10 / 10
10.眠れぬ夜
しおりを挟む
*ランスロット視点*
セシリアがベッドに横たわると、すぐに安らかな寝息が聞こえてきた。
椅子に腰掛け、深く息を吐き出す。
両肘をテーブルにつき額にあて、うつむく。
あ、危なかった……。
落ち着け、落ち着くんだ、ランスロット・ハーディ。急いては事を仕損じると教えられていただろう。
自身の右手を開き、ジッと見つめる。
セシリアを支えた時の感触がよみがえってくる。
華奢な腰は折れそうなほど細く。
フワッと鼻孔をくすぐる石鹸の香り。
寄りかかる体温を感じた時、体中の血が逆流するかと思ったほどだ。
高揚した頬、艶やかな唇。潤んだ瞳でこちらを見上げる姿は、魅力的すぎて理性が飛びそうになった。
実際、あのまま少しでも遅かったら、彼女の手首をつかみ、その細い腰を強く抱き寄せ、唇を奪いそのまま――。
そこでハッと我に返る。
なにを考えているんだ!! 想像の中とはいえ、彼女を汚すようなことをしてはならない。
邪な感情はすべて滅するんだ!!
こんな夜は飲むに限る。グッとワイングラスを傾けた。
そっとベッドの方をうかがい見ると、安らかにスヤスヤと眠るセシリアの姿がある。
セシリア、愛しい我が妻――。
妻という単語が脳裏に浮かぶと、顔がボッと火照った。
これでは世間で噂されている冷静沈着な自分らしくもない。
大きく頭を振りかぶり、グラスにワインを注ぐ。
先日は体調を崩したらしく、自室で食事を取っていたセシリア。数日間、顔を合わせることができなった。
心配になり部屋の前まで行ったのだが、扉を開く勇気が出ず、立ち尽くしているだけだった。
幸い、医師の診断は軽いものだったが、心底安堵した。
なにか心配事でもあるのか? いまだ慣れない環境に戸惑っているのか。
しかし――。
先ほどは彼女の新しい一面を見ることができた。
果実酒を飲み、とても楽しそうだった。
頬を赤く染め、目は潤んでいた。
クルクルと部屋で踊る姿は、目が惹きつけられた。まるで部屋に妖精が忍び込んだのかと、錯覚するほど見とれてしまった。
ずっと見ていたい、そうずっと――。
だが、残念なことに彼女は見られていることに気づくと、固まってしまった。
恥ずかしがっている姿がまた、愛おしかった。
もう寝るとするか。
グラスを傾け空にすると、ベッドに近づいた。
先に眠るセシリアは少し口を開け、深い眠りについている。
その寝顔のなんたる可愛らしいことか!! その破壊力はとてつもない!!
ベッドの端に腰かけ、しばし悶絶する。
ああ、一週間に一度、セシリアに近づくことが出来るこの至福の時間は、誰にも邪魔されたくはない。
ジッと見ていると彼女が寝返りを打つ。
むにゃむにゃと口を動かしているのは、楽しい夢でも見ているのだろうか。
そっとシーツを引っ張り、肩にかける。また体調を崩しては大変だ。
ゆっくり、ゆっくりでいいから、彼女との距離を縮めていこう。
それまでは彼女の許可なく手を出すことはしないと誓う。
いい夢をみて眠れ、セシリア。
そっと言葉にし、ベッドに横たわる。
だが一向に眠気はやってこない。
隣に彼女が寝ていると思うだけで目が冴えてしまう。
手を伸ばせば届く距離にいると思うと、なおさら落ち着かない。
彼女の放つ甘い香りがまた、刺激される。
深くため息をつきながら、彼女の寝顔をジッと見つめる。
長いまつ毛、小さな赤い唇、聞こえる吐息。
そのすべてが愛おしい。
指をそっと伸ばしたところで、動きをピタリと止める。
わ、私はなにをしようとした……!!
彼女の許可がなければ触れないと、さきほど誓ったばかりじゃないか。
意志の弱さにクッと唇を噛みしめ、寝る体勢を変える。
天井を見上げながら寝ることにする。こうすれば、セシリアの姿が視界に入らない。邪な気持ちなど消え去るはずだ。
静かに目を閉じ、眠りにつく努力をした。
やがて夜も深まり、そろそろ眠りにつけそうな頃。
急にみぞおちに衝撃を受けた。
グホッとむせ、驚いて飛び起きた。
なんだ、今の痛みは!? どこからか向けられた刺客か!?
横を見るとセシリアがあらぬ方を向いていた。
彼女の足がわき腹に当たったのだろうと推測する。
ネグリジェがはだけ、白い太ももが視界に入る。
一瞬で目を逸らしてしまった。
心臓がドクドクと音を出す。
眠りにつこうとしていたが、その光景は目を覚ますのに一発だった。
なんて格好をしているんだ。
顔を手で覆い、深く息を吐き出す。
しっかりしろ、ランスロット。落ち着くんだ。
やがて意を決する。彼女をこのままの体勢で寝かせているわけにはいかない。そうだ、風邪を引いてしまうかもしれない。
緊張しながら彼女と向き合い、両腕を体の下に入れる。
柔らかい、そしていい匂いがする――。
理性と戦いながら、セシリアを正しい位置に戻した。
腕の感触が思い出され、なかなか寝付くことができなかった。
セシリアがベッドに横たわると、すぐに安らかな寝息が聞こえてきた。
椅子に腰掛け、深く息を吐き出す。
両肘をテーブルにつき額にあて、うつむく。
あ、危なかった……。
落ち着け、落ち着くんだ、ランスロット・ハーディ。急いては事を仕損じると教えられていただろう。
自身の右手を開き、ジッと見つめる。
セシリアを支えた時の感触がよみがえってくる。
華奢な腰は折れそうなほど細く。
フワッと鼻孔をくすぐる石鹸の香り。
寄りかかる体温を感じた時、体中の血が逆流するかと思ったほどだ。
高揚した頬、艶やかな唇。潤んだ瞳でこちらを見上げる姿は、魅力的すぎて理性が飛びそうになった。
実際、あのまま少しでも遅かったら、彼女の手首をつかみ、その細い腰を強く抱き寄せ、唇を奪いそのまま――。
そこでハッと我に返る。
なにを考えているんだ!! 想像の中とはいえ、彼女を汚すようなことをしてはならない。
邪な感情はすべて滅するんだ!!
こんな夜は飲むに限る。グッとワイングラスを傾けた。
そっとベッドの方をうかがい見ると、安らかにスヤスヤと眠るセシリアの姿がある。
セシリア、愛しい我が妻――。
妻という単語が脳裏に浮かぶと、顔がボッと火照った。
これでは世間で噂されている冷静沈着な自分らしくもない。
大きく頭を振りかぶり、グラスにワインを注ぐ。
先日は体調を崩したらしく、自室で食事を取っていたセシリア。数日間、顔を合わせることができなった。
心配になり部屋の前まで行ったのだが、扉を開く勇気が出ず、立ち尽くしているだけだった。
幸い、医師の診断は軽いものだったが、心底安堵した。
なにか心配事でもあるのか? いまだ慣れない環境に戸惑っているのか。
しかし――。
先ほどは彼女の新しい一面を見ることができた。
果実酒を飲み、とても楽しそうだった。
頬を赤く染め、目は潤んでいた。
クルクルと部屋で踊る姿は、目が惹きつけられた。まるで部屋に妖精が忍び込んだのかと、錯覚するほど見とれてしまった。
ずっと見ていたい、そうずっと――。
だが、残念なことに彼女は見られていることに気づくと、固まってしまった。
恥ずかしがっている姿がまた、愛おしかった。
もう寝るとするか。
グラスを傾け空にすると、ベッドに近づいた。
先に眠るセシリアは少し口を開け、深い眠りについている。
その寝顔のなんたる可愛らしいことか!! その破壊力はとてつもない!!
ベッドの端に腰かけ、しばし悶絶する。
ああ、一週間に一度、セシリアに近づくことが出来るこの至福の時間は、誰にも邪魔されたくはない。
ジッと見ていると彼女が寝返りを打つ。
むにゃむにゃと口を動かしているのは、楽しい夢でも見ているのだろうか。
そっとシーツを引っ張り、肩にかける。また体調を崩しては大変だ。
ゆっくり、ゆっくりでいいから、彼女との距離を縮めていこう。
それまでは彼女の許可なく手を出すことはしないと誓う。
いい夢をみて眠れ、セシリア。
そっと言葉にし、ベッドに横たわる。
だが一向に眠気はやってこない。
隣に彼女が寝ていると思うだけで目が冴えてしまう。
手を伸ばせば届く距離にいると思うと、なおさら落ち着かない。
彼女の放つ甘い香りがまた、刺激される。
深くため息をつきながら、彼女の寝顔をジッと見つめる。
長いまつ毛、小さな赤い唇、聞こえる吐息。
そのすべてが愛おしい。
指をそっと伸ばしたところで、動きをピタリと止める。
わ、私はなにをしようとした……!!
彼女の許可がなければ触れないと、さきほど誓ったばかりじゃないか。
意志の弱さにクッと唇を噛みしめ、寝る体勢を変える。
天井を見上げながら寝ることにする。こうすれば、セシリアの姿が視界に入らない。邪な気持ちなど消え去るはずだ。
静かに目を閉じ、眠りにつく努力をした。
やがて夜も深まり、そろそろ眠りにつけそうな頃。
急にみぞおちに衝撃を受けた。
グホッとむせ、驚いて飛び起きた。
なんだ、今の痛みは!? どこからか向けられた刺客か!?
横を見るとセシリアがあらぬ方を向いていた。
彼女の足がわき腹に当たったのだろうと推測する。
ネグリジェがはだけ、白い太ももが視界に入る。
一瞬で目を逸らしてしまった。
心臓がドクドクと音を出す。
眠りにつこうとしていたが、その光景は目を覚ますのに一発だった。
なんて格好をしているんだ。
顔を手で覆い、深く息を吐き出す。
しっかりしろ、ランスロット。落ち着くんだ。
やがて意を決する。彼女をこのままの体勢で寝かせているわけにはいかない。そうだ、風邪を引いてしまうかもしれない。
緊張しながら彼女と向き合い、両腕を体の下に入れる。
柔らかい、そしていい匂いがする――。
理性と戦いながら、セシリアを正しい位置に戻した。
腕の感触が思い出され、なかなか寝付くことができなかった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
692
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
本日気がつきまして。読み始めましたの😊
ランスロット閣下のモノローグで、侯爵家の防音設備がしっかりしていることに感心致しましたわ〜🤣
とっても早く、その重い想いが伝わるといいのですけれど😂
小判鮫 さん
感想ありがとうございます。
ランスロット・ハーディ侯爵も男だから(笑)!!
いろいろ考えていると思います!! ……ええ、いろいろ(笑) ありがとうございました。
没落寸前ですのでを読んだら他の話が気になって検索していたらこちらに辿り着きました。続きが気になります。いつ恋愛に発展するんだろうと気になりながら続きを待つことにします(笑)没落寸前ですのでの方を今から又、読み返そうと思います♪面白くて大好きです!
hananokeiji 様
感想ありがとうございます。返信遅くなり申し訳ありません。没落~の方からお付き合いありがとうございます。このお話はゆっくり気まぐれ更新です(笑) 恋愛に発展……するまでたどりつくといいのですが!(笑)がんばります。またお読みいただけると嬉しいです。ありがとうございました。