新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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秋葉原バックストリート

秋葉原バックストリート(8)

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「ツイオクノカケラ——?」
「——の場所?」

 モジャコは自分の頭の上へ聞き返す。ハルが言葉を引き取る。

 さよう——とジシェ。「オーラ殿が残した希望の断片でござる」

「オーラ殿?」
「オーラ・ヴァエッスラ殿。半世紀前、この都市の直下に存在する〝ロートの追憶〟を、ルジェから守った方でござる。しかし、オーラ殿はそのとき……いや、いまは考えまい……」
「?」

 ハルとモジャコは首を傾げる。
 ジシェはかぶりを振って続ける。

「テヴェの民とルジェの民——この2つの民に共通して古くから伝わるのが〈ロートの追憶〉。
 ただし、テヴェは〈ロートの追憶〉を守る民、ルジェはそれを探し求める民。
 半世紀前、ひそかに〈ロートの追憶〉のを突き止めたルジェの民の者たちは、それを強奪しようとしたのだ。
 使ったのは地下空間に展開した〝円環ロンド〟、地下空間は、やはり秘密裏に構築したもの。
 異変を察知したオーラ殿は急ぎ、この星にやってきた。
 そして円環ロンドの形成を失敗させ、〈ロートの追憶〉を守ったのだ。
 しかし、それは不完全だったようで、円環ロンドはいまだ健在、コアは機能を停止しているだけ。
 〈追憶のカケラ〉は、オーラ殿が残した希望の断片であり、コアの再起動を阻止するための鍵なのだ」

 一般に、プログラムの仕様書は、大なり小なり内容や構成が似通っている。
 ある程度フォーマットも決まっているし、客観的でわかりやすい記述が求められるからだ。

 けれども、ハルがじじいから受け取ったアプリの仕様書は独特のものだった。

(あの仕様書は、そのオーラさんからじじいに託されたもの……?)

 「この星には、ルジェの民のクレン兄妹がすでにやってきているはず。察知される前に〈追憶のカケラ〉を集めねば……むむっ!」

「——もう手遅れのようね」

 誰かがジシェの言葉を遮った。

 振り返れば、そこには見知らぬ少女がふたり立っていた。
 ひとりが一歩前に出る。

 身にまとうは古風な制服……っぽいもの。
 強烈なローズレッドを基調に、えりそでにはふんだんな装飾が施され、ケープの合わせ目には、ルビー色の大きなリボンとキラキラのブローチ……。
 あかい髪はゴージャスに縦巻きロール……。

 少女は、右手を軽く腰に添え、胸を反らした。

「コルヴェナ・クレンが参りましてよ! ふふっ、驚かれましたかしら!?」

 どうやら彼女が、ジシェのいった〝クレン兄妹〟の妹のほうらしい。

「……」
「……」

 決まった——と、少女はハルとモジャコの表情に満足した。
 縦巻きロールの髪を、左手で、ふぁさぁっ、と揺らす。

 華麗な変装と、意表を突いた流麗な登場——その容姿ときょは、女王のごとく。
 あふれるのは、絶対の自信と己への賛美——相手は言葉を失い、ただただ目を奪われるか、惜しみない賛辞を贈るしかない。

 ——というのは当人の想定で、ハルとモジャコは思った……。

 変なのが来ちゃった。

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