新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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銀座ステレーション

銀座ステレーション(3)

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 ジシェは説明を続ける。

「しかし、物体には大きさや形があるゆえ単純ではない。
 変換後の2つの座標には、変換前の相関関係が維持されず、しかも、転移対象の質量と2地点間の距離に、等比級数的に不安定化し、かつ緩慢になるのでござる」

「要するに、すごくリスキーだってことねっ♥」

「さようでござる。
 特に、ミコ殿が設定したような暫定的な像への転移は、まこと不安定。
 かの秋葉原の地は、ヴォーユ・ア・ヴォエレ座標系上、抜群に安定しているところではあるが、この星までの距離は6100万光年。
 かくて、時空の乱れなどものともしない、星々を渡るけんぞくムナたるせっしゃがまず参ったのでござる」

 ばばーん、とモジャコの頭の上で立ち上がって、ジシェは胸を張った。

 6100万光年。
 想像もつかない距離だが、地球から観測可能なもっとも遠い天体は、134億光年とか先にあるらしいので、それよりはずっと近い。

 あれ?——とモジャコは首を傾げた。

って?」
「ぬぬ!? そうであった、急がねば! まずはせっしゃがこの星に転移し、それからパルノー殿を迎える算段だったのでござる!」
「誰それ?」
「パルノー・ヴァエッスラ殿——せっしゃの古くからの友人でござる」
「ヴァエッスラって、オーラ・ヴァエッスラさんの〝ヴァエッスラ〟だよね?」
「さよう、パルノー殿の祖母がオーラ殿でござる。しかし……うーむ、やはり時空の背反でござるか……」

 ジシェはひとり考え込む。
 ハルとモジャコは顔を見合わせるしかない。

(登録抹消済み……)

 ハルはスマホの画面に見た文字を思い出す。

(リグナちゃんは、そのオーラ・ヴァエッスラさんに助けられ、わたしたちの味方になってくれている……。オーラさんは、リグナちゃんにどんな想いを預けたんだろ……)

 ——と、リグナが急に口を開いた。

「このあたりだった」
「あ、そうかも」

 ハルはスマホの画面を確認した。


 歩いてきた浅草通りと、南北の別の広い通りが交わる場所だ。
 見上げれば、北西の角、5階建てのビルの上には、口髭をたくわえたコックの巨大な顔。

 顔も含めると、ビルは8階建て相当もあったりする。
 食器や調理器具の問屋が集まるかっぱ橋道具街、その入口のシンボルである……。


「ここから向こう、こととい通りまでじゃなかったっけ?」

 交差点からずっと向こうまで、道の両側には、お店がずらりと並んでいる。
 巨大コックの正式名称はそのまんま〝ジャンボコック〟。

 変わりかけた信号を渡って、ハルは、もう一度ジャンボコックを見上げた。

 コックであるからには、白いコック帽をかぶっているわけだが——。
 その上に、コルヴェナとデッサが立っていた。
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