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15章 燃え尽きた松明
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「行っちゃった……」
ライラがぽつりとつぶやく。なんだか、嵐のような出来事だったな……
「ち、ちょっと!なんなの、あの女は!」
うわ。アルアがいきなり、俺の胸倉に掴みかかってきた。アルアはそのまま、ガクガクと俺を揺さぶる。
「あいつ、魔王軍との繋がりがあるんじゃないの!?戦争の動向を知ってるということは、スパイの可能性がある!そんな奴を自由にしてはおけない!」
「あ、わ、おち、つけって」
「落ち着いてなんていられない!」
だからって、なんで俺を揺するんだ?フランがイライラした様子で割って入らなければ、いつまでもそうしていただろう。
「やめろ!この人に当たっても、どうにもならないでしょ」
「で、でも!これは重大な問題だ!だいたい、あいつは何なの?あなたたちの知り合い?」
「もし教えてほしいのなら、黙って待ってて。お前が騒げば騒ぐほど、説明がややこしくなるから」
フランのド正論に、アルアはぐっと唇を噛んで黙った。やれやれ、やっと静かになったか。
「ったく、アルア。俺たちだって驚いてただろが。こっちだってよく分かんねーんだよ。いきなりあんなこと言われて」
「けど、あの人はあなたたちを知っている風だった!」
「ああ、知り合いではあるんだ。ただ、旅先で一度会っただけだ。詳しい素性は何にも知らない」
「なら……全くのデマカセの可能性もある、ていうこと?」
「うーん、そこまで断言してもいいものか……とりあえず、今分かっていることと照らし合わせてみようぜ」
俺たちは移動も惜しんで、その場に輪になって座った。正確には、移動を惜しんだのはアルアのみだ。ちぇっ、今しがた戦闘があったばっかりで、座り心地はよくないんだけどな。これ以上焦らすと、アルアがドカンと爆発しそうだから。
「さて、アルア。俺は西の情勢に詳しくない。傭兵のあんたなら、何か知ってるんじゃないか?」
「ええ……西の戦線、フィドラーズグリーン戦線の状況は、今のところ目立った動きはないそうよ。だけど、確実に魔王軍は活動を再開している。準備は着々と進んでいると見て間違いないって」
「なら、近々戦いが起こるっていうペトラの言葉とは、一致するな……」
「いいえ、今すぐってわけじゃない。準備は進んでいるけれど、それが一カ月後か、一年後かは分からないの。動くかに見えて、結局空振りに終わったことも何度もあったから」
「あ、そうなの?うぅ~ん、だとしてもずいぶんアバウトだな。一年後ならまだしも、一か月後だったらどうすんだよ?」
「だから今、帝都から先遣観測部隊が派遣されたとこ。万が一即座に動き出しても、三千人の兵が食い止めてくれるから、一大事にはならないはず」
ほう、三千人。なかなかの数だ。だが……
「でもペトラは、敵はかなり強いっぽいって言ってたよな?以前の戦いとは一味違うとか、魔王よりもっとやべー奴がいるとか……」
「だから!それが正しいのかどうかを聞いているの!」
またペトラの目が血走り始めた。エラゼムが咳ばらいを一つして、静かな口調で話し出す。
「現時点で確実なのは、ペトラ嬢が情勢をかなり正確に把握していたということですな。彼女は西がきな臭くなっていることを知っており、それに対して勇者が出向くことになるだろうことを知っていた」
「そうだな。戦争が始まることを予期していた。それもただの戦いじゃない、魔王と勇者の対決だ……」
「その上で、ペトラ嬢はさらなる内情をも知っているそぶりを見せました。ところで、あの場にもう一人、戦について詳しそうな人物がおりましたな」
「へ?そんな奴いたっけ?」
ペトラ以外って、俺たちの誰かか?いいや、俺たちは戦争についてほとんど知らない。アルアでもないとなると、残ったのは……
「あ!マスカレードか!」
「そうです。覚えていますでしょうか?ペトラ嬢が現れる直前、あやつは桜下殿に対して、何やら揺さぶりをかけようとしておりましたな」
「ああ、そうだった!たしか、戦争に行かないと後悔することになるって……!」
そうだった。あの野郎もまた、なんかを知っている風だったじゃないか。それに考えてみれば、そもそも一番初めに開戦の兆しを報せてきたのがマスカレードだ。あいつが戦況に詳しくても、何の不思議もない。
「ペトラ嬢とマスカレード、両者が同じ情報を得ているかどうかは定かではありませぬ。しかし二名とも、此度の戦を只ならぬもののように言っていたことが気掛かりです」
「うん、そうだな……二人とも、何かが起こることを知っているみたいだった……」
あの二人ほどの人物が、風の噂程度にそそのかされているとは思えない。やっぱり二人とも、何かの情報を握っているんだ。
「なんかあるってのは、間違いないと見てよさそうだな」
するとまたも、アルアが噛みついてくる。
「あんな怪しい奴らのこと、信用できるわけ?それにもし本当だとしたら、あいつらはスパイだ!捕まえないと!」
「あのなぁ……できることとできないこと、考えて話せよな。あいつらの強さは、その目で見ただろ?どっちか一方だけでも捕まえられたら快挙だな」
「ぐっ……ううぅぅぅぅ~!」
アルアはよっぽど悔しいのか、両の拳を地面についてうなだれた。
「まあ、できることと言ったら、今回の事を事細かく覚えておいて、後でノロ女帝に教えるくらいか。情報の真偽は女帝がするんじゃないか?」
「……悔しいけど、そうするしかなさそう。いずれにせよ、まず一番に閣下にお知らせしないと……」
「あー、で、どうする?情報は鮮度が命って言うけど、あんただけ先に帰るか?」
アルアからしたら、一刻も早くノロの下へ馳せ参じたいところだろう。そんな状態で、俺たちの案内をする気があるかな。
「……ここからなら、ヒルコの町はそう遠くない」
うなだれていたアルアは、ゆっくりと顔を上げた。
「最後まで、任務は全うします。あなた達を無事に町まで護衛するのが、傭兵としての私の務めです」
お。アルアはあくまで、任務を優先するようだ。こっちからしたら正直どっちでも問題ないけど、まあ途中でほっぽり出されるよりは気分はいい。
「そうか。じゃ、すぐにでも出発するか。こんなとこにいつまでも居てもしょうがないし」
「ええ、そうしましょう」
敵と戦った場所でいつまでもぼやぼやしているのは馬鹿だけだ。俺たちは速やかに馬に乗り込み、移動を再開した。
「あ、そういや。しまった、訊くの忘れてた!ロウラン!」
走り出したタイミングで、俺はあることを思い出した。隣でフランに引っ張られているロウランに、俺は大声で話しかける。
「ちょっと、訊きたいことがあるんだけど!」
「なぁに、ダーリン?何でも答えてあげるよ♪理想の初夜のシチュエーションはね」
「違う!そうじゃなくて、さっきのペトラのことだよ」
俺が遮ると、ロウランはつまんなそうに頬を膨らました。フランがじろりと横目で睨んでいる……
「ぶー。つれないなぁ。それで、ペトラって確か、さっきの真っ黒い女の人?ダーリン、あの人とどーいう関係なの?」
「いや、さっきも言っただろ、昔一度会っただけだって。なんでそんな目で見るんだ……」
「ふ~ん……まあいいや。それで、あの人がどうしたの?」
「あれ?ロウラン、あいつの顔に見覚えないか?前に一度話しただろ、お前の記憶の中に出てきたっていう」
「うぅん……?……ああ~!思い出したの。そう言えばそんなこと言ってたねぇ」
ロウランは完全に忘れていたようだ。ペトラを直接見ても、なんにも言ってなかったしなぁ。
「お前、ペトラを見ても、なんにも思い出さなかったのか?」
「う~ん、そうだねぇ。というよりは、その記憶に出てきたって人の事自体を思い出せない感じかなぁ」
「ああ、よく覚えてないって言ってたっけか。三百年前だもんな」
「そうなの。さっきの黒い女の人を見ても、ピンとは来なかったなぁ。ああでも、雰囲気は似てたかもね。ちょっと寡黙そうな感じとか。あ、ねえねえ。あの人ってガイコクジン?」
「外国人かって?まあ、一応そうなるのかな」
ペトラの出身地は、外の大陸だったはずだ。
「外人だと、何かあるのか?」
「うーん、おぼろげなんだけど。その人、アタシの国の人じゃなかった気がするんだぁ。どこか遠くから来てて、それでいつも忙しそうにしてて……」
「遠くから……確かに、一致するな。忙しそうにってのは、何か役割があったからか?」
「うーん、よく分かんない……あの人は、魔術師だったはずなの。アタシに魔法を掛けたんだし。でも、魔術師って忙しくするものなのかなぁ?」
「それは……どうなんだろ」
俺のイメージじゃ、魔術師ってのはどっしり構えて、あまり動き回らない感じだ。まあもっとも、例外はいくらでもあるだろうが……俺の視線を感じたのか、ライラが不思議そうにこっちを見ている。
「それにねダーリン。念のため言っとくけど、アタシの記憶は三百年前のものなの。あの人って三百歳以上なの?」
「ああ、まそうだよな」
「ちょっとだけ、偶然が重なっただけ。そう考える方が妥当なんじゃない?」
「うーん……」
ロウランは暗に、ここまでにしとけと言っているんだろう。確かに、悩みすぎても答えは出なさそうだ。彼女の言う通り、珍しい偶然だったと笑い飛ばす方が楽なのだろうけど……
(でも、気になるよな、やっぱり)
ペトラは一体、何を知っているんだろう?彼女は魔王と人類の戦争に、何か関わっているのだろうか?だとしたら、敵なのか、味方なのか。
(……きな臭くなってきたな)
俺は人類の発展だとか、勇者の使命には興味ない。戦争にも行かないつもりだったが……戦いの方が、じわりじわりと、その腕をこちらに伸ばしてきているような気がする。それは俺だけじゃなくて、もっと他のところにも……
俺の心を反映したかのように、空は少しずつ雲を増し、どんよりとした天気になりつつあった。遠くで雷鳴がしている……
ずずずううぅぅぅぅん……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ち、ちょっと!なんなの、あの女は!」
うわ。アルアがいきなり、俺の胸倉に掴みかかってきた。アルアはそのまま、ガクガクと俺を揺さぶる。
「あいつ、魔王軍との繋がりがあるんじゃないの!?戦争の動向を知ってるということは、スパイの可能性がある!そんな奴を自由にしてはおけない!」
「あ、わ、おち、つけって」
「落ち着いてなんていられない!」
だからって、なんで俺を揺するんだ?フランがイライラした様子で割って入らなければ、いつまでもそうしていただろう。
「やめろ!この人に当たっても、どうにもならないでしょ」
「で、でも!これは重大な問題だ!だいたい、あいつは何なの?あなたたちの知り合い?」
「もし教えてほしいのなら、黙って待ってて。お前が騒げば騒ぐほど、説明がややこしくなるから」
フランのド正論に、アルアはぐっと唇を噛んで黙った。やれやれ、やっと静かになったか。
「ったく、アルア。俺たちだって驚いてただろが。こっちだってよく分かんねーんだよ。いきなりあんなこと言われて」
「けど、あの人はあなたたちを知っている風だった!」
「ああ、知り合いではあるんだ。ただ、旅先で一度会っただけだ。詳しい素性は何にも知らない」
「なら……全くのデマカセの可能性もある、ていうこと?」
「うーん、そこまで断言してもいいものか……とりあえず、今分かっていることと照らし合わせてみようぜ」
俺たちは移動も惜しんで、その場に輪になって座った。正確には、移動を惜しんだのはアルアのみだ。ちぇっ、今しがた戦闘があったばっかりで、座り心地はよくないんだけどな。これ以上焦らすと、アルアがドカンと爆発しそうだから。
「さて、アルア。俺は西の情勢に詳しくない。傭兵のあんたなら、何か知ってるんじゃないか?」
「ええ……西の戦線、フィドラーズグリーン戦線の状況は、今のところ目立った動きはないそうよ。だけど、確実に魔王軍は活動を再開している。準備は着々と進んでいると見て間違いないって」
「なら、近々戦いが起こるっていうペトラの言葉とは、一致するな……」
「いいえ、今すぐってわけじゃない。準備は進んでいるけれど、それが一カ月後か、一年後かは分からないの。動くかに見えて、結局空振りに終わったことも何度もあったから」
「あ、そうなの?うぅ~ん、だとしてもずいぶんアバウトだな。一年後ならまだしも、一か月後だったらどうすんだよ?」
「だから今、帝都から先遣観測部隊が派遣されたとこ。万が一即座に動き出しても、三千人の兵が食い止めてくれるから、一大事にはならないはず」
ほう、三千人。なかなかの数だ。だが……
「でもペトラは、敵はかなり強いっぽいって言ってたよな?以前の戦いとは一味違うとか、魔王よりもっとやべー奴がいるとか……」
「だから!それが正しいのかどうかを聞いているの!」
またペトラの目が血走り始めた。エラゼムが咳ばらいを一つして、静かな口調で話し出す。
「現時点で確実なのは、ペトラ嬢が情勢をかなり正確に把握していたということですな。彼女は西がきな臭くなっていることを知っており、それに対して勇者が出向くことになるだろうことを知っていた」
「そうだな。戦争が始まることを予期していた。それもただの戦いじゃない、魔王と勇者の対決だ……」
「その上で、ペトラ嬢はさらなる内情をも知っているそぶりを見せました。ところで、あの場にもう一人、戦について詳しそうな人物がおりましたな」
「へ?そんな奴いたっけ?」
ペトラ以外って、俺たちの誰かか?いいや、俺たちは戦争についてほとんど知らない。アルアでもないとなると、残ったのは……
「あ!マスカレードか!」
「そうです。覚えていますでしょうか?ペトラ嬢が現れる直前、あやつは桜下殿に対して、何やら揺さぶりをかけようとしておりましたな」
「ああ、そうだった!たしか、戦争に行かないと後悔することになるって……!」
そうだった。あの野郎もまた、なんかを知っている風だったじゃないか。それに考えてみれば、そもそも一番初めに開戦の兆しを報せてきたのがマスカレードだ。あいつが戦況に詳しくても、何の不思議もない。
「ペトラ嬢とマスカレード、両者が同じ情報を得ているかどうかは定かではありませぬ。しかし二名とも、此度の戦を只ならぬもののように言っていたことが気掛かりです」
「うん、そうだな……二人とも、何かが起こることを知っているみたいだった……」
あの二人ほどの人物が、風の噂程度にそそのかされているとは思えない。やっぱり二人とも、何かの情報を握っているんだ。
「なんかあるってのは、間違いないと見てよさそうだな」
するとまたも、アルアが噛みついてくる。
「あんな怪しい奴らのこと、信用できるわけ?それにもし本当だとしたら、あいつらはスパイだ!捕まえないと!」
「あのなぁ……できることとできないこと、考えて話せよな。あいつらの強さは、その目で見ただろ?どっちか一方だけでも捕まえられたら快挙だな」
「ぐっ……ううぅぅぅぅ~!」
アルアはよっぽど悔しいのか、両の拳を地面についてうなだれた。
「まあ、できることと言ったら、今回の事を事細かく覚えておいて、後でノロ女帝に教えるくらいか。情報の真偽は女帝がするんじゃないか?」
「……悔しいけど、そうするしかなさそう。いずれにせよ、まず一番に閣下にお知らせしないと……」
「あー、で、どうする?情報は鮮度が命って言うけど、あんただけ先に帰るか?」
アルアからしたら、一刻も早くノロの下へ馳せ参じたいところだろう。そんな状態で、俺たちの案内をする気があるかな。
「……ここからなら、ヒルコの町はそう遠くない」
うなだれていたアルアは、ゆっくりと顔を上げた。
「最後まで、任務は全うします。あなた達を無事に町まで護衛するのが、傭兵としての私の務めです」
お。アルアはあくまで、任務を優先するようだ。こっちからしたら正直どっちでも問題ないけど、まあ途中でほっぽり出されるよりは気分はいい。
「そうか。じゃ、すぐにでも出発するか。こんなとこにいつまでも居てもしょうがないし」
「ええ、そうしましょう」
敵と戦った場所でいつまでもぼやぼやしているのは馬鹿だけだ。俺たちは速やかに馬に乗り込み、移動を再開した。
「あ、そういや。しまった、訊くの忘れてた!ロウラン!」
走り出したタイミングで、俺はあることを思い出した。隣でフランに引っ張られているロウランに、俺は大声で話しかける。
「ちょっと、訊きたいことがあるんだけど!」
「なぁに、ダーリン?何でも答えてあげるよ♪理想の初夜のシチュエーションはね」
「違う!そうじゃなくて、さっきのペトラのことだよ」
俺が遮ると、ロウランはつまんなそうに頬を膨らました。フランがじろりと横目で睨んでいる……
「ぶー。つれないなぁ。それで、ペトラって確か、さっきの真っ黒い女の人?ダーリン、あの人とどーいう関係なの?」
「いや、さっきも言っただろ、昔一度会っただけだって。なんでそんな目で見るんだ……」
「ふ~ん……まあいいや。それで、あの人がどうしたの?」
「あれ?ロウラン、あいつの顔に見覚えないか?前に一度話しただろ、お前の記憶の中に出てきたっていう」
「うぅん……?……ああ~!思い出したの。そう言えばそんなこと言ってたねぇ」
ロウランは完全に忘れていたようだ。ペトラを直接見ても、なんにも言ってなかったしなぁ。
「お前、ペトラを見ても、なんにも思い出さなかったのか?」
「う~ん、そうだねぇ。というよりは、その記憶に出てきたって人の事自体を思い出せない感じかなぁ」
「ああ、よく覚えてないって言ってたっけか。三百年前だもんな」
「そうなの。さっきの黒い女の人を見ても、ピンとは来なかったなぁ。ああでも、雰囲気は似てたかもね。ちょっと寡黙そうな感じとか。あ、ねえねえ。あの人ってガイコクジン?」
「外国人かって?まあ、一応そうなるのかな」
ペトラの出身地は、外の大陸だったはずだ。
「外人だと、何かあるのか?」
「うーん、おぼろげなんだけど。その人、アタシの国の人じゃなかった気がするんだぁ。どこか遠くから来てて、それでいつも忙しそうにしてて……」
「遠くから……確かに、一致するな。忙しそうにってのは、何か役割があったからか?」
「うーん、よく分かんない……あの人は、魔術師だったはずなの。アタシに魔法を掛けたんだし。でも、魔術師って忙しくするものなのかなぁ?」
「それは……どうなんだろ」
俺のイメージじゃ、魔術師ってのはどっしり構えて、あまり動き回らない感じだ。まあもっとも、例外はいくらでもあるだろうが……俺の視線を感じたのか、ライラが不思議そうにこっちを見ている。
「それにねダーリン。念のため言っとくけど、アタシの記憶は三百年前のものなの。あの人って三百歳以上なの?」
「ああ、まそうだよな」
「ちょっとだけ、偶然が重なっただけ。そう考える方が妥当なんじゃない?」
「うーん……」
ロウランは暗に、ここまでにしとけと言っているんだろう。確かに、悩みすぎても答えは出なさそうだ。彼女の言う通り、珍しい偶然だったと笑い飛ばす方が楽なのだろうけど……
(でも、気になるよな、やっぱり)
ペトラは一体、何を知っているんだろう?彼女は魔王と人類の戦争に、何か関わっているのだろうか?だとしたら、敵なのか、味方なのか。
(……きな臭くなってきたな)
俺は人類の発展だとか、勇者の使命には興味ない。戦争にも行かないつもりだったが……戦いの方が、じわりじわりと、その腕をこちらに伸ばしてきているような気がする。それは俺だけじゃなくて、もっと他のところにも……
俺の心を反映したかのように、空は少しずつ雲を増し、どんよりとした天気になりつつあった。遠くで雷鳴がしている……
ずずずううぅぅぅぅん……
つづく
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