17 / 116
銀座ステレーション
銀座ステレーション(3)
しおりを挟むジシェは説明を続ける。
「しかし、物体には大きさや形があるゆえ単純ではない。
変換後の2つの座標には、変換前の相関関係が維持されず、しかも、転移対象の質量と2地点間の距離に、等比級数的に不安定化し、かつ緩慢になるのでござる」
「要するに、すごくリスキーだってことねっ♥」
「さようでござる。
特に、ミコ殿が設定したような暫定的な像への転移は、まこと不安定。
かの秋葉原の地は、ヴォーユ・ア・ヴォエレ座標系上、抜群に安定しているところではあるが、この星までの距離は6100万光年。
かくて、時空の乱れなどものともしない、星々を渡る眷族ムナたる拙者がまず参ったのでござる」
ばばーん、とモジャコの頭の上で立ち上がって、ジシェは胸を張った。
6100万光年。
想像もつかない距離だが、地球から観測可能なもっとも遠い天体は、134億光年とか先にあるらしいので、それよりはずっと近い。
あれ?——とモジャコは首を傾げた。
「まずって?」
「ぬぬ!? そうであった、急がねば! まずは拙者がこの星に転移し、それからパルノー殿を迎える算段だったのでござる!」
「誰それ?」
「パルノー・ヴァエッスラ殿——拙者の古くからの友人でござる」
「ヴァエッスラって、オーラ・ヴァエッスラさんの〝ヴァエッスラ〟だよね?」
「さよう、パルノー殿の祖母がオーラ殿でござる。しかし……うーむ、やはり時空の背反でござるか……」
ジシェはひとり考え込む。
ハルとモジャコは顔を見合わせるしかない。
(登録抹消済み……)
ハルはスマホの画面に見た文字を思い出す。
(リグナちゃんは、そのオーラ・ヴァエッスラさんに助けられ、わたしたちの味方になってくれている……。オーラさんは、リグナちゃんにどんな想いを預けたんだろ……)
——と、リグナが急に口を開いた。
「このあたりだった」
「あ、そうかも」
ハルはスマホの画面を確認した。
歩いてきた浅草通りと、南北の別の広い通りが交わる場所だ。
見上げれば、北西の角、5階建てのビルの上には、口髭をたくわえたコックの巨大な顔。
顔も含めると、ビルは8階建て相当もあったりする。
食器や調理器具の問屋が集まるかっぱ橋道具街、その入口のシンボルである……。
「ここから向こう、言問通りまでじゃなかったっけ?」
交差点からずっと向こうまで、道の両側には、お店がずらりと並んでいる。
巨大コックの正式名称はそのまんま〝ジャンボコック〟。
変わりかけた信号を渡って、ハルは、もう一度ジャンボコックを見上げた。
コックであるからには、白いコック帽をかぶっているわけだが——。
その上に、コルヴェナとデッサが立っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
138
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる