誰よりも優しく抱いたのに、その優しさが君を傷つけた

氷月

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Lesson8 微笑みに溺れた夜

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今日は21歳になったみのるの誕生日イベント。

開店と同時にフロアは賑やかさに包まれていた。

「みのるくんおめでとう!」

「21歳かぁ、若いなぁ!」

たくさんの声と笑顔、拍手が溢れる。

――主役の登場。

金色に染めた髪、ピンクのイヤリングカラーが光を反射して揺れる。

黒のレースブラウスに身を包んだみのるは、まるで宝石のように可憐でお洒落な姿。

その瞬間、フロアの視線を一斉にさらった。

テーブルには俺とシュウが準備したフルーツたっぷりのケーキ。

お洒落なフルーツ盛り合わせや料理も並び、華やかな夜を彩っている。

「みのる、お誕生日おめでとう!」

声に包まれながら、みのるは笑顔でロウソクを吹き消す。

「ふーっ……ありがとう!」

その姿に客たちはさらに歓声を上げた。

シャンパンタワーの準備も整う。

リュウは静かにグラスを並べるボーイへ指示を飛ばし、オーナーから贈られたシャンパンを注ぐ。

煌めく液体が流れ落ち、グラスに光を宿していく。

その瞬間、フロアは歓声と拍手で揺れた。

「さすがだな……」

客から差し入れられるシャンパンやブランデー。

プレゼントが積み上がっていく。

カウンターに座っているリツが、グラスを傾けながら小さくつぶやいた。

「なんであんなやつのために?」

横で聞いていたレモンが、鼻で笑って返す。

「は?素直に祝えばいいのに」

(わかってないな…悪魔のみのるのこと)

プレゼントは次々と渡される。

香水、アクセサリー、ブランド小物。

常連客たちの目は優しく、みのるの笑顔に酔っていた。

「みのる、誕生日おめでとう!」

シュウが大きな声で祝福しながら、プレゼントに香水を差し出す。

「わぁ……ありがとう!」

受け取った瞬間、シュウの手がみのるの髪を優しく撫でた。

「この匂い似合うと思ったんだ」

みのるは照れ笑いを浮かべる

「俺からも」

レモンが立ち上がり、差し出したのは小さな箱。

開けると中にはブランドのリップ。

「は?口紅?」(高級ブランドじゃなきゃ、

いらねーよ)

「ほんのり色づくやつ。ブランドのだし、映えるだろ?」

「嬉しい……ありがとう」

カウンターではレンジが水割りを一口、

氷の音が静かに鳴る。

「……ほんと、モテモテだな。みのる」

リュウは軽く笑う。

視線は遠く、見つめたまま。

「まぁな。愛嬌とあざとさ持ってるやつは強い」

レンジは肩をすくめ、低く笑う。

「愛されたいって顔して、ちゃんと安全な場所だけ残すタイプっすね。

……ズルいよな、あいつ」

「ズルいって言葉で片付けるの、優しいな」

「褒めてませんよ」

リュウは少しだけ目を細めた。

その笑みは柔らかく、どこか冷静な影を孕んでいる。

「……でも、まぁ。

選ばれる才能って、そういうことだ」

「リュウさんは嫉妬しないんすね」

「する相手にはするよ」

静かにグラスを置く。

「ただ……愛嬌の戦いは、俺は興味がない。」

レンジは苦笑しながら、フロアをもう一度見た。

「……あいつ、誰のものなんすかね」

「さぁな」

揺れる氷。

「誰にも決められねぇから、モテるんだろ」

その横顔はどこか満ちていて、どこか遠い。

リュウはゆっくり息を吐いた。

視線の先では、みのるが笑顔でシャンパンを開けている。

(……ああいう奴は、愛されて、迷って、

それでも自分の世界だけ得て生きてくんだ)

静かに、祝福の拍手が弾けた。

――カラン。

扉が開き、黒シャツに身を包んだレオが姿を現した。

「……お、来たか」低く呟いたのはリュウだった。

「王子のご登場~」

「言ってたよな、来るって」シュウが肩を竦める。

みのるは思わず視線を奪われ、小さく声を漏らした。

「和希……」

レオはゆっくり歩み寄り、周囲の視線など気にも留めず腕を引き寄せた。

「おめでとう、みのる」

低く甘い声とともに、唇に熱いキスが落ちる。

残っていた客たちは「きゃー!素敵!」と歓声を上げた。

「おまえは俺だけ。帰るぞ。」

レオはみのるの手を取った。

「今日はもう上がらせる。こいつ、連れて帰る」

唐突な声に、近くの空気がざらつく。

リュウは表情ひとつ動かさず、

一度だけ腕時計を見た。

「……客、まだいる」

低く、淡々と。

レオは肩をすくめるように笑う。

「悪い。今日はそういう気分なんで」

隣でみのるが不安そうに揺れた視線を落とす。
名残惜しそうにフロアを見て——

誰かを探すように、ほんの一瞬。

リュウはその視線を見逃さない。

けれど、興味はないみたいに、視線を
下に落とした。


「……なになに?どういうこと?」

空気読めてないシュウがぽそっと口を出す。

レオは笑って、みのるの腰を引き寄せる。

「今日は俺と一緒。な?」

みのるは小さく、けど嬉しそうに頷く。

けれどその指先は、ほんの少し震えていた。

リュウは短くため息。

「……勝手にしろ。ただし次はちゃんと仕事しろよ」

冷たい視線。感情はない。

もう守る気も、羨む気もない眼差し。

みのるの胸が一瞬きゅっと揺れた。

(……前は、こんな顔しなかったのに)

レオは気づかず、手を引く。

ふたりはそのまま夜に消えた。

扉が閉まる音だけがやけに響く。

「……常識ないな…」

リュウは静かに吐き捨てる

シュウが肩をすくめる。

「ま、愛ってやつっすかね」

「違う。あれは依存」

乾いた声。

優しさも妬け気も、もう残っていない。

レンジが肩をすくめて笑った。

「やれやれ。」

リツも苦笑する。

「ですね……でも、みのるの装飾品、見ればわかりますよ」

「興味ねぇから見てないよ」

レンジは淡々と答え、グラスを並べた

笑い方が軽いのに、声の奥は少し沈んでいた。

カウンターの向こうから、レモンが顔を出す。

「なになに?なに話してんの?」

レンジは笑いながら、氷をトングで掴む。

「いい。たいした話じゃないよ」

だが、その横顔はどこか考えていた。

(たしかにな……あいつ、ハイブランドばっか着てる。

そんなに稼いでるのか?)

リツは、手元のグラスを見つめながらぽつり。

「見ればわかりますよ」

リュウは何も言わなかった。

ただ、無言でグラスを磨いている。

照明の光が、磨かれたガラスに反射してゆらいだ。

(そうだよな、レオからあれだけ買ってもらってるなら、独占もされるよな……)

誰も言葉を足さなかった。

氷の音だけが、静かに溶けていく。

その音が、少しだけ痛く響いた。


次へ続く。
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