逃げて、恋して、捕まえた

紅城真琴

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逃避行の先に見えたもの

逃げこんだ先②

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ブブブ。

ブブブ。

ブブブ。

さっきから携帯が震え続けている。

ずっと気が付かないふりをしていたけれど、さすがに気になりだした。
奏多からなら出るわけにはいかないけれど、他の急用かもしれないし。

鞄の底にしまい込んだ携帯を取り出して、着信を確認。

うわ、スゴっ。
そこにはおびただしい数の着信履歴。
ほぼすべては奏多からのもの。
でも、最後の数件は田代課長からのものだった。

課長から?
退職のことか、仕事のことか、どちらにしても気にはなる。
私は課長に電話することにした。


「もしもし小倉です」
「おまえなあ」

ん?
いつも丁寧な言葉で話す課長にしては珍しく砕けた口調。
一瞬人違いをされたんじゃないかと思ってしまった。

「課長、秘書課の小倉ですが・・・」
「わかってる」

あら、ご機嫌が悪い。
どうしたんだろう、珍しいな。

「お電話もらったみたいで、どうかしましたか?」

「はぁー」
電話の向こうから聞こえてきた大きなため息。

どうやら何かあったらしい。
このタイミングだから、奏多の絡みだと思うけれど。

「あいつからの連絡を拒否ってるらしいな」
「あぁ、はい」
「俺の所にかかってきた」
「・・・すみません」

「予定を切り上げて明日の朝一の飛行機で帰ってくるぞ」

やっぱり。
奏多ならそういう行動に出ると思っていた。

「珍しく頭に血が上っているから、気を付けるんだな」
「はい」

本気で怒った御曹司って想像するだけで怖いけれど、自分で蒔いた種だ。

「それとな、」
そこで課長は一旦言葉を切った。

「お前が辞表を出したことを話したぞ」
「はい」

どうせバレるのは時間の問題だと思っていた。
いつまでも黙っているわけにはいかないんだから。

「まるで俺が悪いみたいに怒鳴り散らされた」
「それは・・・」
申し訳ない。

「『なんで辞表なんか受け取るんだよ』『芽衣がどこにもいかないようにお前がちゃんと見ておけよ』って、俺を一体何だと思っているんだろうかなあ」
「すみません」

やっぱり課長に迷惑をかけたんだ。

「一番の沸点は、俺が奏多に黙っていたことなんだが、そのことに関しては確信犯だから仕方ない」
「そんなことありません。私が黙っていてくださいってお願いしたから」
「だから、奏多はそれが嫌なんだよ。自分の知らないところでコソコソされたことに怒っているんだ」

コソコソって、あの状況では仕方がなかった。
下手するとプロジェクトの契約に影響が出るかもしれなかったから。

「とにかく、覚悟するんだな。本気の奏多はマジで怖いぞ」
「脅さないでください」
「脅しじゃない。普段無欲で、物欲なんてなさそうに見えるあいつが本気で落としにかかるんだ。その上、金も地位もあって頭もいい。俺なら速攻で逃げ出すね」
「怖いこと言わないでくださいよ」

私もだんだん逃げ出したくなった。
でもなあ、この体ではすぐにどこかへ行くこともできない。

「まあ、あいつを本気にしたのはお前なんだからきちんと責任取るんだな。じゃあな」

言うだけ言って、完全にキャラの変わってしまった課長の電話は切れた。
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