32 / 46
真夜中の侵入者
しおりを挟む
瑛は、ぱちっと目を開いた。
眠れない。ゴロンと寝返りをうってみる。これで何ゴロン目だろう。
少し前、トキが隣の布団に入ったので、多分、日付が変わった頃。横になれば、いつもは気づけば朝なのに、今夜は目がギンギンに冴えていた。
そういえば……。
瑛は、ふと思い出した。
子供の頃、マナシがよく子守歌を歌ってくれた。体調を崩した時でも、あの歌を聞けば、不思議と眠ることができた。けど、もうマナシはいないし、かと言って、トキに頼むわけにもいかない。トキは寝起きも悪いが、寝入りばなに起こされるのも嫌う。
仕方なく瑛は心の中で、子守歌を口ずさんだ。
ね~んね~こ~、ね~んころり~。
一節、歌ったところで、目はバッキバキ。さらに、妙な胸さわぎもして、瑛は体を起こした。暗闇の中、キョロキョロと辺りを見回す。
……いる。
気配がするのは、隣の部屋。何か、緊急事態でも起きたのか。いや、スズキやノボルの気配とは違う。
これは、甘味屋を出た時と同じ。じぃちゃんにそっくりで、ちょっと懐かしいような、あの感じ。
「トキ。起きて」
瑛は声をかけながら、体をポンポンとたたく。何度か繰り返したところで、
「……何だ」
布団の中から、くぐもった声があった。
「向こうの部屋に、何かいる」
今度は返事がなかった。瑛は「ねぇ」と、トキの体を揺する。
「あっちに何かいるんだって」
「冗談でも、そういうのはやめろ」
「冗談じゃないよ。絶対、いるって」
「だから、やめろ」
そう言うと、トキは寝返りを打って、顔を反対に向けてしまった。
とはいえ、いるものはいる。
それに、この気配の正体も気になる。
仕方がない。瑛は一人で、様子を見に行くことにした。しかし、立ち上がろうとしたところで、待ったがかかる。
無視しろと、トキは言う。
「何かあったら、どうするんだ」
「何かって、何?」
「あいつら、突然、襲いかかってきたり、取り憑いたりするだろ」
あいつらとは一体、何なのか。トキの知り合いなのか。瑛には分からなかったが、「大丈夫」と、答えた。
「あたし、結構、強いから。何かあったら、膝カックンして逃げるし!」
「あいつらに足なんかあるか」
「じゃあ、何かあったら、トキを呼ぶね?」
今度こそ、瑛が立ち上がると、
「いや、呼ぶな……おい、ちょっと、待て!」
トキものそのそと、布団から出てきた。
一足先に、瑛は寝所を出た。その後ろから、足音を立てずにトキがついてくる。
「誰?」
暗闇に向かって、瑛が問えば、
「アキ?」
まさかの返事があった。
驚きつつ、瑛は部屋の明かりをつけた。照らし出されたのは。亜麻色の髪を後ろで結んだ、すらりとした着流しの男。
瑛の思い出の中では、ひげモジャ、ボッサボサ頭のおっさんだけど。
そうだ、この気配は。
「ヒッキー‼」
「あんた、ヨシ⁉」
瑛と同時にトキが呼んで、二人は同時に顔を見合わせた。
眠れない。ゴロンと寝返りをうってみる。これで何ゴロン目だろう。
少し前、トキが隣の布団に入ったので、多分、日付が変わった頃。横になれば、いつもは気づけば朝なのに、今夜は目がギンギンに冴えていた。
そういえば……。
瑛は、ふと思い出した。
子供の頃、マナシがよく子守歌を歌ってくれた。体調を崩した時でも、あの歌を聞けば、不思議と眠ることができた。けど、もうマナシはいないし、かと言って、トキに頼むわけにもいかない。トキは寝起きも悪いが、寝入りばなに起こされるのも嫌う。
仕方なく瑛は心の中で、子守歌を口ずさんだ。
ね~んね~こ~、ね~んころり~。
一節、歌ったところで、目はバッキバキ。さらに、妙な胸さわぎもして、瑛は体を起こした。暗闇の中、キョロキョロと辺りを見回す。
……いる。
気配がするのは、隣の部屋。何か、緊急事態でも起きたのか。いや、スズキやノボルの気配とは違う。
これは、甘味屋を出た時と同じ。じぃちゃんにそっくりで、ちょっと懐かしいような、あの感じ。
「トキ。起きて」
瑛は声をかけながら、体をポンポンとたたく。何度か繰り返したところで、
「……何だ」
布団の中から、くぐもった声があった。
「向こうの部屋に、何かいる」
今度は返事がなかった。瑛は「ねぇ」と、トキの体を揺する。
「あっちに何かいるんだって」
「冗談でも、そういうのはやめろ」
「冗談じゃないよ。絶対、いるって」
「だから、やめろ」
そう言うと、トキは寝返りを打って、顔を反対に向けてしまった。
とはいえ、いるものはいる。
それに、この気配の正体も気になる。
仕方がない。瑛は一人で、様子を見に行くことにした。しかし、立ち上がろうとしたところで、待ったがかかる。
無視しろと、トキは言う。
「何かあったら、どうするんだ」
「何かって、何?」
「あいつら、突然、襲いかかってきたり、取り憑いたりするだろ」
あいつらとは一体、何なのか。トキの知り合いなのか。瑛には分からなかったが、「大丈夫」と、答えた。
「あたし、結構、強いから。何かあったら、膝カックンして逃げるし!」
「あいつらに足なんかあるか」
「じゃあ、何かあったら、トキを呼ぶね?」
今度こそ、瑛が立ち上がると、
「いや、呼ぶな……おい、ちょっと、待て!」
トキものそのそと、布団から出てきた。
一足先に、瑛は寝所を出た。その後ろから、足音を立てずにトキがついてくる。
「誰?」
暗闇に向かって、瑛が問えば、
「アキ?」
まさかの返事があった。
驚きつつ、瑛は部屋の明かりをつけた。照らし出されたのは。亜麻色の髪を後ろで結んだ、すらりとした着流しの男。
瑛の思い出の中では、ひげモジャ、ボッサボサ頭のおっさんだけど。
そうだ、この気配は。
「ヒッキー‼」
「あんた、ヨシ⁉」
瑛と同時にトキが呼んで、二人は同時に顔を見合わせた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる