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ルート分岐当日

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 翌日から、私は逃げて逃げて、逃げまくった。

 時間ギリギリに寮を出て、休み時間には教室から逃亡。放課後も、いち早く寮に帰った。とにかく、十日間、アリシアとレオンには、関わらないようにした。
 
 そして、収穫祭当日。
 私は、図書館に身を潜めていた。収穫祭のルート確定イベントが終わるまでは……。今日一日、何とか、やり過ごせば、どうにかなる。そう思っていた。
 一番奥にあるテーブルで、本を読んでいると、ふっと影が落ちた。横からすっと伸びてきた手が、勝手に本を閉じる。

「何するの」
 
 相手の顔を見上げれば、レオンだった。

「話がある」

 しかめっ面で、それだけ言って、レオンは私の腕を引っ張った。ぐいぐい引っ張られて、小走りになる。問いかけも文句もすべて無視。中庭のフサアカシアの下に来たところで、やっと止まる。

「もう十日」

 レオンは、ポツリと言って、こちらを見た。

「十日も、君に避けられている。その理由を聞かせて欲しい」
「……避けてなど、いません」

 私の嘘に、レオンは、とびきり大きなため息をついた。

「入学式で初めて会った時、君は、俺の顔を見て、ひどく驚いたようだった」

 そりゃあねと、心でうなずく。
 見慣れないキャラが、そこにいたんだもの。あの頃はまだ、旧版の『マジなんだ』だと思っていたから。
 モブにしてはイケメンだし。イケボだし。しかも、めちゃくちゃ好みだったので、ガン見してしまいました。
 まぁ、レオンのおかげで、ここが『シン・マジ』の世界だと気づけたんだけど。

「異国人だから、珍しいのだろうと思ったが、そのあとも、君は俺を見ていた。そのせいで、俺は勘違いをしてしまった」
「勘違い?」
「そう、勘違いだ。しかし、最近になって、君は別の男を気にし始めた。ルークだ。イザベラ。君は、ルークのことが好きなのか?」

 なぜ、ルークの話になるのか。不思議に思いながらも、私は首を振って否定する。

「ならば、なぜ、ルークを見ている?」
「それは、その……噂。そう、噂を聞いたのよ。ルークは危ないヤツだって。だから、気になって」

 私は、何とかごまかした。レオンは「そうか」と、納得した様子。
 それにホッとしていると、レオンの顔がゆるんで笑う。

「……それなら、よかった」
「よかった?」
「君が、他の男に目を向けているのは、我慢ならないからな」
「え?」

「イザベラ」

 正面から、まっすぐに見つめられる。かぁっと、耳が熱くなった。一拍、遅れて、心臓がドキンと大きく胸を打ち始める。
 ゲーム画面で見る、キャラの超どアップイラストとは、わけが違う。すぐそこにレオンの顔があって、何かのいい匂いがして、息づかいまで聞こえてくる。

「俺は、ただのクラスメイトでいるつもりなどない。どんなに親しかろうが、友人もごめんだ」

「え、」
「君の特別になりたい」
「ぅへ?」

 何とも間抜けな声が出た。

 ど、どういうこと?
 これって、何かのイベントが起こりかけてない?
 この状況は、何なの?

 頭の中を『?』が埋め尽くしていく。

 本来なら、このフサアカシアの下で、アリシアが意中の相手を収穫祭に誘うイベントが起こるはずで……。
 事態が飲み込めないでいると、レオンが距離を詰めてきた。

「ちょっと、待って!」
「待たない」
「待って!」

 私は右手を突き出したまま、よろよろと後ずさった。少し距離を取れたと思ったら、レオンにたった一歩で詰められる。
 
「イザベラ、」

 自分の名前を呼ぶその声に、クラっとする。
 そこで。

「ちょっと待ったー!」

 大きな声が中庭に響いた。今さら、彼女の声を聞き間違えるはずがない。

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