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悠十

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辺境編

第十六話 リフィル

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 保護したエルフの少女は、名をリフィル・ムーシェと名乗った。
 美しいプラチナブロンドに、緑色の瞳を持つ美少女で、年齢はテオドアより一つ上で、最近十歳になったそうだ。
 何でも、両親が子供が出来たことで故郷のエルフの森に帰ろうとした際、魔物に襲われ、両親とも死んでしまったのだという。
 幸い両親の故郷のエルフの森には祖父母や親族が居る筈だし、エルフは子供がなかなか出来にくいため、誰の子であろうと大事にされる。とにかく両親の故郷へ行けばどうにかなるだろうと思ったそうだ。
 そして、そのエルフの森に行くには、路銀が居る。
 その為、リフィルは冒険者になる事を選択した。
 そして、そんなリフィルの境遇に同情した冒険者パーティーに誘われ、リフィルはその冒険者パーティーの一員に加わったのだという。

「冒険者ギルドの人にも勧められたし、実際良い人達だったの。けど、ここで魔物の群れに囲まれて、お、囮に…させられ…て……」
「ああ、そうか……」
「辛かったですね……」

 生前は冒険者だったダリオは少し苦々しい顔をし、アビーがリフィルを慰める。
 パーティーを組んだ冒険者たちは、良くも悪くも普通の人間だったのだ。
 可哀そうな子供が居れば同情し、自分達の出来る範囲で援助をしてやろうとする。そして、その援助は上手く行っていたのだ。自分達の命が懸かる直前までは。

「全滅か、一人を囮に生き残るか、っていう局面は、冒険者に稀に起こる事だ。俺達みたいな外野がどうこう言う権利は無いが、リフィル嬢ちゃんは怒って、そいつらをなじる権利がある」

 ボロボロで、薄汚れた頬をアビーが拭いてやるが、ポロポロと零れる涙にそれはあまり意味を成さない。
セスは傷の回復ポーションを取り出し、リフィルに渡し、飲むように促した。

「何にせよ、もっと落ち着ける場所に行くべきだな。ここなら、二十一階層の方が近いか……」

 セスの言葉に、全員の視線が集まる。

「仕方ない、なるべく接敵しないように行く。ダリオは彼女を背負ってやれ。皆、俺の後について来い」

 そう言い、セスは視線を落とし、集中する。

「<<全方位、索敵>>」

 魔力を込め、そう言うと、薄っすらと、感知できぬ程に薄く魔力が放出される。
 セスオリジナルの索敵魔法である。

「行くぞ」

 ダリオがリフィルを背負い終えたのを確認し、セス達一行は走り出した。
 二十一階層までの道のりは、これまでの接敵ペースを考えれば、ほとんど魔物と出くわす事は無かった。
 例え魔物と出くわしたとしても、セスがアビーに一言指示を出せば、瞬く間に魔物を狩ってしまう。
 狩った魔物は勿体ないが、何よりも二十一階層へ行く事を優先している為、放置していく事にした。
 まるで全てを見通しているかの様にセスは迷いなく走り、その判断を欠片も疑わずついて行く三人は、魔物をいとも簡単に屠り、驚くほど強い。
その一行の姿を、リフィルはダリオの背中で驚きながら見ていた。



   ※ ※ ※



 一行は今までの行程が何だったのかと言うほど早く二十一階層に着いた。

「セス様凄ぇな……」
「そうだ! 兄上は凄いんだぞ!」

 セスの実力は知っている為信じてはいたが、索敵の精度までは知らなかった為、ダリオが思わずそう溢すと、何故かテオドアが胸を張って己の兄セスを褒め称えた。

「ちょっと、ダリオ。リフィルちゃんの怪我の具合を見ますから、目隠しを張るのを手伝って下さいよ」
「ああ、スマン」

 二十一階層は何故か林が存在するエリアであり、ダリオは背の高い気に大判の防水布を括りつけ、目隠しを作った。

「えっ、あの……」

 それに戸惑いを見せたのはリフィルである。
 軽く手当てを受け、ここまで連れて来てくれただけでも有難いのに、自分の性にまで配慮してくれようとする一行にどうすれば良いか分からなくなったのだ。

「年頃が近いテオドアが居るから、その為だとでも思ってくれ」
「あっはっは! それ、セス様にも言える事だろ」

 そんなリフィルの遠慮を感じ取ったセスがそう言うと、それを聞いたダリオが笑う。

「俺は年下は守備範囲外だ」

 たった三つとはいえ、子供の十三歳と十歳の差は大きいのだ。
 そう、しれっと言った言葉に、何故かアビーが瞳を輝かせ、セスににじり寄る。

「では、年上は良いんですね! それなら、このアビーも――」
「変態は対象外だ」
「兄上から離れろ、変態!」

 アビーのアプローチをセスはバッサリ切り捨て、テオドアはアビーとセスの間に割って入り、ゴミを見るような目でアビーを見る。
 しかし、それで傷つくようなタマでは無いのがアビーである。

「嗚呼、私にちっとも興味を示さないセス様……興奮する……!」

 悶えるアビーを気持ち悪そうに見ながら、いいからさっさとリフィルの怪我を診てこい、と叱りつけ、セスはリフィルに視線を移す。

「こんなのだが、優秀なのは確かなんだ。すまないが、我慢して欲しい」
「え、えっとぉ……」

 困惑するリフィルにセスは謝罪しつつ、目隠しの向こうでアビーに診てもらう様薦める。

「ホホホホホ、大丈夫、私はデキる女ですから、ちゃっちゃと確認しちゃいましょうね~」
「ひょえっ!?」

 先程まで気持ち悪く悶えていたアビーがにゅっと横から顔を出したため、リフィルの口から妙な悲鳴が漏れたが、それを気にするアビーでは無い。
 リフィルをさっと目隠しの向こうへ攫ってしまった。

「よし、ポーションで大体直ってますね。ああ、一応浄化しときましょうか。<<浄化クリーン>>」
「ぴゃあっ!?」
「はい、綺麗になりましたねー。後は、ご飯ですね。どれくらい食べて無いか分かりますか?」
「えっ? えっ?」

 目隠しの向こうでは、マイペースなアビーに翻弄されるリフィルという構図が出来上がっていた。

「腹が減ったな。サンドイッチと、スープでも準備しとくか。確か、スープは作り立てを鍋ごと持ってきたのがある筈だ」
「セス様、鍋ごと持ってきたのか……」
「持って来て良かったですね、兄上!」

 そして、男達は鳴き出した腹の虫を治める為、粛々と昼食の準備を始めるのだった。
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