二度目の人生は、地雷BLゲーの当て馬らしい。

くすのき

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コイツとは合わない!

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 だがしかしレオ達とて負けてはいない。
 オズが放漫なら彼等は堅実。絢爛な動きこそ見られないが、連携を重ね、着実に討伐数を増やしていた。
 今だってグノーの投擲した円月輪が中空に孤を描き、レオヘと迫る狼の行動を阻害する。レオはレオでその隙を見逃さず、一体屠っては適切な距離を保つ。

 ラムは今回オズの審判役も兼ねているのでカウントしつつ、然り気無く彼のフォローと制御に回っている。
 対する俺は何時でも簡易スリングを打てるよう構えておく。レオからグノーへヘイトを映した狼がいつ向かってきてもいいように。

 司令塔を失った生きた乗り物は前傾姿勢を取り、次の瞬間、土埃が舞い上げた。
 そこにはもう魔物はいない。
 助走を付けて制裁を加えんとした狼に、当のグノーは表情一つ変えず、最小限の動作でそれを躱すと、鍔と一体化して波打った刃―クリスナイフ―を狼の腹に滑らせた。
 途端、傷口から夥しい青が噴き出し、狼は体ごと地面に落ちる。そして二度と起き上がる事は無かった。

 一瞥もなく、グノーは前へと走る。その正面には正面には遅れて追従した二体の小鬼の他に、新たな小鬼達が七匹ほど増えていた。
 四匹ほどがレオ達に向かい、残りが俺達へと進撃を開始する。
 以前の戦闘では恐怖で気絶したものの、今はそれが許されない。故に現在進行形で逆流しかけている酸いものを押し留めて、片手の杖を強く握る。リモにも聞こえてしまうのではないかと思うくらい心臓が喧しい。
 その時だった。

「オレのに何してやがるっ!」

 突如現れた暴走特急のブレーキが、グノーと戦う小鬼を盾で弾く。次いでヴァイキング御用達の大斧が別の小鬼の脳天へ狙いを定め、重量と勢いにより放たれた真向斬りが小鬼を腰の部分まで食い込む。
 まるで裂けるチーズでも裂くかのように人型の魔物は、切断面から青色の血を噴き出しながら地面に崩れ落ちる。
 だがラムの攻撃はそれで終わりじゃない。
 惚けた小鬼達が回復するよりも早く、瞬く間に二匹目の命を刈り取り、二人は何時の間にか互いを背に戦っていた。
 そしてレオは、

「はぁっ!」

 走りながら俺達の方に向かっていた一体に、チップを尖らせたダーツの矢らしきものを投げた。すると刺さった個体が急に歩みを止め、そしてすぐ苦悶の表情を浮かべ、喉を掻き毟った後、地面に倒れ伏す。

「ギャ!?」
「ギャギャ!?」

 周りの小鬼達が耳触りな濁声を上げ、彼等独自の言語で騒ぎ立てる。
 知能の低い彼等は同胞がなぜ倒れたのか理解出来ない様子だった。熟考を重ねれば何方か片方が毒矢であると見抜くかもしれないが、今は戦闘中。そんな時間を与えるほど冒険者は優しくない。混乱の隙を突き、距離を詰めたレオのスティールソードが小鬼の首と銅を勢いよく切り離した。
 サッカーボール大の頭が、くるくると宙を舞い、やがて大地に着地する。

「麻痺!」
「ギ……ガァ!」

 最後の一体は、俺の麻痺を受けて動けなくなったところを袈裟斬りだ。

「す、凄い……あんなに大量のゴブリンが」

 リモが喘ぐように言葉を漏らす。
 一度襲われたら逃げるか、殺されるのを待つだけの彼いや普通の村人には信じられない、奇跡みたいな光景なのだろう。
 憧憬と少しの畏怖を瞳に浮かべ、死が蔓延するそこをぼうっと眺める。
 反対に俺は注意深く辺りを窺う。
 前後左右、潜んでいる者の有無を確認し、漸く体の力を抜く。

 そこで怠そうにしていたオズと目が合う。すると彼はこちらに中指を立てて見せ、小馬鹿にするような視線を送ってきた。
 なので俺は満面の笑みを浮かべ、拳を握って親指を立てる。そして静かにその手を下に向けた。くたばれクソ野郎。



 *・*・*



「いっ、てぇ!」
「そりゃ怪我してるからね。はい、お終い」
「もうちょっと優しくしてくれや。ユニ」

 塗り終わった軟膏を片す俺の前で、不満そうにラムが愚痴る。

「優しさは、今、明後日に出張中なんだ」
「連れ戻せ」
「やだ。ほら、さっさと片付けに行って」

 指差した先は他メンバーのところ。
 そこでは討伐した小鬼とナイトレイドの剥ぎ取りと解体が始まっていた。
 剥ぎ取りは主に魔石・小鬼の耳・狼の牙、肉、皮の五つ。解体は全て運びやすい程度に刻み、一カ所に積んでいる。
 何故一カ所に積むのか。
 これは単純に不死者対策だ。
 この世界では悪しき生命であったものが絶命後、稀に邪悪な霊魂モンスターになったり、腐敗した死体即ちゾンビとして誕生するからだ。その場合、かなり骨の折れる相手になる。護衛任務である以上、多少手間をかけてでも新たな面倒、否、リスクは下げねばならならなかった。
 
「へいへい。あ、またオズの野郎がレオに突っかかってら」

 目線で追うと、死骸運搬中のレオの傍に、何やら鼻高々といった様子のオズがいた。
 レオより討伐数が上回っていたから調子に乗っているのだろう。

「うわぁ……」
「あれでも一応友人認定されてっからな」
「――は?」
「ん? 知らなかったか。彼奴ら同郷なんだわ」

 初耳情報だ。
 元々冒険者同士の詮索は御法度だから仕方ない面もあるが、パーティ内で自分だけ知らないのは一抹の寂しさがある。

「よく嫌にならないね」
「あ~……まあ、そこまで悪い奴でもないからな」
「正気?」
「ユニは苦手か?」
「苦手以前にヘイトコントロールもしてないのにヘイト向け続けてくる輩を、ラムは無条件で好きになれる?」

 俺の答えにラムは苦笑いを浮かべる。

「けどまあ腕の高さだけは認めるよ」
「問題がなけりゃ銀等級だからな」
「銀」
「ま、仲良くしろとは言わねえが上手く転がせりゃそれなりに役に立つぜ」
「ちょっ、頭揺らすな!」

 がっしりとした厚ぼったい手が、俺の髪を乱暴にかき混ぜる。

「やめろって――ねえ、グノーが凄い顔でこっち見てるんだけど」
「ハハッ。嫉妬深いダーリンだぜ」

 満更でもない様子で頬を搔いたラムは手当の礼を言うと、そのまま小走りでグノーの元へ駆け寄っていく。
 入れ替わりでレオ、と小判鮫の如くオズがやってくる。

「お疲れさま、ユニ」
「あ゛、ソイツなんもしてねーだろ」
「……オズ」
「チッ」

 転がすよりも彼方まで放逐したい。
 軟膏を握る手が怒りで震えるが、相手にしないと返り血を浴びたレオにだけ笑い返す。

「頬の傷、手当てするから座って。あ、これで血を拭いてね」
「助かるよ」
「おい、俺様の分」
「……はぁ。ほらよ」

 顔を見ずに布を投げる。
 レオからのお咎めはなかったので、そのまま取り出した薬草の束を絞り、汁を布に染みこませて消毒液の代わりを作る。

「ちょっと染みるけど我慢してね」
「ん。あいてっ!」
「他に傷があったり痛むとこはある?」
「大丈夫」
「じゃあ左手のここだけ軟膏塗るね」
「ありがと」
「おい、終わったんならさっさとどけよ」

 
 返り血を拭き終わったオズが、レオを押しのけて、どかりと座る。
 次いで拳を握ったまま右腕を差し出した。
 もちろん青春ドラマにありそうな拳の突き合わせを求めた訳ではない。

「ん」
「……は?」
「傷があんだろ」

 指摘通り、中指の辺りに擦過傷があった。ただしものすっごく小さいの。

「そうだね」
「塗れよ」
「……はぁ~」
「あ゛、何だそのクソデカ溜め息はよ」
「解らないなら訊かないでくれる?」
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