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第一章 彼氏の悩み
2話 得意な授業も上の空
しおりを挟む「こら、集中なさい、ヤーノルドさん」
ハヤトは教師に注意され、ハッとする。今は授業中だった事を思い出した。横を見ると、自分を蔑むように見下ろしている。
「すみません、先生」
ハヤトは仕方なく謝りながら姿勢を伸ばした。すっかりオリビアの事で頭がいっぱいになっていた。
「きちんと話を聞いていましたか?この調合に必要な薬草を全て答えてみなさい」
3年生になり、魔法学はさらに難解になった。教師はきちんと聞いている生徒でさえ分からない質問を、ハヤトにぶつける。成績は良くても、普段からあまり態度が良いとは言えないハヤトに恥をかかせるつもりだ。しかし彼は、顔色一つ変えない。
「ああ…はい。それなら、コマゴマの種を10粒、キキ草15g。あと……」
スラスラと答えていくハヤト。話は何も聞いていなかったが、日課である趣味のゴブリン退治のためによく作っている魔法薬だから、簡単に分かる。教師はハヤトに完璧に答えられて苦虫を噛み潰したような顔になった。
「…コホン。聞いているならよろしい」
先生は気まずそうに授業へ戻った。クラスメイトたちが小声で感嘆する。
「凄すぎるだろ、お前。よく分かるな」
「ありがとう」
友人たちに褒められ優しい笑顔をふりまくが、心の中では辟易していた。
この学校は魔法学に慎重になりすぎだ。いくら魔法の解明が進みきっていないとはいえ、座学ばかりでなくもっとたくさん実習を重ねて、体で覚えさせればいいものを───ハヤトは授業スピードの遅さを嘆く。
教師が離れた途端にまた気が逸れて、ちらりとオリビアを見た。
恋人のオリビア・ポットは、今日もお気に入りの窓際の席に座っている。勉強の傍らに外の景色を眺めると、いい息抜きになるらしい。彼女は肩まで伸びた黒髪をクリップで留め、教科書とにらめっこをしている。予習した部分以上に授業が進んだのか?先生の話を真剣に聞いてはいるが、あの様子じゃ何も理解出来ていない事だろう。ハヤトはそう思った。
───あの状態からの学年2位なんだから、彼女は凄いんだよな。
オリビアは理解スピードも遅いし、魔法の素質こそ無いが、人一倍努力家で勤勉だった。
オリビアの影の努力は、ある種の才能と言っても良い。
だから彼女は、天才肌であるハヤトを以前よりライバル視していた。初対面でも真っ向から勝負を挑み、そして負けていく。しかし、今までハヤトの才能に怖気付く者はいても、立ち向かう者はいなかった。
何度負けても果敢に挑戦してくるオリビアに、ハヤトはすぐに好印象を抱いた。色々と遠回りもしたが、猛アタックのかいあってか、はたまたハヤトの強すぎる好意の押し付けに降参したのか、ついに2年の終わりに、オリビアを恋人にする事が出来たのだった。
ハヤトの視線に気づいたのか、オリビアは目線だけを彼の方へ向けた。一瞬目が合うが、すぐに逸らす。先程のハヤトの完璧な受け答えに、嫉妬しているのだ。それもいつもの光景である。
───オリビアの不機嫌そうな顔を見ただけでドキドキする。あの怒っている顔がたまらない。今すぐ抱きしめたいよ。でも、今は我慢だ。早く終わらないものか……
ハヤトは、時計の秒針をじっと見つめた。
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