二度目の人生は、地雷BLゲーの当て馬らしい。

くすのき

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下水道にて④

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 都度休憩を挟みながら到着した汚水処理場は、想像以上に広かった。
 面積はテニスコート約六面分、高さはやや大き目の二階建て程度。内部は工場内を彷彿とさせる精密機器がドンッと幅をきかせ、稼働音が鳴り響く。
 エンジニアだった俺からみれば非常に心躍る夢のような空間であったがその手前、真ん中を陣取る集団を目撃してしまい、俺は発狂寸前にまで陥った。
 室内中央奥。設備にはおよそ関係のない禍々しい巨大クリスタルと、その周りを囲む大量の阿久多牟之あくたむしもとい通称Gらしき虫がいたからだ。
 最悪の状況だ。
 咄嗟に口元を覆い、やや離れた場所から偵察していると、傍らのロキが徐に通路に足を運ぶ。
 次いでボッという燃焼音が上がる。
 見れば彼の目は路傍の石でも払うかと言わんばかりに無機質だった。その先に何が待っているか。瞬時に理解した俺は慌てて待ったをかける。
 脳裏に灼熱の最中、エアコンをつけず容量の大きなPCゲームを稼働してパソコンぶっ壊した友人が過る。

「アカンアカンアカン。火は駄目、火は駄目、絶対駄目!」
「虫を焼くだけですよ?」
「それが駄目だっつってんだよ馬鹿野郎! ちょっとこっち来い。…………いいか、ああいう精密機械ってのは古今東西熱に弱いんだよ。んな場所で超高温ぶっ放してみろ。一発で故障するか、製品寿命縮めてレッツゴー責任問題! 賠償金だってたぶん億越え! 支部の立場悪くしたいの!?」

 俺の必死な剣幕に仲間達が、ぎょっとする。

「だったらどうするんだ。ここにゃホウ酸団子もねぇぞ」
「無くて良かった! そっちも余裕でアウト!」

 もちろんホウ酸団子も全てが悪いわけではない。今回はおそらく精密機器の隙間に虫達の巣が内包している可能性が高く、食した虫の死骸が内部に残されてしまう。そうなればショート待った無しだ。よって選べない。
 ならどうすると仲間達が俺を仰ぐ。
 俺達の目的は魔寄せらしいあの水晶の破壊だ。だがそれにはあの虫達を退けなくてはならない。
 誘導ないし退散としてパッと頭に思い浮かぶのは、くん煙剤と超音波だが、どちらも今現在使えない。

「正直全討伐は厳しいと思う。だからスライムの件を含めてあの禍々しいクリスタルだけは破壊しておきたい」
「私も賛成です。というか私の目的もアレの破壊なんですよ」
「お、おう……」

 ロキの目が妖しく光る。

「それにしても不思議ですね。貴方の経歴では機械に詳しい情報はありませんでしたが、やはりそれも佐竹 紫さんの経験なのですか」
「っ、」

 身体が石のように強張り、レオが庇うように俺の前に立つ。

「あぁ、安心してください。私に脅迫の意図はありません」

 もう興味もありません、と告げるロキは本当にどうでもいいという態度だった。

「(確か彼は亡くなったアザレアーナさんの魂を長年探していたけど、後に彼女の魂はもうヘルブリンに喰われたと知る流れだった)」
「ですので安心してください」
「アッ、ハイ」
「それで話しは戻しますが、どうやってアレ壊しましょうか」

 正直あまり納得はできていないが、それは一旦後ろに置いておく。
 彼の言う通り、今はクリスタルの破壊が先決だ。

「そうだ。彼処で火を使うのが駄目なら一本道に誘き寄せてそこを焼き殺すなんてどう?」
「それなら」
「駄目。この空調の悪さを鑑みて、もし行使するつもりならかなり距離を稼いだ上でないと許可出来ない」
「打つ手がなくないカ?」
「であれば私が軽く全身に炎を纏ってクリスタルだけ壊してきましょうか」
「それは流石に危険すぎんだろ!」
「ですが他に手はないでしょう?」

 画期的な案が出ないのに時間だけが無為に流れていく。
 どうする。どうすればいい。
 悶々と、されど絶えず思考を巡らせていると脳内に天啓?と言って良いのか、紫時代の友人の話が降って湧いた。
 自宅マンション一階に飲食店のあるそこはGが出やすく、ほとほと困っていたが部屋にハーブを焚いたり、ホウ酸団子を置いて平和になったと言っていた。確かハーブの方はシオネールやメントールなど聞き覚えのない成分が含まれているそうで、それらは虫に取って不快に感じる臭いなのだと奴は鼻高々に語っていた。
 丁度手元には料理に使おうと乾燥させたレモンタイムがある。もしかしたらこれが使えるかもしれない。

「皆ちょっと聞いて。試したい事があるんだ」

 俺は全員に乾燥タイムを焚く提案をする。

「……なるほド」
「皆はどう思う」
「他に方法もねえしいいんじゃねえか。風向きも悪くねえし」
「やってみる価値はありますね」
「じゃあ一回やってみよっか」

 頷いた俺はその場にテントを拡げる。
 寝る為ではない。
 平たく言えば人間の燻製。
 此処に第三者がいればとち狂ったぞコイツ等とドン引いてくるだろうが、残念ながら俺達は大真面目である。
 何故なら処理場全てを覆うほどハーブがない為、これが最も効率的かつ身体に染みこんだ下水臭上書きチャンスでもあったから。
 テント内に燻したレモンタイムの香り、爽やかな柑橘の香りが充満する。
 とても良い香りだ。

「うわぁ、これ落ち着くね」
「匂いがつくまでどれくらい時間がかかるものなんですか」
「食品なら数時間から数日程度ですから、一応一時間ほどこのままにしてそのあと燻したレモンタイムを水に混ぜるのでそれでタオルを絞って身体を拭いて貰えれば」
「判りました」

 そして結果から言おう。
 俺の考えた人間スモーク作戦は大成功だった。虫達は面白いほど我先にと俺達から遠離り、モーゼが海を割ったように、ざぁっと散った。
 禍々クリスタルに近付き、ロキが言う。

「皆さんは少し離れていてください」

 彼は自身の細剣に炎を纏わせ、クリスタルを一閃した。一拍後、斬ったクリスタルがパキッと音を立て、そして砕けた。その様は雪が降っているかのようだった。微細な粒子となったそれが光を受けてキラキラと輝く。
 あんなに禍々しかったのに不思議だ。

「綺麗……」

 掌についたそれを見る。
 その時だった。
 クリスタルの欠片が何かを映す。一体なんだろうと覗き込んだ刹那、俺は言葉を失った。

「ヘル、ブリン……」
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