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第一章 彼氏の悩み
3話 僕の部屋へおいでよ
しおりを挟む今日の授業が全て終わった途端に、ハヤトは愛する彼女の席へ向かおうと立ち上がった。ハヤトは特別進学科で、オリビアは普通科である。学科は違えど、選択科目の魔法学では今年も同じ教室だ。本当に良かったと彼はしみじみ思う。
「オリビア!!」
我慢出来ず大きな声でその名を呼ぶハヤトに、何人かのクラスメイトが背中を叩いて声をかけた。
「お前今日、オリビアのこと見すぎだよ。良かったな、待ちに待った放課後だ」
「ああ、どうも」
クラスには、もうすでに2人の関係は知れ渡っていた。ハヤトのオリビアに対する執着は付き合う前から凄まじいものであったため、初めこそからかう者もいたが、今ではすっかり公認になっていた。というより、周りを気にしないハヤトに皆引いているのだ。
「オリビア、今日さ、僕の…」
話しかけようとして、ハヤトは止まった。オリビアは今日習ったことを、ザッとノートに早書きでまとめているところだった。彼女はハヤトを無視して、ペンを走らせ続ける。
ハヤトはオリビアの気を引こうと手を伸ばしかけたが、思い留まる。彼女が勉強をしている時は、邪魔をしてはいけない。よく分かっている。
だが分かっているのと納得するのは違う────勉強なら、僕の部屋ですればいいじゃないか。教えると言っているのに。
手が勝手に動いた。オリビアの頬をつついたり、髪を撫でたりしてちょっかいをかける。彼女はうっとおしそうに、その手を振り払った。
「勉強の邪魔はしないって約束よね」
「してないじゃないか。キスもハグも我慢してるんだぞ」
「………」
オリビアは黙り込み、作業に戻った。ハヤトの言い分に呆れたのか、無視をし始める。
しかしそれが、ハヤトのイタズラ心に火をつけてしまった。
「ねぇ、実技も復習しといた方がいいんじゃない?」
「え?」
「写真だけじゃ分かりづらいよね、どうして座学でやるんだろう。今日習ったキキ草ってね、実物は柔らかいんだよ…ちょうどこの耳たぶぐらい…」
そう言って、横からオリビアの耳を触る。
「ひゃっ、ちょっと、やめてよ」
ビクッと肩をすくめながらも手は止めないオリビアに、さらに追い打ちをかける。
「あれ、違ったかな。耳じゃなくて、唇だったかな?」
オリビアの頬に手を添えて、そのまま唇に親指を這わせる。彼女は顔を赤くして、慌てて羽根ペンを置いた。このまま無視し続けていると、この手は何をするか分からないと思ったのだろう。
「わ、分かった!分かったから!」
オリビアの反応に満足したハヤトは、ニヤリと笑みを浮かべて、ようやく彼女から手を離した。
「やっとこっち見てくれたね」
「もう!どこだと思ってるの…少しは場所考えなさいよっ」
オリビアは小声で抗議した。教室には、まだ生徒が数人残っている。
「ここでするからいいんじゃないか。見せつけたいんだよ」
「何考えてるの!学校でベタベタしないで。私は目立つのが嫌なの」
「あれ、注目されたいんじゃないの」
「それは勉強の話!私だって皆に凄いって言われたい!あなたこそ、周りの目なんて気にならないんじゃないの?」
「それは勉強の話。賞賛なんかいらないよ。でも恋人は、自慢してこそだろう」
ハヤトは真顔で言い切った。どこまでも平行線な2人である。
「とにかく、皆が見てる前で触るのはやめてよ」
「だったら、勉強なら僕の部屋でしようよ」
「はぁ………分かったわよ」
とうとうオリビアが折れて、片付けを始めた。ハヤトの粘り勝ちである。
「やった。すぐ行こう」
ハヤトはオリビアの教科書が入ったかばんを奪い、手を握るとぐいぐいと引っ張った。
「ねえ、かばん返してよ」
空いている手を伸ばされるが、素早くかわす。
「やだ。返したら図書館に行くだろう。今日は絶対に僕の部屋に来て貰うからね」
「またその手ね………」
オリビアは諦め、大人しく手を握られたまま歩き出した。
ハヤトには良く分かっている。この子は勉強道具を人質にされると、弱い。
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