2月14日

片山春樹

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まさに、ナニコレ?

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まさに、ナニコレ?

そんな優子の、のろけた独り言に・・この娘って何しに来たのかなと思いながら、私もこたつに入り黙ったまま視線を背けていると、優子はおそるおそるな雰囲気で声色を曇らせながら。
「ねぇ恭子」と聞く。私は横目で、この雰囲気の変化に気付いたけど、気付いていない振りのまま。
「なぁに?」と素っ気なく聞き返すと。
「最近の私って肥えたと思わない?」
「へっ?」
いつもの事だけど、この娘の会話の、この流れって、どんな脈絡なのだろ・・。ケンさんをどうすれば困らせられるか・・ケンさんって本当に至れり尽くせりで優しくて・・だから、最近、私肥えた・・という脈絡? だとしたら、どう返せばいいの? それに。そんなこと、本人がヘルスメーターに乗る以外に解るわけないでしょ、と思いながら、
「そぉ? ふぅん・・肥えたの?」とヒトゴト返事して、優子の顔をまじまじと見ると、確かに少しふっくらしたような。でも、それは健康的なふくよかさと言うか、何一つお化粧らしいことなんてしてなさそうなスッピンなのに、ほんのりとピンクかがった幸せ色の頬。その頬の輪郭をぼかす輝きを放つ つややか な肌。それは、うんざりするには十分すぎる美しさで・・色っぽいねぇ・・と正直に思うと、はぁぁぁ、と、ため息に遮られて言葉が出なくなって。
「やっぱり、私・・肥えてる?」
と、すごく真剣な優子に、ただの幸せ太りでしょ、優しい優しい彼氏ができたから。そんなうんざりすぎる気がするから。かける言葉も思いつかなくて。でも。黙ったままでいると。
「なんだか、最近、ブラがまたきつくなった気がして」とおっぱいを両手で持ち上げる優子に。
そっちの方かヨ、しかも、また・・だなんて。とチラ見すると、持ち上げたおっぱいをこたつの上に乗せたの? それ、しかも、本当にすんごいボリューム。だから、うんざりしながら、思いつくまま。
「あんたねぇ、それ以上おっぱい大きくなったら、もうバケモノだからね」
と本音のイヤミを言い返したけど、優子って、ひと月ぶりに会ったせいかしら、妙なオーラを感じるなぁと思う、それは、色気とかフェロモンとか、そういうものかな。オトコができたオンナに特有の。とも思えるし。でもそれって、不完全燃焼させるとお肉に変わる。そんなウソを思いついてぴんと来たままを喋ってみた。
「ねぇ、優子、あんたたちって、ちゃんとヤッテルの?」すると優子は。
「ヤッテルって・・なにを?」と、本当に解っていないとぼけた顔。
「だから、あーゆうこととか、こーゆうこととか。ケンさんとヤッテルの?」
と意味深な言葉を選ぶと、優子は勝手にナニかを想像をし始めて、うつむいて、ほんのり頬を赤らめて。。
「・・・う・・・うん」
そう返事した。けど、なんとなく、ちゃんとヤッテいないのだろうなと思えるそのうつむき方に。
「ちゃんとヤッテなさそうね」
と小さな声で確かめたら、ビクッとして石のように固まる優子。その横顔をじっと見つめると、この娘は、まだなんだなと思う。ケンさんもそれなりにオクテだし、そう思えばケンさんも経験なさそう。優子も自分から脱げるオンナじゃないし。ケンさんも無理やり女を脱がす男じゃなさそうだし。そんなことアレコレ考えているとポットがピーと言い出すから。
「はいはい」と返事して、こたつから出る。インスタントだけど、カップにお湯を注ぐと珈琲の良い匂い。大きく吸い込んで、一瞬ほっとしてから。
「砂糖とミルクは入れるんだっけ?」
とうつむいている優子に聞くと。優子はすかさず顔をあげて。
「三つずつ」なんて指を3本も立てるからブラがきつくなるんだよ。アゼンとそう思いながら砂糖とミルクを放り込み。
「はいはい」と、かき混ぜ、コタツに戻って話の続き。
「あのね優子、好きなオトコができるとサ、体の中からフェロモンとか、アミノ酸とかビタミンとか、女性ホルモンとかさ、なんかこう難しいものが分泌されて滲み出てくるじゃない」
と思いつけるボキャブラリーを総動員しながら。たまにはからかってもいいでしょ。という気持ちで話始めた私。
「つまり、オトコを受け入れる準備みたいな・・オンナが開花しますよみたいな・・命を紡がなきゃって、そんな使命みたいな感じになるでしょ」
そう続けると。
「う・・うん」と不安な顔で私を見つめる優子。に調子に乗って。
「それをこう、発散させないで、内側に溜め込むと、ぶくぶくぶくぶくって」大げさに言うと。
「肥えるの、やっぱり」と眼を剥く優子が妙におかしいから。
「うん、自分でもわかるでしょ、コレだけはすごいのよぉ~」と白々しい作り話を真剣に。すると。
「どうしよ・・・どうすればいい?」と優子の泣きそうな顔がもっと面白いから。笑いたい気持ちを堪えて。
「だから、そんなふうに溜まったものは、普通だったら、カレシとかにちゅぅぅぅっと吸い取ってもらったり、もみもみと搾り出してもらうの。あんたにはケンさんかいるんだから、ケンさんに そーゆう ことしてもらえば。ちゅぅーちゅぅーもみもみ、ちゅぅちゅぅもみもみ」
手を揉み揉みさせて、口をちゅーちゃーとがらせて、そうふざけると。
「ちゅうちゅうもみもみ・・」
と、唖然とする優子がもっとおかしくて、からかいに拍車がかかって。
「ちゅううううってさ、体中吸ってもらうの、そういうものが溜まりに溜まったおっぱいとか重点的に、ちゅぅぅぅって。それと、一緒にお風呂に入って、マットの上でお尻のお肉もマッサージで搾り出してもらうとか、あとは、女性ホルモンを中和する男性ホルモンを注射してもらうとかさ」
なんて調子に乗ったまま言い放つと。私はからかっているだけなのに。
「お風呂、マッサージ、マットの上で? 注射? ホルモン? ってどんなの? 注射って痛いの? 高倉さんにしてもらうの?」
身を乗り出す優子の顔が無茶苦茶真剣すぎて、今更冗談だなんて言えないような、引けなくなったというか。
「もっと、詳しく、解りやすく教えてよ」
と、身を乗り出して迫りくる大真面目な顔が、私を追い詰めて。だから。
「そ・・そ・・そりゃ・・そんなこと・・オトコとエッチすればどんな注射か解るわよ」
と言いながら、そんなことを言い放って、清い乙女心をズタズタにしてる私自身に、しくしくと泣いてしまいそうな自己嫌悪。だけど、優子は。
「でも・・・一緒にお風呂だなんて・・やっぱり。エッチだなんて、私・・」
そうつぶやきながら、にやぁ~っと。さっきまでの暗い不安顔が一気に輝く希望に満ち満ちた笑顔になって。
「裸で一緒に・・ちゅうちゅうもみもみ・・どんな注射? って・・アレのコト?」
にやにやしと空想してる映像があふれ出しているのが私にも見える。裸で湯船に浸かって二人でイチャイチャ・・・注射ってアレのコト・・・アレね・・アレ。一応知識はあるんだね。というか、おまえはどれだけリアルに想像しているんだよ、と思えるほど腰をくねくねする優子にウンザリして。頭をぶんぶんと振って、映像を払いのけたけど。急に真面目な顔に戻った優子の。
「でもそれって、恭子には必要ないことだから好き勝手言っているんでしょ」
というセリフにぶちっと何かが切れる音がしたような気がした。だから・・語気が・・。
「必要ないって・・ないもくそもないよ、好きあってるんだし、年頃なんだし、発散しないから、そう、おっぱいとか、お尻とか、オンナっぽいところに色気が集中してお肉にかわるのよ、こんなふうに」
と荒くなって、こたつから身を乗り出して後ろから優子にしがみつき、その胸を鷲掴むと、それは、本当にガス抜きしないと爆発しそうなほどパンパンに張っていて。
「あん」ともだえる優子にびくっと反応してしまうのは私の方。それに、鷲掴みなんてとてもできないほどのボリュームとハリ。と言うかまるでおっぱいが筋肉でできているような・・おっぱいってこんなに硬かった? まさに、ナニコレ? と唖然としてしまう大きさ・・・と弾力・・?
「なんでこんなにパンパンなの? すっげぇ・・何が入ってるのコレ?」
この四分の一でもいいから私に分けてほしい、とつぶやいてしまいそう。これは本当の本音、ムチャクチャうらやましいから、もみもみと、しばらくその弾み過ぎる弾力を確かめずにはいられない。すると。
「やんもぉ、くすぐったい」と優子はものすごい力で私を振りほどくけど、手をもみもみしながらまじまじと思うことは、どうすればこんな風に、だから。
「ねぇ優子、あんたっていつもナニ食べてるの?」
そう真剣に聞いたら。優子はもっと真剣に。
「ナニ食べてるっていわれても、いつもお母さんが作る質素なご飯を食べてるけど」
「質素なご飯・・って?」とつぶやくと。優子は指を折りながら。
「いつも同じメニューの沢庵とかメザシとか豆腐とワカメのお味噌汁とか・・・あ、そうだ。ニンニクと生姜は少しでいいから毎日食べなさいってお母さんが。味噌ニンニクとか生姜味噌とか、ご飯にちょこんとつけて食べると美味しいのよ。恭子も子供の頃一緒に食べたことあるでしょ、あたしんちで」っていわれても、そんな覚えはあるけど、何食べたかなんて覚えてないし。でも、それより、ニンニクと生姜・・メザシか・・沢庵が触媒なのかもしれない。豆腐とワカメの組み合わせかもしれないし。って、どうして私、こんなに真剣に聞き入っているのよ。と思うのだけど。この大きなおっぱいという現実を直視すれば。大真面目にならざるを得ないというか。味噌か・・味噌ニンニク。生姜味噌。毎日食べなさい。ごはんにちょこんと・・それかな? 本当に真剣に考えてしまう。後でスーパーに行って、私も同じものを心がけてみよう、味噌ニンニク、生姜味噌。今更だけど。
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