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新たな仲間編

136.家畜の増産計画

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慌ただしく1月が過ぎ去っていった。

新しく里に迎えた実習生達の実習は順調に進んでいる。
入植希望者達も続々と到着しはじめた。
白と黒が協力しているお陰で、太夫一家による家建設も順調に進んでいる。


太夫一家が選択した家の構造は、いわゆる九尺二間の長屋造だ。

玄関の引き戸を開けると1.5畳ほどの土間の台所があり、その奥に4畳半の部屋がある。必要に応じてその奥にもう一間増築できるようになっている。

部屋の壁はそのまま隣の部屋の壁になるが、黒の提案で壁を二重にして隙間に藁を詰め込んでいる。
“集合住宅とはいえ、プライバシーへの配慮は必要”というのが黒の意見だった。

3部屋を合わせて一軒の長屋を作り、路地を挟んで迎え合わせに配置する。
その隣に共同の厠を作り、更にその向こうに次の長屋を建てる。
鍛治職人などの職人達の家は、4畳半の部屋の裏手に更に土間を追加して工房スペースを作っていた。

風呂は共同浴場が1箇所のみ。
共同井戸の隣に建て、水は井戸水をそのまま使っている。
風呂桶は杉材。
加熱源はコークスを使い、自然循環式で加熱する。
風呂桶の底層部から鉄パイプで水をコイルに流してコイルを加熱すると、温まった湯が風呂桶の上層部から流れ込むようになっている。

脱衣所と風呂場は当然男女別だが、風呂桶と加熱用ボイラーは共用だ。
それで、風呂桶の真ん中に竹で編んだ柵が設置された。

ちなみに風呂の支度と掃除は各家で持ち回り制とした。

加熱用のコークスは、仕事柄コークスを必要とする鍛冶屋が供給している。
需要が増えれば、木炭と石炭専門の家が出来るかもしれないが、現在の所はそのどちらも里から供給している。




2月の始めには新しく導入した家畜の検疫と環境への順応期間も終わり、里の中をクジャクが闊歩するようになった。
もともと飼っている鶏と競合するかと思ったが、特に住み分けをするでもなく日中は一緒に過ごしている。
鶏と違ってクジャクは悠々と飛ぶが、白が里の上にドーム状に網目状に結界を張ることで、脱走を防止出来ている。

この網目状結界はなかなか優秀で、クジャクや家畜だけでなく人間にも有効だから、例えば水路に沿って荒い網を掛けて子供の水難事故を防いだり、穀類の畑を区切って鶉うずら以外の侵入を防いだりしている。

ある日、エステルが嬉しそうに報告してきた。
「牝豚が2頭妊娠しました!」

そうかそうか、それは喜ばしい。
ん?ちょっと待て。豚って確か多産型だったよな……

「はい!だいたい3ヶ月半後には可愛い子豚が牝一頭につき10頭ぐらい産まれます!多い時は13頭ぐらいかもしれませんね!」

と言うことは……導入した牝豚8頭が全て妊娠したら、6月には80匹以上の子豚を抱えるということか。
それはとてもじゃないが対応できない。

元の世界の食肉消費量は、年間一人当たり50kg弱だった。世界的に見れば、最大で年間130kgという国がある。
この差は食生活の差だ。肉料理がメインの欧米に比べ、日本ではまだまだ炭水化物がメインの生活になっているということだ。当然、里の食生活もそれに準じている。食卓に肉が登らず、主菜は魚料理オンリーの日も普通にある。
ただ食欲旺盛な子供達だから、もっと欧米よりには傾いている。

豚一頭から精肉が取れる割合はだいたい4割から5割弱だから、体重100kgの豚を二頭潰せば一人分の年間消費量を賄える。
里の人口は総勢36名だから、年間72頭でちょうど。
備蓄用の保存食を作ることを加味しても、年間80頭ほどを安定して供給したい。
つまり月7頭前後だ。
もちろん生き物相手のことだから、そう上手くはいかない。順調に推移しはじめるまでには相当数の豚を飼育することになる。
春から秋にかけては、羊と一緒に放牧することも考える必要があるかもしれない。


紅、白、黒、小夜、エステルを緊急招集する。
目的はただ一つ。食肉の安定供給だ。

「豚が二頭妊娠した。このまま一緒に飼育を続けると、ちょっとまずい」

「豚が一気に増殖する」

黒は状況の飲み込みが早くて助かる。

「そうだ。8頭の牝がそれぞれ妊娠すると、夏前には80頭を超えるベビーラッシュが来る」

「それはまあなんとも……微笑ましいを通り越してゲンナリするやつだな」

紅が頭を軽く振る。

「そうだな。その事態を避けるために、牡と牝を分けて飼育する。白はまず豚舎と運動場を区切ってくれ。豚だけが通過できない結界だ。やれるか?」

「もちろん。お母さん豚のエリアも区切る?」

「ああ。そうしよう。結界を張り終えたら、子犬達を牧羊犬に仕立てる訓練を頼む。春になれば羊と一緒に放牧を始める。小夜もサポートに入ってくれ」

小夜が頷いて答える。

「了解です。子犬達ももう子犬じゃなくなってます。どちらかといえば子犬達がそろそろ繁殖するかもしれません」

そうだった。子犬達は立派なハイイロオオカミに成長していた。
体長120cm、体高70cmほど。体重は40kg程度だろう。

式神達と俺と小夜をリーダーとして認めており、子供達のいい遊び相手になっている。
時折、柚子や八重を背中に乗せて里の中を歩いている姿を見かけるほどだ。

その子犬達もそろそろ任務を与えよう。子守だけではもったいない。

「そういやタケルよ。相変わらず子犬って呼んでるけど、あいつらにも立派に名前あるんだぜ?まだ聞いてないのか?」

そういえば紅がそんなことを言っていた。でもお前は気にするなって言ってなかったか?

「あ…紅姉さんまだダメです!心の準備が…」

何故か小夜が反応している。

「え~まだダメなのかよ。そろそろいいんじゃね?」

小夜が顔を真っ赤にして首を横に振っている。
なにやら小夜にとっては恥ずかしいことらしい。
子犬の名前を俺に知られるのに、小夜の心の準備が必要なのか??
まあ恥ずかしがっているのだから深く追求しないほうがいい。

「それとだ。紅とエステルには豚の飼養管理を任せる。里と入植者エリアの人口に合わせて、必要とする食肉の供給計画を練るように。多分計算やら需要と供給カーブやらが必要だから、黒も協力してやってくれ」

「タケル。想定する人口増加に出産によるものも含める?」
「いや、今のところ懐妊しそうなのは源七爺さんのところの三太夫婦ぐらいだろう。それぐらいは誤差だ」
「んなこと言ってると里で“べびーらっしゅ”ってのか来たりしてな。なあ小夜?」

また紅が不穏な事を言っている。
なんだ?小夜に彼氏でもできたか?
また小夜が顔を真っ赤にして頭を振っている。
白と黒が同時に紅の頭を引っ叩いた。

「私は旦那様の子供が産みたいです!」
エステルが乗っかってくる。
まあこれはいつものことだ。皆も華麗にスルーする。

「とりあえず作業に掛かろう。皆協力してよろしく頼む」
『了解!』

エステルと紅が手際よく豚をオスとメスに分けていく。
合図を受けて、白が一気に結界を展開し、豚舎と運動場を3つに区切る。
小夜がざっと診察したところ、もう一頭妊娠した豚が見つかった。
どうやら夏前には30頭以上の子豚が産まれそうだ。
それ以外にもヤギや羊にも妊娠したメスが見つかった。
ヤギと羊は多産型ではないから、そんなにコントロールは必要ない。

そんな感じでドタバタと家畜の増産計画はスタートした。
慌ただしく1月が過ぎ去っていった。
新しく里に迎えた実習生達の実習は順調に進んでいる。
入植希望者達も続々と到着しはじめた。
白と黒が協力しているお陰で、太夫一家による家建設も順調に進んでいる。


太夫一家が選択した家の構造は、いわゆる九尺二間の長屋造だ。

玄関の引き戸を開けると1.5畳ほどの土間の台所があり、その奥に4畳半の部屋がある。必要に応じてその奥にもう一間増築できるようになっている。

部屋の壁はそのまま隣の部屋の壁になるが、黒の提案で壁を二重にして隙間に藁を詰め込んでいる。
“集合住宅とはいえ、プライバシーへの配慮は必要”というのが黒の意見だった。

3部屋を合わせて一軒の長屋を作り、路地を挟んで迎え合わせに配置する。
その隣に共同の厠を作り、更にその向こうに次の長屋を建てる。
鍛治職人などの職人達の家は、4畳半の部屋の裏手に更に土間を追加して工房スペースを作っていた。

風呂は共同浴場が1箇所のみ。
共同井戸の隣に建て、水は井戸水をそのまま使っている。
風呂桶は杉材。
加熱源はコークスを使い、自然循環式で加熱する。
風呂桶の底層部から鉄パイプで水をコイルに流してコイルを加熱すると、温まった湯が風呂桶の上層部から流れ込むようになっている。

脱衣所と風呂場は当然男女別だが、風呂桶と加熱用ボイラーは共用だ。
それで、風呂桶の真ん中に竹で編んだ柵が設置された。

ちなみに風呂の支度と掃除は各家で持ち回り制とした。

加熱用のコークスは、仕事柄コークスを必要とする鍛冶屋が供給している。
需要が増えれば、木炭と石炭専門の家が出来るかもしれないが、現在の所はそのどちらも里から供給している。




2月の始めには新しく導入した家畜の検疫と環境への順応期間も終わり、里の中をクジャクが闊歩するようになった。
もともと飼っている鶏と競合するかと思ったが、特に住み分けをするでもなく日中は一緒に過ごしている。
鶏と違ってクジャクは悠々と飛ぶが、白が里の上にドーム状に網目状に結界を張ることで、脱走を防止出来ている。

この網目状結界はなかなか優秀で、クジャクや家畜だけでなく人間にも有効だから、例えば水路に沿って荒い網を掛けて子供の水難事故を防いだり、穀類の畑を区切って鶉うずら以外の侵入を防いだりしている。

ある日、エステルが嬉しそうに報告してきた。
「牝豚が2頭妊娠しました!」

そうかそうか、それは喜ばしい。
ん?ちょっと待て。豚って確か多産型だったよな……

「はい!だいたい3ヶ月半後には可愛い子豚が牝一頭につき10頭ぐらい産まれます!多い時は13頭ぐらいかもしれませんね!」

と言うことは……導入した牝豚8頭が全て妊娠したら、6月には80匹以上の子豚を抱えるということか。
それはとてもじゃないが対応できない。

元の世界の食肉消費量は、年間一人当たり50kg弱だった。世界的に見れば、最大で年間130kgという国がある。
この差は食生活の差だ。肉料理がメインの欧米に比べ、日本ではまだまだ炭水化物がメインの生活になっているということだ。当然、里の食生活もそれに準じている。食卓に肉が登らず、主菜は魚料理オンリーの日も普通にある。
ただ食欲旺盛な子供達だから、もっと欧米よりには傾いている。

豚一頭から精肉が取れる割合はだいたい4割から5割弱だから、体重100kgの豚を二頭潰せば一人分の年間消費量を賄える。
里の人口は総勢36名だから、年間72頭でちょうど。
備蓄用の保存食を作ることを加味しても、年間80頭ほどを安定して供給したい。
つまり月7頭前後だ。
もちろん生き物相手のことだから、そう上手くはいかない。順調に推移しはじめるまでには相当数の豚を飼育することになる。
春から秋にかけては、羊と一緒に放牧することも考える必要があるかもしれない。

紅、白、黒、小夜、エステルを緊急招集する。
目的はただ一つ。食肉の安定供給だ。

「豚が二頭妊娠した。このまま一緒に飼育を続けると、ちょっとまずい」
「豚が一気に増殖する」
黒は状況の飲み込みが早くて助かる。

「そうだ。8頭の牝がそれぞれ妊娠すると、夏前には80頭を超えるベビーラッシュが来る」
「それはまあなんとも……微笑ましいを通り越してゲンナリするやつだな」
紅が頭を軽く振る。

「そうだな。その事態を避けるために、牡と牝を分けて飼育する。白はまず豚舎と運動場を区切ってくれ。豚だけが通過できない結界だ。やれるか?」
「もちろん。お母さん豚のエリアも区切る?」
「ああ。そうしよう。結界を張り終えたら、子犬達を牧羊犬に仕立てる訓練を頼む。春になれば羊と一緒に放牧を始める。小夜もサポートに入ってくれ」

小夜が頷いて答える。
「了解です。子犬達ももう子犬じゃなくなってます。どちらかといえば子犬達がそろそろ繁殖するかもしれません」

そうだった。子犬達は立派なハイイロオオカミに成長していた。
体長120cm、体高70cmほど。体重は40kg程度だろう。

式神達と俺と小夜をリーダーとして認めており、子供達のいい遊び相手になっている。
時折、柚子や八重を背中に乗せて里の中を歩いている姿を見かけるほどだ。

その子犬達もそろそろ任務を与えよう。子守だけではもったいない。

「そういやタケルよ。相変わらず子犬って呼んでるけど、あいつらにも立派に名前あるんだぜ?まだ聞いてないのか?」
そういえば紅がそんなことを言っていた。でもお前は気にするなって言ってなかったか?

「あ…紅姉さんまだダメです!心の準備が…」
何故か小夜が反応している。
「え~まだダメなのかよ。そろそろいいんじゃね?」
小夜が顔を真っ赤にして首を横に振っている。
なにやら小夜にとっては恥ずかしいことらしい。
子犬の名前を俺に知られるのに、小夜の心の準備が必要なのか??
まあ恥ずかしがっているのだから深く追求しないほうがいい。

「それとだ。紅とエステルには豚の飼養管理を任せる。里と入植者エリアの人口に合わせて、必要とする食肉の供給計画を練るように。多分計算やら需要と供給カーブやらが必要だから、黒も協力してやってくれ」

「タケル。想定する人口増加に出産によるものも含める?」
「いや、今のところ懐妊しそうなのは源七爺さんのところの三太夫婦ぐらいだろう。それぐらいは誤差だ」
「んなこと言ってると里で“べびーらっしゅ”ってのか来たりしてな。なあ小夜?」

また紅が不穏な事を言っている。
なんだ?小夜に彼氏でもできたか?
また小夜が顔を真っ赤にして頭を振っている。
白と黒が同時に紅の頭を引っ叩いた。

「私は旦那様の子供が産みたいです!」
エステルが乗っかってくる。
まあこれはいつものことだ。皆も華麗にスルーする。

「とりあえず作業に掛かろう。皆協力してよろしく頼む」
『了解!』

エステルと紅が手際よく豚をオスとメスに分けていく。
合図を受けて、白が一気に結界を展開し、豚舎と運動場を3つに区切る。
小夜がざっと診察したところ、もう一頭妊娠した豚が見つかった。
どうやら夏前には30頭以上の子豚が産まれそうだ。
それ以外にもヤギや羊にも妊娠したメスが見つかった。
ヤギと羊は多産型ではないから、そんなにコントロールは必要ない。

そんな感じでドタバタと家畜の増産計画はスタートした。
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