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3.あの日1
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ヤジールとキタロスを伴い、二人暮らしの小さな家へ帰宅する。
二人をソファーに座らせ、私はテーブルをはさんで正面の床にクッションを敷いて座った。
お父さんは丁寧に紅茶を淹れると、頂き物のクッキーと共にテーブルへ置き、「ふう」と息をつきながら私の隣にあぐらをかいて座る。
「それで、マリコさんについてお尋ねだとか?」
お父さんが口を開くと、紅茶をすすっていたヤジールがそっとカップを置いた。
「ええ、マリコが急にいなくなってしまいまして……。」
ヤジールの言葉にお父さんと私は顔を見合わす。
「マリコさんは十年前にいなくなってから、僕たちのところに帰ってきていませんが?」
「そうでしたか……。
十年前にマリコを召喚してから、彼女は聖女として私たちの世界を守ってくれていました。
しかし、三日前に急に姿を消して、彼女の聖力の軌跡を辿るとこちらの世界にやってきているのが分かって……。」
「え?」
この人、さらりとお母さんを誘拐したことを告白してない?
お父さんの方を見ると、顔面蒼白になっている。
「つまり、あなたたちがお母さんを連れ去ったということですか?」
私は極めて冷静に尋ね直す。
「連れ去ったとは、人聞きが悪い! われらは聖女としてマリコ様をお迎えしたのだ!」
キタロスが憤慨しながら訂正する。
お母さんは、仕事帰りに突然姿を消した。
会社を出てから大通りを走り、路地を曲がったところまで。
お父さんは、街の監視カメラに写っていたお母さんの最後の映像を、頼み込んで何度も見させてもらったそうだ。
その路地を抜けると駅前の通りに出るそうなのだが、お母さんがその路地から出てくることはなかった。
だから、私は路地が苦手なのだ。
お母さんが消えたように、細い路地に自分も吸い込まれるような気がしたから。
そういえば、その監視カメラの映像の端、路地の奥から白い光が一瞬出て消えたとお父さんが言っていた。
私もさっき、白い光に吸い込まれそうになった。
「お母さんは、さっきの白い光に吸い込まれてしまって、あなたたちの世界に行ったの?」
「うむ、あれは召喚の儀式で出来たゲートだ。神官たちの聖力が集まりできるので、あのように眩い光を放つのだ。」
ヤジールは自慢げに話した。
「大人しく光に吸い込まれていれば、次はお前が名誉ある聖女になれたというのに!
まさか我らをひっぱり上げるとは、常識のない女だ。」
キタロスは腹立たし気に、やはりオーバーリアクションで私に抗議をしている。
私が唖然としていると、隣で「ブチッ」と音がしたような気がした。
お父さんから感じたことのない熱気が立ち込め、いつも温和でにこやかな顔から笑みが無くなった。
「マリコさんだけでなく、ヒカルまで誘拐しようとしていた?」
大声を張り上げるのではない。
ただ、いつもよりも低い、お父さんの声が耳だけでなくお腹まで響いてくる。
「あなたたちは、ヒカルから母親を、僕から妻を取り上げたと自覚はあるのか?」
「いや、だから誘拐とか取り上げるとかではなく、マリコ様を聖女として……。」
お父さんの豹変ぶりに、キタロスがたじろぐ。
「連れて行くとき、彼女はそれを同意したのか?」
「いや、マリコは最初泣いていた……。」
ヤジールも先ほどまでの尊大な態度ではない。
自分たちが行った行為が誘拐であるということを、十年目にしてやっと気が付いたという感じだった。
二人をソファーに座らせ、私はテーブルをはさんで正面の床にクッションを敷いて座った。
お父さんは丁寧に紅茶を淹れると、頂き物のクッキーと共にテーブルへ置き、「ふう」と息をつきながら私の隣にあぐらをかいて座る。
「それで、マリコさんについてお尋ねだとか?」
お父さんが口を開くと、紅茶をすすっていたヤジールがそっとカップを置いた。
「ええ、マリコが急にいなくなってしまいまして……。」
ヤジールの言葉にお父さんと私は顔を見合わす。
「マリコさんは十年前にいなくなってから、僕たちのところに帰ってきていませんが?」
「そうでしたか……。
十年前にマリコを召喚してから、彼女は聖女として私たちの世界を守ってくれていました。
しかし、三日前に急に姿を消して、彼女の聖力の軌跡を辿るとこちらの世界にやってきているのが分かって……。」
「え?」
この人、さらりとお母さんを誘拐したことを告白してない?
お父さんの方を見ると、顔面蒼白になっている。
「つまり、あなたたちがお母さんを連れ去ったということですか?」
私は極めて冷静に尋ね直す。
「連れ去ったとは、人聞きが悪い! われらは聖女としてマリコ様をお迎えしたのだ!」
キタロスが憤慨しながら訂正する。
お母さんは、仕事帰りに突然姿を消した。
会社を出てから大通りを走り、路地を曲がったところまで。
お父さんは、街の監視カメラに写っていたお母さんの最後の映像を、頼み込んで何度も見させてもらったそうだ。
その路地を抜けると駅前の通りに出るそうなのだが、お母さんがその路地から出てくることはなかった。
だから、私は路地が苦手なのだ。
お母さんが消えたように、細い路地に自分も吸い込まれるような気がしたから。
そういえば、その監視カメラの映像の端、路地の奥から白い光が一瞬出て消えたとお父さんが言っていた。
私もさっき、白い光に吸い込まれそうになった。
「お母さんは、さっきの白い光に吸い込まれてしまって、あなたたちの世界に行ったの?」
「うむ、あれは召喚の儀式で出来たゲートだ。神官たちの聖力が集まりできるので、あのように眩い光を放つのだ。」
ヤジールは自慢げに話した。
「大人しく光に吸い込まれていれば、次はお前が名誉ある聖女になれたというのに!
まさか我らをひっぱり上げるとは、常識のない女だ。」
キタロスは腹立たし気に、やはりオーバーリアクションで私に抗議をしている。
私が唖然としていると、隣で「ブチッ」と音がしたような気がした。
お父さんから感じたことのない熱気が立ち込め、いつも温和でにこやかな顔から笑みが無くなった。
「マリコさんだけでなく、ヒカルまで誘拐しようとしていた?」
大声を張り上げるのではない。
ただ、いつもよりも低い、お父さんの声が耳だけでなくお腹まで響いてくる。
「あなたたちは、ヒカルから母親を、僕から妻を取り上げたと自覚はあるのか?」
「いや、だから誘拐とか取り上げるとかではなく、マリコ様を聖女として……。」
お父さんの豹変ぶりに、キタロスがたじろぐ。
「連れて行くとき、彼女はそれを同意したのか?」
「いや、マリコは最初泣いていた……。」
ヤジールも先ほどまでの尊大な態度ではない。
自分たちが行った行為が誘拐であるということを、十年目にしてやっと気が付いたという感じだった。
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