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第6話 注目

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「うーん、食べたー。」

日は完全にくれ、時刻は7時を回っている。
アイスを食べたことも合間ってか肌寒さを感じた。

「未来ちゃん、ちょっとお腹出てる?」

「食べたからねー。
いや、美味しかった満足腹よ。」

「太るなよー。」

「魔獣をぶっ殺して激痩せよ。」

「お、頼もしい。」

女性2人の会話を聞き耳を立てながら男2人は後ろを歩く。
残念ながら男2人には華のある会話はできそうにない。

「これから、よろしく。ヒロ。」
「こちらこそ、よろしく頼む。綾人。」

なんだかんだ直接的な自己紹介が今に。
初対面の人間ではあるが綾人の雰囲気だからだろうか自然と同年代の人と喋るように口が動く。

「……何か趣味とかあるの?」
「……ん?そうだな。」

話題作り、信仰を深めるための質問である事は理解できる。
しかし、重い思いに思考を巡らせてもこれと言った趣味が自分には存在していないことに気付かされる。
商業区には住民の自殺防止、軍人の士気を上げる目的で一定の娯楽は用意されている。
それは、スポーツセンターであったり、カラオケ、映画館と飲食店と様々だ。
その中でも一際大きな音がする方に視線を奪わられた。

「アレは楽しそうだな。」

野球ボールとバットが描かれた看板。
何人もの人達がバットを振っている。

「今からやってみる?」

「いや、もう、夜遅いしまた今度。
体も疲れてるから。」

「皆んなで行ってホームランの看板に先に当てた最初の2人が当てられなかった2人に何か奢るとか面白そうじゃない?」

「……そうかもな。」

賭け事は後々、仲に亀裂を生みそうだがその程度で崩壊するならそれまでかと割り切って、やめた方がいいと言う言葉は飲み込んだ。

それにしても凄い人の量だと感心させられる。
居住区の一般人もここに足を運び、壁の補強、家畜の世話、食物の生産でおった疲労を忘れ、労おうと多くの人が行き交っている。
この非常時にも遊び心を忘れず、笑顔でいられる場を設けた上層部の良い測らいだ。
人は娯楽なしでは生きられない。
この施設がなかったらどれだけの人が自らの命を絶ったのかと思わされる。

「ねぇー、お母さん!!あの人!!」

1人の子供が未来に向かって指を刺しているように見えた。
そして、その子供の声で多くの人が未来に視線を送る。

「あの兄ちゃんもじゃねぇーか!!」

それに飛び火し、俺にも視線が向けられる。

「なんだ?」

「ヒロ達の戦いを中継で見たんだよ。
僕達が魔獣達を倒す姿はまさに希望だから。まあ、悪い言い方するなら希望を見せて、軍人希望者をより集める為の施策かな。
僕もその1人。価値観を曲げられた感じはするけどね。」

「曲げられた?」

「まあまあ、気にしない気にしない。
ほら、英雄の姿を皆んなに晒してきなよ。」

背中を押されて三歩程前に出る。
そして、綾人はヒラヒラと手を振っている姿はその3歩に空いた間に続々と人が殺到し、気づけば綾人は手の届かない所にいた。

「凄かったです。」
「応援してます!」
「死ぬなよ、兄ちゃん!」

そんな言葉が次々と押し寄せる。
未来の方を見ると同じような状況になっていた。
たったの一戦でここまで人が集まるモノなのかと驚かされる。
こうして、喜ばれ、笑顔を向けられるのは悪くない気持ち、どちらかと言うと嬉しい気持ちだった。
やった甲斐があったのだと改めて思わされる。

それからしばらくして、なんとか人だかりを抜けて帰路に入ることができた。

「凄かったね。」
「びっくりした。」
「そうだね。」

グリュ……。

そんな音が聞こえた。
時刻は七時半を過ぎて、いよいよアイスしか食べてない腹の虫が騒ぎ始める。

「アイスしか食べないから、お腹なってんじゃん。」

「それしか、食べなかったんだよ。
晩飯食える分の量は取っておきたかったから。」

帰ったらとりあえず風呂かと考えていたが空腹からくる腹痛でゆっくり浸かることも出来なさそうだから先に晩飯だなとこれからの行動を決めた。

「そういう、未来はあんだけ食って晩飯食べられるのか?」

「……ぅ。」

バツの悪そうな表情を浮かべる。

「ははは。ちょい無理かも。」
「なーら、私と一緒に軽く運動しない?」

未来の背後からイズミが忍び寄り、抱きつく。

「近くに施設内にジムもあるしさ。
ヒロと綾人もどうよ?」

気づけば隣に綾人が立っていた。

「残ってたのか?」

「まあね。初日くらい皆んなで帰りたいし。
それで、ヒロはどうする?」

「ごめん、イズミ。
今日はパスさせてもらってもいいか。」

腹も減ってるし、睡魔というか疲労がピークに近い。
申し訳ないがここは断らせてもらうことにした。

「まあ、疲れてるよね。
なら、綾人もパス?」

「うん、そうだね。」

「なら、今からは男女両方に分かれての男子会と女子会だ。
では、解散ということで行こ、未来ちゃん。
女の花園へ!!」

「おーー!」

2人はおそらく会話に出ていたジムとか体を動かす施設のある方へと姿を消していった。

「それじゃあ、僕達も帰ろうか。」

「ん、そうだな。腹も減ったし。」

「同じく僕もだよ。」

そういえば綾人も俺と同じでアイスしか口に入れてない。
鼓膜に僅かにグリュッという音が聞こえた気がした。
俺と綾人のどちらのものかまではわからないかったが取り敢えずはと2人で食堂に向けて歩き出した。

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【《藤沢イズミ》のステータス】
筋力:20 体力:5 気力:15  速度:20
具現機は刀。
高い観察眼を持ち、更に卓越した武器の扱いで魔獣の殲滅が可能と考えられる。
しかし、他と比べて体力に難があり、長期戦には不向き。
性格は明るく、チームワークを上げる事の要因になると思われる。
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