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真夜中の侵入者

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 瑛は、ぱちっと目を開いた。
 眠れない。ゴロンと寝返りをうってみる。これで何ゴロン目だろう。
 少し前、トキが隣の布団に入ったので、多分、日付が変わった頃。横になれば、いつもは気づけば朝なのに、今夜は目がギンギンに冴えていた。

 そういえば……。
 瑛は、ふと思い出した。
 子供の頃、マナシがよく子守歌を歌ってくれた。体調を崩した時でも、あの歌を聞けば、不思議と眠ることができた。けど、もうマナシはいないし、かと言って、トキに頼むわけにもいかない。トキは寝起きも悪いが、寝入りばなに起こされるのも嫌う。
 仕方なく瑛は心の中で、子守歌を口ずさんだ。
 ね~んね~こ~、ね~んころり~。
 一節、歌ったところで、目はバッキバキ。さらに、妙な胸さわぎもして、瑛は体を起こした。暗闇の中、キョロキョロと辺りを見回す。

 ……いる。

 気配がするのは、隣の部屋。何か、緊急事態でも起きたのか。いや、スズキやノボルの気配とは違う。
 これは、甘味屋を出た時と同じ。じぃちゃんにそっくりで、ちょっと懐かしいような、あの感じ。

「トキ。起きて」

 瑛は声をかけながら、体をポンポンとたたく。何度か繰り返したところで、

「……何だ」

 布団の中から、くぐもった声があった。

「向こうの部屋に、何かいる」

 今度は返事がなかった。瑛は「ねぇ」と、トキの体を揺する。

「あっちに何かいるんだって」
「冗談でも、そういうのはやめろ」
「冗談じゃないよ。絶対、いるって」
「だから、やめろ」

 そう言うと、トキは寝返りを打って、顔を反対に向けてしまった。
 とはいえ、いるものはいる。
 それに、この気配の正体も気になる。
 仕方がない。瑛は一人で、様子を見に行くことにした。しかし、立ち上がろうとしたところで、待ったがかかる。
 無視しろと、トキは言う。

「何かあったら、どうするんだ」
「何かって、何?」
「あいつら、突然、襲いかかってきたり、取り憑いたりするだろ」

 あいつらとは一体、何なのか。トキの知り合いなのか。瑛には分からなかったが、「大丈夫」と、答えた。

「あたし、結構、強いから。何かあったら、膝カックンして逃げるし!」
「あいつらに足なんかあるか」
「じゃあ、何かあったら、トキを呼ぶね?」

 今度こそ、瑛が立ち上がると、

「いや、呼ぶな……おい、ちょっと、待て!」

 トキものそのそと、布団から出てきた。
 一足先に、瑛は寝所を出た。その後ろから、足音を立てずにトキがついてくる。

「誰?」

 暗闇に向かって、瑛が問えば、

「アキ?」

 まさかの返事があった。
 驚きつつ、瑛は部屋の明かりをつけた。照らし出されたのは。亜麻色の髪を後ろで結んだ、すらりとした着流しの男。
 瑛の思い出の中では、ひげモジャ、ボッサボサ頭のおっさんだけど。
 そうだ、この気配は。

「ヒッキー‼」
「あんた、ヨシ⁉」

 瑛と同時にトキが呼んで、二人は同時に顔を見合わせた。

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