしかない!!!)
木の実を煮てジャムを作るウサギの家族が住む、切り株の家!
木苺柄のベッド!バター色のカーテンにくるみの椅子!!
子供の頃に憧れを拗らせるくらい好きだった“シルフォニアファミリー”。
ガタンと勢いよく立ち上がって鼻息荒くリアムさんの手を取った私を、?をいっぱい浮かべた顔のリアムさんが口をぽかんと開けて見上げていた。
「リアムさんっ!!協力してください!!」
「……えっ?」
もう私は止まらない。いや、止まれない。
「まず、この切り株の家!重いから素材は軽い木とかでもいいし、開く仕組みにして中が見えるようにして!で、ここが観音開き!蝶番じゃ目立つから、なんかこう、滑らかな機構で!あ!あ!箱型でもいいですよね?造形をお城みたいにして…うーん。でもそうするとウサギさんみんなドレス姿になっちゃうなぁ…。やっぱ切り株で!!それでここにベッド、椅子、あとジャム作るお鍋も欲しくて……」
語る、早口、止まらない。
テンションMAX、手は宙に「ここが開く」などと謎のジェスチャー。
もはや空間にバーチャル切り株を召喚する勢い。
リアムさんは……もう、笑ってるのか引いてるのか分からない顔で固まっていた。
頬がひくひく、目は泳ぎ、若干椅子から身を引いている。
ようやく言い終えて我に返る私。
「………ごめんなさい」
今の私にウサギの耳が生えていたならきっとしょんぼりと垂れ下がっている事だろう。
「い、いや……ノエルがそこまで情熱的に取り組んでくれるとは……ちょっと驚いただけだから……」
リアムさんはイケメンスマイルを少し引きつらせながら、私の描いた“切り株ハウス”のイラストを見ていた。
「じゃあ僕は、これをもとに職人を探すってことでいいんだね?」
そそくさとイラストを抱えて店を出て行くリアムさんの背中が、ちょっと早足だったのは気のせいじゃない。
(やっちまったぁ…)
と、頭を抱える私に、ケイトさんがふわっと微笑んだ。
優しい。けどその目は完全に “微笑ましいものを見る大人” の目だ。
(ヒンッ。その目で見ないでぇ……)
私はお気に入りの夏藍葉染めストールポンチョを羽織り、ガチャ丸とお揃いの農作業スタイルで畑とハーブガーデンの草毟りに追われていた。
(ついこの間、むしったのにもう!?)
夏の草花の生命力、侮ってはならない。
繁茂した緑が無言の圧で私を脅してくる。
「ふぅ……」
腰をトントン叩いて立ち上がったその時、向こうからケイトさんが走ってくるのが見えた。
「リアムさんが来てます。お店でお待ちです」
とのこと。どうやら何か相談らしい。
私は服の土をパンパンと払い、髪を軽く指で整えてお店へ向かった。
中に入ると、リアムさんがカウンター脇でちょっと困ったような顔をして、頬をかきながら立っていた。
お客さんの姿は他にない。
「どうぞ、こちらに」
椅子を二脚並べて促すと、ケイトさんが 白月氷を浮かべた精霊水をそっと差し出してくれた。
氷の中で咲く白い花が、グラスの中で小さく揺れる。
リアムさんはその美しさに少し驚いたように目を見開くと、私の顔を見て、口をへの字にして苦笑した。
首にはちゃっかり夏藍葉のバンダナを巻いている。似合ってるけど、アンジーさんを取られたみたいでちょっと悔しい。
「……で、どうしたんですか?」
白月白月の品のいい香りが鼻を抜ける中、リアムさんが口を開いた。
「可愛らしい(?)ウルサスの冷却小物を夜市で渡した女性のこと、覚えてる?」
「もちろん!」
秒で即答した。
朝方にフルトッピングで全部お買い上げの超絶美人を忘れるわけがない。
「その人、実は娘さんが三人いてさ。どうも、あの小物を巡って長女と次女が喧嘩してるらしいんだよ」
(えっっっ!?)
思考、即座にストップ。
三人もお子さんが!?うそでしょ!?
あのウエスト、あの肌艶、あの透明感――どこに三人分の出産の痕跡が!?
(……ということは、あの蜂蜜は三女ちゃんの時に?)
三人も産んだとは思えないプロポーション。それにどう見ても私と同い年か少し年上かくらいにしか見えなかった。
同じ女性とは思えない…いえ、もはや同じ人間とは思えない。まさか性別に才能があったなんて…。圧倒的な違いに戦慄を覚えていると――
「でね、それで…あと三つ作ってもらえないかな?」
どうやら私が戦慄の沼に沈んでる間に話は進んでいたらしい。
「三つ……?同じものをですか?」
「いや、できれば……オリジナルで……。冷却効果はいらない。その……とても言いにくいんだけど…特別に誂えて欲しい」
リアムさんは眉をハの字にしながら困った面持ちで頼んで来た。
どうやら、私が作った丸っこいぬいぐるみストラップが、お嬢様たちのハートをがっちり掴んでしまったらしい。
私の中で、ある記憶がパチンと弾けた。
(……あれだ……あれしかない!!!)
木の実を煮てジャムを作るウサギの家族が住む、切り株の家!
木苺柄のベッド!バター色のカーテンにくるみの椅子!!
子供の頃に憧れを拗らせるくらい好きだった“シルフォニアファミリー”。
ガタンと勢いよく立ち上がって鼻息荒くリアムさんの手を取った私を、?をいっぱい浮かべた顔のリアムさんが口をぽかんと開けて見上げていた。
「リアムさんっ!!協力してください!!」
「……えっ?」
もう私は止まらない。いや、止まれない。
「まず、この切り株の家!重いから素材は軽い木とかでもいいし、開く仕組みにして中が見えるようにして!で、ここが観音開き!蝶番じゃ目立つから、なんかこう、滑らかな機構で!あ!あ!箱型でもいいですよね?造形をお城みたいにして…うーん。でもそうするとウサギさんみんなドレス姿になっちゃうなぁ…。やっぱ切り株で!!それでここにベッド、椅子、あとジャム作るお鍋も欲しくて……」
語る、早口、止まらない。
テンションMAX、手は宙に「ここが開く」などと謎のジェスチャー。
もはや空間にバーチャル切り株を召喚する勢い。
リアムさんは……もう、笑ってるのか引いてるのか分からない顔で固まっていた。
頬がひくひく、目は泳ぎ、若干椅子から身を引いている。
ようやく言い終えて我に返る私。
「………ごめんなさい」
今の私にウサギの耳が生えていたならきっとしょんぼりと垂れ下がっている事だろう。
「い、いや……ノエルがそこまで情熱的に取り組んでくれるとは……ちょっと驚いただけだから……」
リアムさんはイケメンスマイルを少し引きつらせながら、私の描いた“切り株ハウス”のイラストを見ていた。
「じゃあ僕は、これをもとに職人を探すってことでいいんだね?」
そそくさとイラストを抱えて店を出て行くリアムさんの背中が、ちょっと早足だったのは気のせいじゃない。
(やっちまったぁ…)
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(ヒンッ。その目で見ないでぇ……)
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