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この場は苦痛であるけれども、明日からの事を考えれば気持ちは軽い。


マキシマス国立学園。
名前の通り国が優秀な人材を育てる為に作った国の為の学園。

16歳になる年から満19歳までの4年間。将来この国を担う優秀者や国を担う貴族の子息女が集まるこの国1番の学びの場。

この学園に通うのはこの国に者にとって誉であり、憧れなのだ。

学園に通う間は完全寮生活。

それは、王族とて同じ。

私は2年前から急遽始まった妃教育から逃れる事ができるこの時を心待ちにしていた。

たった4年間かもしれないけど、第2王子の婚約者としての責務から少しでも逃げられる。



国王との謁見が終わり部屋を出ると、マルク様は繋いでいた私の手をサッと離す。


「学園に行っても私の手を煩わせる事はするなよ」
「かしこまりました」

それだけ言ってマルク様はそのままとっととその場から立ち去っていく。


決して私の方は見ない。
取り残された私はマルク様の後ろ姿を見ながら思わず深く息を吐く。

「“手を煩わせる事はするな”…か。学園に行ったらあまり関わりたくないわ…まぁ、この調子ならあちらから関わってくる事は無いでしょうが…」


誰に言うわけでもなくポツリとつぶやいて、私はマルク様が行った方とは逆方向に進む。


王宮の外に出ると、我が家の馬車の前に微動だにせず立っている女性を見て私は思わず笑みを浮かべてしまう。

「リナ。待たせたわね。ずっとそうやって待っていたの?」
「カロリーナ様。陛下との謁見はもう終わったのですか?」
「えぇ。終わったわ」
「無事終わって良かったです」
「馬車の中で待っていれば良かったのに…」
「そんな訳にはいきません」
「リナは本当に真面目なんだから」
「それだけが取り柄ですから」

いとも当たり前のように自信満々に答えるリナに私はフフッっと思わず声を出して笑ってしまう。


リナはマルク様との婚約が決まった際にミスドナ家で新たに雇った私の専属侍女で、明日からの学園にも付いてきてくれる。

まだ付き合いは2年と短いけど、今では私にとっていなくてはならない姉の様な存在になっている。


笑う私にリナは優しく微笑む。

「カロリーナ様。明日は忙しくなります。早く帰ってお休みにならないと…」

「そうね。帰りましょう。お父様もお母様もきっとお待ちよね」
「はい」

リナが御者に視線を送ると御者が馬車の扉を開く。

リナは慣れた手つきで私をエスコートして、私が座った事を確認すると自らも馬車に乗り込んで再び御者に視線を向ける。
御者は軽く頷いてから私に対して深々と頭を下げて扉を閉めた。

そして、リナは私に膝掛けをサッと掛けると馬車が動き出して家路に向かう。

辛いことは多いけど、リナと出会えた事だけはよかったと思える。
今の私の近くにリナがいてくれると思うだけで心強い。

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