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第3話 エッグ・コア

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人類を守る最後の外壁の外。
人生で初めて立つその地はとても息苦しい、木々が生い茂った硬い大地。
鼻腔を突くのは自然な香りとは程遠い火薬と硝煙に満ちた世界。
その僅か数十メートル先に黒い影がうごめいている。
対魔獣徹甲弾により一掃射撃が行われた後だが敵はまだ存在しているようだ。

『今回の指令は移住区外壁の周辺の魔獣撃退が任務です。魔獣の状況と致しましては対魔獣徹甲弾により、ほとんどが沈黙。残党もそのほとんどがダメージを負っているものと思われます。
現在も監視は継続中であり、外周周りの個体はNo.00のみを観測。
他の魔獣からの襲撃は限りなく低いです。
しかし、気を抜かないよう慎重に事に当たってください。』

「了解であります。」

インカムから声が響く。
それに対して、軽く伸びをしながら未来が受け応える。

「さあ、行くよ。ヒロ。
背中は任せて!ジャンジャン倒すよ!!」

未来が黒い影達に駆け寄っていく。
まるで、楽しんでいるかのように前方に捉えたエッグ・コアの外殻を真正面から右手の直剣で破壊、そこから短剣を左手がエッグ・コアに突っ込む程深々と刺し核を破壊した。

「ヒロは瀕死のエッグ・コアをお願い!
後は全部、私がやってあげる!!」

「……わかった!」

視界を左右に動かし、前脚2本とも欠損したエッグ・コアを視界に入れる。
反撃される可能性は限りなく低いがそのエッグ・コアの背後を取り、右手に持つ短剣を突き刺す。

ガキッ!!
そんな鈍い音が響き渡る。
一瞬の火花と外殻がひび割れる音。

「はぁ!!」

更にもう一撃をさっきよりも深く踏み込んで、ひび割れた外殻を突き破り、核を破壊。
その時、エッグ・コアの黄色い体液が流れ、くどいほど甘い匂いが鼻腔を突く。
鉄のような匂いではなく、蜂蜜のような香りだ。
しかし、そんな匂いは次の標的を目視すると匂いは消え去った。

「次!」

息をついてる暇などない。
俺が瀕死のエッグ・コアを倒している間に未来は3体、4体と次々倒して行っている。

瀕死のエッグ・コアに手間取っていて言い訳がない!もっと記憶の中から最善の一撃を!!

「はぁああああ!!!」

深く踏み込み、精一杯の腰の捻りと腕全体を使った刺突。
一瞬の抵抗感も外殻が割れるのと同時に消え去り、二度目の抵抗感は核が破壊されるの同時に消え失せる。

「よし!」
「いいよ!ヒロ!!その調子!!!」
「ああ!!」

訓練通りの刺突をすればエッグ・コアの外殻は一撃で貫ける。
さっきのでコツを掴んだのか3体目、4体目と一撃でエッグ・コアの核を粉砕していく。
短剣についた体液を地面に払い、袖でサッと拭い、そしてまた、次のエッグ・コアの核を壊す。

「ヒロ!そっちに一体!!」
「……ッ!!」

対魔獣徹甲弾を凌いだ万全の個体。
その個体が凄まじい速さで口を大きく開けて地面を抉りながら迫ってくる。

避けなきゃ!どこに!?

頭と指先、脚全体に電撃が走る感触。
体が思考ではなく、記憶から導き出し咄嗟の判断でその答えを導き出した。

上!!

両足で踏み切った体はエッグ・コアの頭上。
勢いよく突っ込んだエッグ・コアは地面にめり込む勢いで停止。
その気を逃すまいと頭上から短剣を全体重を乗せて振り下ろす。
外殻が二つに割れ、その間から赤い光を放つ核が露わになった。
しかし、頭蓋が割れても魔獣達は核を破壊されない限りは死なず再生する。
エッグ・コアは立ちあがろうと6本の足を動かし始めた。

「おお!!」

逃がさないと大きく一歩を踏み核に向けて短剣を突き刺し、核を破壊。
立ち上がりかけたエッグ・コアは土煙を立て倒れ、沈黙。

「ヒュー!やるねー!」

ビッビッ……——

インカムから電子ノイズのような音が響いた。

『全ての魔獣の沈黙を確認しました。
任務クリアです。お疲れ様でした。
最後に核の回収をお願いします。』

「回収班の応援も頼めますか?
二人でだと時間かかっちゃって危険なので。」

『わかりました。そちらに回収班を向かわせます。小川隊長と柏木さんには周囲の警戒任務を発行、回収が終わるまで現場で警戒をお願いします。こちらでも、引き続き監視を続行致します。』

「了解です。
現在の敵影の状況はどうですか?」

『300メートル圏内に敵影はありません。』

「わかりました。ありがとうございます。」

インカムから接続が切れる音が響く。
300メートル範囲に敵影がないのなら突然の襲撃もない。
時間はもうお昼の12時か、戦闘中は時間が過ぎるペースが早い。
感じられる生きてる時間分を魔獣に殺された気分だ。
でも、これで一息つける……。

「うーん、疲れたーしー!
それ以上に、おーなーかー空いたーー!!」

先程まで、隊長らしく毅然と対応していたのにインカムが切れる音ともに天に向かって、未来はそう叫ぶ。

「むーりむりむり。周囲警戒とか必要ないでしょ!ないない!
魔獣来たら、対魔獣徹甲弾でぶっ放せばいいじゃん!!
ヒロもそう思うでょ!!
300メートル先まで敵影ないんだよ!?」

「いや、まあ、急遽魔獣達が突撃してくるかもしれないしな……」

正直、俺も疲労困憊で腹減るどころか全身を倦怠感が満たしている。
今すぐにでもベッドの上に飛び込みたい気分だ。
それに警戒と言っても頭上を見上げれば警戒用ドローンが24時間365日、都市から半径500メートル先まで警戒している。
現場に疲れ切った人を待機させる意味などほとんどないように感じる。

「ぶーぶー、まじめか!!
インカムも繋がってないんだから愚痴ろーよー!!」

「愚痴ろーって言っても今回の出撃は未来が言い出したことだろ。」

「……あっ。」

今まで忘れていたかのようにハッとした表情を浮かべた。

「そうだったーー!あーもう!!
あれ、なんで、私あんな事言い出したんだ……。
あっそうだ!隊長辞退するためだ!!!
ちょっ!インカム!大塚さんにつなげぇーーー!!
そことかそことかのドローンでどうせ見てんだろ!!」

しかし、インカムはどこにも繋がることはない。緊急連絡用にインカムについているボタンを三度連続で押すと強制的に司令室に繋がるようになっているが今回は私用の用事であり、緊急連絡を入れると緊急配備用の人達にも連絡が入ってしまう。
流石に自重し、ドローンに向かって文句をひたすらに垂れてはいるが応答はない。

「グスン……無視された。大塚さん嫌い。」

「……未来。取り敢えず、核を回収しよう。
早く戻って、直接言ったほうが早いだろ。」

「……はーぃ。」

しょぼくれた顔をしながら剣でエッグ・コアから核を取り出す。
それから、数分後に全身白い抗菌服を着た回収班が到着し、死骸の後片付けと核の回収が手早く行われていった。

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【具現機】
残された少ない資源を失わないために採用され、軍が生み出した謎のテクノロジー。
ナノ細胞を体内に入れ、発現する力であり、具現機を取り出せる他、身体能力の向上も見られる。
取り出される具現機は人により異なる。
しかし、具現化を行えるようにする手術の適合者は極めて少ない。
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