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閑話

クリストフ・レポート 5(書籍三巻ダイジェスト)

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  これはクリストフの回顧録である。

 ※これはクリストフから見た物語のダイジェストになります。クリストフ視点のため、メインストーリーでない部分が中心であったり、物語中に無いシーンが含まれていたりします。また、クリストフがその時点で知りえない情報は含まれていません。
 ※文中の『バカ』『バカリーダー』『リーダー』は全てディートリヒのことです。


●月●日

 ゴーレム騒動からほぼ一か月が過ぎた。
 オレたちはまだペルデュ王国にいた。
 オレたちの本国……ネレウス王国に報告書を上げたところ、見事にロアと従魔たちは監視対象となってしまった。

 オレがそうならないように必死に色々隠蔽して、それでいてパッと見は完璧に辻褄の合った報告書をでっち上げたのにも関わらず、まったく効果はなかったらしい。
 グリフォンを従魔にした少年というだけで十分監視対象だとは思うが、指示書の行間を読めばそれだけでないのは嫌というほどわかる。オレたちが隠していることも全部バレている気がする。
 いや、絶対にバレてる。
 うちの女王様はそういう人間なのだ。
 ……そもそも本当に人間かどうか怪しい。

 女王は魔法や魔法薬で寿命を延ばしている人で、建国当時から女王をやっている。海賊をほぼ一人で纏め上げ、一つの国を作った人物だ。
 あれは間違いなく人間をやめてる。

 オレは仕方なく、情報収集と監視用の手駒を増やした。
 他国であまり増やしたくないんだけどな。裏切られる危険が増えるからな。でも、仕方ない。
 本国からの伝手で揃えた人間ばかりだったが、こちらで現地採用もした。
 これまで雇っていた者たちは報酬を本国に請求してもらう形式にしていたが、現地採用の人間にその手は使えない。この国内で取引を完結させる必要がある。

 金銭面の負担は大きいが、あのゴーレム騒動の時にオレたちは大金を手に入れていた。
 あの大量のゴーレムは新しく発見された銀山を丸ごと使ったものらしく、回収してきた銀の売り上げだけでもとんでもない金額になった。
 そして、大量のミスリルもコラルドさんと秘密の取引をして金にした。
 そのおかげで、オレは手駒を問題なく維持できて、しかもまだまだ余裕があった。
 一か月前の貧乏生活が嘘のようだ。

 そういう訳で、今のオレたちはほとんど冒険者活動をしていない。
 冒険者と諜報の二重生活をしていたオレにも、やっと余裕ができてきたところだ。
  
 ただ、問題はロアだ。
 あいつ、自重って言葉を知らないんだろうか?
 いや、コラルドさんが焚き付けているんだろう。

 ちょっと目を離すと、本国に報告できないような物を作り出している。
 超位治癒魔法薬って、一介の錬金術師が作るようなもんじゃないだろ?あれって、国お抱えの錬金術師が潤沢な資金を湯水のように使って作り出すもんだぞ?
 それを晩飯でも作ったかのように『作ってみたんです!』と報告された時のオレの気持ちがわかるか!?
 聞いてから一週間、本国に報告するかどうか悩んだんだぞ?
 コラルドさんが販売することにしたので報告する踏ん切りはついたが、ロアをこの国から奪うために本国が戦争を仕掛けないかと不安で仕方ない。

 それに、商人たちや冒険者ギルドの動きもおかしい。
 どうも、コラルド商会への妬みや、ロアがやらかしたことに対する後始末で、ロアに対して色々な工作を仕掛けているようだ。
 中には暗殺や情報収集のためにロアを誘拐する計画もあり、そういった情報が入った時はコラルドさんにも流すようにした。中にはコラルドさんの暗殺も含めた計画もあったしな。

 だが、コラルドさん自身も情報を得ているらしく、商会の警備は完璧で問題なく対処できている。
 そもそも、ロアの傍らには常にあの陰険グリフォンや双子の魔狼がいるのだから、ただの人間に何かできるわけがないのだが。

 その陰険グリフォンは、コラルド商会の下に巨大な地下倉庫を作っていた。
 コラルド商会の敷地外に出られないため、暇つぶしと実益を兼ねての行動らしい。
 一応、この国の法律は犯してないようだが、あれ絶対にコラルド商会の敷地からはみ出してるよな?
 それにオレたちが見れないところで陰険グリフォンが何か良からぬ企みをしている気がする。
 監視はしているが、さすがに地下で何が起こっているかなんて分からないため、オレのイライラは増していった。

 そんな陰で殺伐とした生活をしているオレを尻目に、他のメンバーは楽し気に生活している。

 リーダーは護衛という名目でロアの家に日参している。
 どう見ても、ロアに色々たかりに行って、魔狼たちと遊んでいるだけにしか見えない。
 グリフォンと一緒に寝ているのを見た時は、オレは自分の目を疑ったぞ?最初はとうとう殺されて寝床に引きずり込まれたのかと思ったほどだ。
 あれだけ敵対してたくせに、どんだけ仲良しになってるんだよ?オレなんてまだ近寄るのも怖いのに。

 まあ、その行動にも良いところがあって、あれだけ酷かった女遊びがなくなった。それと、飲酒もすっぱりとやめているらしい。それだけは大変ありがたい。
 リーダーにもロアの状況や本国の思惑は説明してある。あまり仲良くすると後がつらいぞとも言ってあるが、ロアに仲間意識を持ってしまったリーダーはもう、切り捨てたりはできないだろう。
 その時はオレが憎まれ役をするしかない。

 コルネリアは訓練三昧だ。
 あいつ、脳筋だから。
 まあ、あいつの家のことを知ってれば、それも仕方がないかと思えなくもないけどな。
 ロアにも身体強化やナイフの扱いなどを指導していて、それも楽しいらしい。
 まったくの素人を育てるのって、楽しいよな。今のオレにはそんな余裕はないけどな。
 でも美容にも興味があるらしくて、ロアに色々作らせては買い取っているのをオレは知っている。たぶん、王侯貴族でも手に入らないような化粧品なんだろうな。

 ベルンハルトは魔法三昧。
 グリフォンに色々教わっては、その検証をするために宿の部屋に籠っている。
 コルネリアが何も言わないところを見ると、まあ、研究のし過ぎで倒れるまではいってないのだろう。

 
●月●日

 一見すると穏やかな生活の中で、また問題が持ち上がった。
 冒険者ギルドが貴族と組んでロアを潰しにかかってきたのだ。

 その内容は、北の国境付近にある城塞迷宮シタデルダンジョンに行く調査隊への同行。
 城塞迷宮シタデルダンジョンは多数のグリフォンが支配していて、さらに周囲に不死者アンデッドが多数徘徊している凶悪なところだ。
 入れば生きて帰れない。
 どう考えても、死んでこいって言っているようなものだ。

 それを性悪グリフォンのせいで、ロアは引き受けてしまった。
 あのグリフォンと魔狼たちがいれば問題ない気はするが、やはり心配になる。
 リーダーもやはり心配になったみたいで……いや、心配するのはいいんだ。心配するのは。
 だが、なんでオレたちも同行する話になってる?
 殺す気か!!
 バカリーダーはやっぱりバカだった。

 宿に帰ってからオレたちは説教したが、バカは意見を変えなかった。
 その後、ロアにもやめるように説得したが、こちらも聞き入れてもらえない。
 なんだよ、この頑固者コンビ!
 しかも、ロアの説得中に性悪グリフォンに脅された。最悪だ。


●月●日

 仕方なく、オレは城塞迷宮シタデルダンジョンに入る手配を始めた。だが、すんなりいくわけがない。
 あそこは多くの国が共同で監視していて、申請する国によって入るためのルートが決まっていた。
 つまり、ネレウス王国から申請するオレたちと、ペルデュ王国から申請するロアたちは別行動の旅になる。
 どんな手を使っても、中に入るまでは同行はできなかった。

 しかもその許可申請がやたらややこしい。
 国が関わる申請だから、一筋縄でいかないのは仕方ないのだろうが、それのせいでオレの体力と睡眠時間がガッツリ削られた。しかも、紛れ込ませるように本国が色々と申請を認める条件を付けてくるからさらにややこしい。
 旅の準備だってある。
 旅の準備なんかの交渉事はオレの担当だが、限度ってものがあるだろ!

 こうい事務的な仕事には、うちのメンバーたちは本気で役に立たない。
 コルネリアとベルンハルトは少しは手伝ってくれたが、言い出したバカは本当に何の役にも立たなかった。
 やったことと言えば、代表として書類にサインをしたぐらいだろう。書類をちゃんと読んでいたかすら怪しい。
 仕方なしにほとんどオレがやったが、全てを終えた時にはオレは疲労とイライラで限界だった。

 絶対にバカを殴る!
 オレに仕事を押し付けてヘラヘラしてる顔面をぶっ潰す!
 そう心に決めたのも、仕方がなかったと思いたい。
 
 
●月●日

 城塞迷宮シタデルダンジョンに向かう旅に出てから、オレはバカとケンカをした。ちょっとした嫌がらせもしてやった。
 切っ掛けは些細なことだ。
 顔面をぶん殴れて少しだけ溜飲が下がった。
  
 オレも殴られたが、それでもスッキリしたことには変わりない。
 後で考えてみると、リーダーがオレに顔面を殴られるなんてありえない。本気でケンカをしたらオレが一方的にボコボコにされる展開になっていたはずだ。それだけの実力差がある。
 多少は申し訳ないと思って、手加減してくれたんだろうか?わざと殴られてくれたのか?
 それでオレが負い目を感じないように、ほどほどに殴り返した?

 オレの考え過ぎだろうか?
 

 

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