21 / 24
Lesson18 磨かれる者と、甘える者
しおりを挟む
CLUB ― BAR・Clova 21時。
ブルーネイビーの光が揺れる。
グラスが触れ合い、音楽と笑い声が夜を撫でていた。
リュウはカウンターの内側で、シェイカーを静かに振る。
氷の音が、心臓の鼓動よりも冷たく響く。
みのるが隣に立ち、声を落とす。
「ねぇ、昨日なんで遅かったの? 寂しかった。」
「ひとりでいれるだろ。」
「冷たい……恋人なのに。」
返事はなく、リュウの瞳はグラスの中の世界を見つめていた。
その時、ポケットの中でスマホが震える。
「? スマホ鳴ってたよ?」
「いいから。」ため息が溢れる
(なんなんだよ……)
淡々とカクテルを注ぎ、琥珀色が光を飲み込む。
「はい、これ、二十番さん持っていって。」
「はーい。」
みのるが客席へ向かう。
リュウは短く息を吐き、スマホを取り出す。
《今度プライベートで、会えたら嬉しいです。》
差出人:ムギ
画面を見つめたまま、口元がわずかに緩む。
その笑みを、みのるは見ていた。
(……何、今の顔。誰のメッセージ?)
心の奥がざわつく。
喉の奥に、錆びた味が滲む。
――その頃。
CLUB ― A。
シャンデリアの光が澄んで落ちるホール
いちごが客と笑いながらグラスを傾けていた。
その笑顔はわざとらしくなく、自然で、
誰かの心を軽く持っていく。
レオはフロアの少し離れた席に立ち、
その姿を静かに眺める。
瞳の奥が、微かに熱を帯びる。
(……綺麗だ。
光に映えるやつって、いるんだよな)
支配人が近づき、同じ視線の先を見る。
「いちごさん、本当に綺麗でイケメンですよね。この店で一番ですね」
レオは短く笑う。
「容姿だけじゃない。
立ち方、目線、客との距離感。
全部がうまい。努力の仕方を知ってる」
支配人は小さく感嘆した。そのあと、
話題を移す。
「そういえば、みのるさんとは別れたって噂、本当ですか?」
「本当だよ。」
言葉は短く、冷静。
「人ってさ、
慣れを“安心”だと思い込む。
何もしなくても愛されるって勘違いした瞬間、魅力は死ぬんだ。」
支配人は息を飲む。
レオは視線をいちごに戻し、
静かに言い切った。
「自分の価値は、自分で磨くんだよ。」
支配人は言葉を失った。
その横顔には、静かな誇りと、
少しの寂しさが滲んでいた。
深夜二時ー
リュウの高級マンションの寝室は、静まり返っていた。
黒い夜の気配が、カーテンの隙間からゆっくりと落ちてくる。
広いベッド。
リュウは疲れが抜けたように眠り、
寝息が静かに流れていた。
横顔は少し緩んでいて、
眠りの深さがそのまま伝わってくる。
その隣で、みのるは眠れずに目を開けていた。
まばたきすら忘れたまま、
枕越しにリュウの背中を見つめる。
呼吸の音。
遠くの都市の低い振動のように、ふたりを包む。
みのるは、背中越しにリュウを見つめた。
闇に溶けそうな声で、囁く。
「……寝た?」
返事はない。
ただ、規則的な寝息。
(やっぱり最近、冷たい……)
その思いが、胸の奥でじくじくとこびる。
みのるは、ゆっくりと手を伸ばす。
ベッド横のスマホへ。
画面が暗く光を吸い込みながら眠っている。
みのるは指先でパスコードを押す。
六桁。
(たぶん、これだろ……違う)
(は? これも違う……)
指が震える。
怒りなのか、不安なのか、自分でもわからない。
その瞬間——
画面がふっと明るくなる。
無防備な光が闇を切り裂く。
《今お仕事終わりました。楽しみにしてます》
一行だけのメッセージ。
「……は? 嘘だろ……ムギ? 誰?」
声が掠れた。
みのるは呼吸を忘れる。
背中に汗が伝った。
(誰だよ……男か? 女か?
いや違う。何者でもいい。
俺じゃない誰か……)
枕に沈むリュウの寝顔を見下ろす。
静かに眠るその顔が、残酷に見える。
みのるの唇が、乾いた音で噛み締められた。
胸の奥から、
言葉にならないものが漏れる。
――ふざけんな。
悠斗は、僕のだ。
絶対に、渡さない。
その呟きは声にならず、
ただ闇に滲み、消えていく。
画面が再び暗くなる。
スマホは、まるで心臓のように
小さく脈打っていた。
みのるはスマホを元の位置に戻す。
その動きは丁寧すぎて、逆に不自然だった。
深夜二時。
唯一動いているのは、
みのるの瞳だけだったーーー
次へ続くーー
ブルーネイビーの光が揺れる。
グラスが触れ合い、音楽と笑い声が夜を撫でていた。
リュウはカウンターの内側で、シェイカーを静かに振る。
氷の音が、心臓の鼓動よりも冷たく響く。
みのるが隣に立ち、声を落とす。
「ねぇ、昨日なんで遅かったの? 寂しかった。」
「ひとりでいれるだろ。」
「冷たい……恋人なのに。」
返事はなく、リュウの瞳はグラスの中の世界を見つめていた。
その時、ポケットの中でスマホが震える。
「? スマホ鳴ってたよ?」
「いいから。」ため息が溢れる
(なんなんだよ……)
淡々とカクテルを注ぎ、琥珀色が光を飲み込む。
「はい、これ、二十番さん持っていって。」
「はーい。」
みのるが客席へ向かう。
リュウは短く息を吐き、スマホを取り出す。
《今度プライベートで、会えたら嬉しいです。》
差出人:ムギ
画面を見つめたまま、口元がわずかに緩む。
その笑みを、みのるは見ていた。
(……何、今の顔。誰のメッセージ?)
心の奥がざわつく。
喉の奥に、錆びた味が滲む。
――その頃。
CLUB ― A。
シャンデリアの光が澄んで落ちるホール
いちごが客と笑いながらグラスを傾けていた。
その笑顔はわざとらしくなく、自然で、
誰かの心を軽く持っていく。
レオはフロアの少し離れた席に立ち、
その姿を静かに眺める。
瞳の奥が、微かに熱を帯びる。
(……綺麗だ。
光に映えるやつって、いるんだよな)
支配人が近づき、同じ視線の先を見る。
「いちごさん、本当に綺麗でイケメンですよね。この店で一番ですね」
レオは短く笑う。
「容姿だけじゃない。
立ち方、目線、客との距離感。
全部がうまい。努力の仕方を知ってる」
支配人は小さく感嘆した。そのあと、
話題を移す。
「そういえば、みのるさんとは別れたって噂、本当ですか?」
「本当だよ。」
言葉は短く、冷静。
「人ってさ、
慣れを“安心”だと思い込む。
何もしなくても愛されるって勘違いした瞬間、魅力は死ぬんだ。」
支配人は息を飲む。
レオは視線をいちごに戻し、
静かに言い切った。
「自分の価値は、自分で磨くんだよ。」
支配人は言葉を失った。
その横顔には、静かな誇りと、
少しの寂しさが滲んでいた。
深夜二時ー
リュウの高級マンションの寝室は、静まり返っていた。
黒い夜の気配が、カーテンの隙間からゆっくりと落ちてくる。
広いベッド。
リュウは疲れが抜けたように眠り、
寝息が静かに流れていた。
横顔は少し緩んでいて、
眠りの深さがそのまま伝わってくる。
その隣で、みのるは眠れずに目を開けていた。
まばたきすら忘れたまま、
枕越しにリュウの背中を見つめる。
呼吸の音。
遠くの都市の低い振動のように、ふたりを包む。
みのるは、背中越しにリュウを見つめた。
闇に溶けそうな声で、囁く。
「……寝た?」
返事はない。
ただ、規則的な寝息。
(やっぱり最近、冷たい……)
その思いが、胸の奥でじくじくとこびる。
みのるは、ゆっくりと手を伸ばす。
ベッド横のスマホへ。
画面が暗く光を吸い込みながら眠っている。
みのるは指先でパスコードを押す。
六桁。
(たぶん、これだろ……違う)
(は? これも違う……)
指が震える。
怒りなのか、不安なのか、自分でもわからない。
その瞬間——
画面がふっと明るくなる。
無防備な光が闇を切り裂く。
《今お仕事終わりました。楽しみにしてます》
一行だけのメッセージ。
「……は? 嘘だろ……ムギ? 誰?」
声が掠れた。
みのるは呼吸を忘れる。
背中に汗が伝った。
(誰だよ……男か? 女か?
いや違う。何者でもいい。
俺じゃない誰か……)
枕に沈むリュウの寝顔を見下ろす。
静かに眠るその顔が、残酷に見える。
みのるの唇が、乾いた音で噛み締められた。
胸の奥から、
言葉にならないものが漏れる。
――ふざけんな。
悠斗は、僕のだ。
絶対に、渡さない。
その呟きは声にならず、
ただ闇に滲み、消えていく。
画面が再び暗くなる。
スマホは、まるで心臓のように
小さく脈打っていた。
みのるはスマホを元の位置に戻す。
その動きは丁寧すぎて、逆に不自然だった。
深夜二時。
唯一動いているのは、
みのるの瞳だけだったーーー
次へ続くーー
0
あなたにおすすめの小説
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる