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なんか気絶だって

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 己の服を拾いながら去り行く後ろ姿、いと寂し。
 青白い印象のお尻が悲壮さを引き立てる。
 ポポラの後ろ姿に、文字通り祭りの後の哀愁を感じていた文月にリグロルが声を掛ける。

「フミツキ様、タルドレム様の元に戻りましょう」
「あ、うん、そうだね……」
「どうかされましたか?」
「えっと、そのね?タルドレムは怒ってなかった?」
「いいえ、ちっとも。フミツキ様の事をご心配されて、脅かして悪かったと仰られてましたよ」
「そうなの?」
「はい、ご気分を害されたなんて事はございませんから、ご安心下さい」
「そっか……うん、けどちゃんと謝る」
「ご立派です。そのお心をタルドレム様は、きっと受け入れてくれますよ」
「うん」

 リグロルに先導されタルドレムの部屋がある廊下まで戻ると、扉の前でタルドレムとニムテクが何やら話し合っていた。近づく文月に気がついた2人は同時に声をかける。

「フミツキ、場所を変えよう」
「フミツキ、こっちに来な」
「えっと???」

 何やら察したリグロル。

「フミツキ様、タルドレム様の言う通り場所を変えましょう」
「許さないよ。何よりフミツキのためだ」

 ニムテクがピシャリと言い放つ。

「怒っている訳じゃない、咎めるつもりもない、自覚が必要だと言ってるんだ」
「えっと?何の事ですか?」

 文月がニムテクに問い掛けるとタルドレムとリグロルは黙ったがその表情は心配そうに文月を見ている。

「おいで」
「あ、はい」

 ニムテクが文月を促し、タルドレムの部屋の扉を開けた。
 そこには見るも無残な瓦礫の山と壁の大穴、そこから吹き込む外の冷たい風、そして瓦礫を片付ける人たちがあった。

「……あの?……これ?……もしかして?」
「そうだ、フミツキ。あんたがやったんだ」
「!」

 文月は顔を両手で覆い、その場に崩れ落ちた。
 とっさにタルドレムが文月を上から抱きしめる。

「だから早いと言ったんだ!」

 初めて聞くタルドレムの怒声。そこに冷静なニムテクの言葉がかぶさる。

「じゃぁいつなら良いんだい?」

 タルドレムは反論ができなかった。

「次の失敗の時かい?それともその次かい?今回死人が出なかったのは、たまたまあんただけだったからなんだよ。暴発だけで王族の部屋に使われる厚みの壁を防御結界ごと粉砕したんだ。取り返しのつかない失敗の前にこの子は自分の力を知るべきだ」

 顔を覆った文月の手から涙がこぼれる。

「ご、ごめんなさい。ごめんなさいっ。ごめんなさいっ!」
「大丈夫だ、フミツキ!気に病むな、大丈夫だ!」

 ニムテクが泣き崩れている文月に近づき頭に手を乗せる。

「フミツキ、顔をお上げ」

 優しく、そして静かな声でニムテクが文月に語り掛ける。文月はタルドレムにしがみつき泣きじゃくりながらも顔を上げた。

「いい子だ」

 ニムテクが文月の頭を撫でる。文月の泣き顔がさらにゆがみ涙があふれ出すが顔は上げたままだ。

「フミツキ、あんたは今日、失敗した」

 文月が泣きながらうなずく。その姿を、見るに堪えないとばかりにリグロルは自分の口元を覆い下を向く。

「いいかい?今日の失敗は取り返しのつく失敗だ。やり直せる失敗だ」
「えぐっ……えぐっ!」
「だがこの失敗は、このままだと取り返しのつかない失敗に間違いなく繋がる」

 こくこくと文月がうなずく。

「花嫁修業だの何だの考えてたが全部辞め。まずは自分の力を知りな。優しいあんたの事だ、誰かを傷つけるなんて嫌だろ?」

 ニムテクの言葉に文月が一も二もなくうなずく。

「いい子だ。今日はもうお休み。明日から魔力の操作を覚えよう。今日はお休みな」
「ご、ごめんなさい」
「ああ、それだけ気にしてるなら大丈夫。今日は誰かと一緒に寝てもらいな」
「うっうっ、ご、ごめんなさい」
「うんうん、明日から頑張りな。タルドレム……、あんたはまだ早い。リグロル、一緒にいておやり」
「ぐすっ、畏まりました」

 微妙な表情になったタルドレムから文月を受け取り、目元を赤くしながらもリグロルはしっかりと文月を支える。
 ぐずりながらも文月はリグロルに支えられてタルドレムの部屋を出ようとし、振り返った。

「えぐっ、えぐっ、た、タルドレムっ、ご、ごめんな」

 文月の謝罪は途中で遮られた。
 タルドレムが駆け寄り文月の謝罪を遮ったのだ。
 謝罪をしようとした文月の唇をタルドレムの唇がふさぐ。
 ……、……。

「泣くなフミツキ、気にするな」
「っ……っ……はっ……っ」

 ぱっかーん!
 タルドレムのおでこにニムテクの杖がヒットした。

「泣いてる女の隙につけいるたぁ恐れ入った!フミツキの前にあんたを教育しなおしてやる!」
「まて!ニムテク!今のは」
「聞く耳持たないね!」
「待て!待て!今、その杖、魔力を込めてただろう!俺じゃなきゃ頭が飛んでたぞ!」
「それがどおした!何なら全力でぶちのめしてやろうかい!」
「待て!待て!」
「行儀ってもんを叩きこんでやる!」
「叩き込んでるのはっ危なっ!」
「よけるんじゃないよ!」
「無茶言うな!」
「お待ち!」

 全力で逃げ出したタルドレムを空中に浮いたニムテクが追いかける。
 あっという間に二人は部屋を飛び出し走り去っていった。

「フミツキ様、お部屋に戻りましょう」
「う……ん」

 混乱の上にさらに混乱を重ねられ、思考停止した文月は動けない。

「り、リグログ……ぼく……タルドレムと、キ……」

 文月は自分の意識を手放した。

「フミツキ様ー!?」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 目が覚めた。だが暗い。
 文月は自分が柔らかくいい匂いに包まれていることに気がついた。
 リグロルが文月を胸元に抱き抱える様にして寝ていたのだ。
 リグロルの胸の柔らかさと暖かさが嬉しい。文月はくりくりとリグロルの胸の谷間に顔を埋め深く息を吸ってはいた。
 リグロルは無意識なのか寝ぼけているのか、少し身動ぎながら文月をしっかりと抱きしめ直す。そして直ぐに安定した寝息を立て始めた。
 リグロルの寝息を頭上で聞きながら文月は目を閉じ、リグロルの胸に顔を埋める。
 暗闇のなかで思い出すのは今日の出来事。
 タルドレムの部屋に遊びに行った。
 びっくりして逃げ出した。
 全裸のダムハリに追いかけられた。
 戻ったらタルドレムの部屋が壊れてた。
 ニムテクに叱られて、慰められた。
 タルドレムに……き、キスされたっ。
 かーっと体温が上がる。
 色々あった今日の出来事全てが、最後の1つで覆われる。
 ど、どうしよう?どうしよう?
 夢かな?夢だったのかな?
 明日どんな顔で会えばいいの?
 てか男にキスするなんてタルドレムは何考えてるんだよ?!まったくもう!
 まったくもう!もう!もう!もー!
 僕、牛になっちゃうじゃん!
 ……。

「うふふ」

 なんだか一周まわって妙なテンションになった文月はくすくす笑ってしまう。
 リグロルの胸の谷間に顔を埋めてくすくすっ。
 文月はなにやら幸せな気持ちになり、自然と口元が緩む。
 やだなぁもぅ、タルドレムってば僕に、き、き、キスなんてしちゃって、ホントにもうやだなー。
 くすくすっ。
 僕、男だったのになー、やだなーもー。
 もー、ほんとにもー。ほんとにもー。
 うふふふ。
 そのうち意識が暗闇に溶けて文月は今度こそ安心して眠りに入った。

 文月が目を覚ました事にリグロルは気がついていた。しばらく自分の胸に顔を擦り付けていたと思ったら急に文月の体温が上がる。と思ったら今度は声を抑えてくすくす笑いだした。
 なるほど、本日の出来事を思い出されて嬉し恥ずかし乙女の気持ちですね。存分に、繰り返し、何度も思い出して頂きましょう。
 リグロルも嬉しくなりながらも、寝たフリを継続。胸の谷間に顔を押し付けて笑われるととてもくすぐったい。けど我慢。
 フミツキ様の思い出しを邪魔してはならないという一心でリグロルは笑いそうになるのを堪える。
 そのうち文月はまた眠った様だ。寝息は気絶した先程と違いとても安心している様で深くゆっくりしている。
 リグロルは文月と自分をもう一度毛布でしっかりと包み直す。
 文月の幸せな気持ちが伝わり、リグロルも温かい気持ちになりながら再び寝直した。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「フミツキ様、フミツキ様、朝でごさいますよ」
「うー、あ゛ーおはよー」
「おはようございます、さあお顔をお拭きしますから起きて下さいませ」

 リグロルに起こされ文月はベットの端に座る。
 姫君の部屋のカーテンは全て開けられ室内は朝の清々しい光が奥まで届いている。
 まるで空気が光っている様でその眩しさに文月は目をくりくりこすった。

「あー、よく寝た様な寝られなかった様なー」
「あらあら、ぐっすりとお休みの様でしたのに」
「うーん、途中で目が覚めちゃって」
「あらあら、それはそれは、はいお顔をお拭きしますよ」
「んー」

 お湯につけて固く絞った布でリグロルは文月の顔を拭いてゆく。

「さあフミツキ様、装いましょう」
「うん、……あ」
「どうかされましたか?」
「た、タルドレムも来るんだよね?」
「はい、来られると思いますよ」
「はぅー……」

 さて、リグロルは考える。
 昨日は珍しくタルドレム様が強引に動かれた。ならばここは一旦引き、さらにもう一歩だけ踏み込んで頂くのも手だ。

「朝食のお時間をずらしましょうか?こちらにお持ちする事も出来ますよ」
「あ、うん、あー……いや、いくっ」

 おぉ戦う乙女!
 リグロルは内心で拍手喝采!恋という戦場に向かわれるフミツキ様を最高に仕上げてご覧に入れましょう!!!
 左の掌に右の拳をぶつける。
 パーン!

「ご立派です。このリグロルも微力ながら最大限のご助力をさせていただきます」
「うぉっ、よ、よろしくね?」
「はい、お任せくださいませ」

 リグロルの気合の入れように若干引きながらも文月は着替えを始めた。
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