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新宿アイル
新宿アイル(15)
しおりを挟む「気配が無くなった」
ミチルは警戒する。
その空間にボーデの姿はまったくなく、ただ薄暗い真夜中のホームが横たわっていた。
「ギルレンデがいれば充分だということだろう」
デッサがはじめて口を開いた。
階段を駆け登って、光沢のある白い壁と黒い床の空間を進む。
柱の色が途中から鮮やかな青色に変わる。
深く潜っていく長いエスカレーターの手前でデッサは立ち止まった。
降りたところが大江戸線のホームだ。
デッサは左耳の通信機に意識を集中させた。
「ロカから通信だ。円環の形成がはじまった。猶予は3分だ」
ミチルは頷いて、それから動かないデッサを振り返った。
「どうしたの?」
「一度は裏切った自分を、コルヴェナはなぜ使いつづけるのだ?」
デッサは吐き捨てた。
「わたしには理解できない」
身を固めるのは硬質の素材で出来たカーキ色の装甲。
両手両足は無骨な黒いブーツとグローブ、背中にはロケットランチャー、肩口には複数の銃口。
ブロンドのショートヘアーは濃いオリーブ色の装身具で押さえられ、アクアマリンのように透明な双眸はただ無機質。
——そんな彼女が困惑の言葉を零したので、ミチルは口許に笑みを浮かべた。
「信頼してるから——じゃないのかな?」
「……」
「一時的に乗っ取られたのは不可抗力だし、6100万光年も離れたこの星で、コルヴェナさんはデッサさんを頼りにしてるんだよ。なにもいわないのは、いわなくてもわかるって、信じてるからじゃないのかな?」
「……」
止まっているエスカレータを駆け降りる。
都庁前駅の方向を見れば、トンネルの向こうに、赤紫色の光を背負って誰かが待ちかまえていた。
「左がノラン、右がユツァだ」
デッサが指し示した。
戦闘特化型ヒト型機械兵——ギルレンデ。
両方とも見るからに重装備で、堅い装甲をまとって大量の火器を担ぎ、両手にもすでに武器を装着していた。
ノランは、ジェードのような鈍い木賊色の瞳で「ひひ」と嫌らしく笑って、髪をかき上げた。
「旧式ガルバルデとルドゥフレーデの失敗作がわざわざ壊されるために来たのか? くく、喜べ、容赦なくいたぶってやるぞ」
一方、ユツァのほうは足下に視線を落としたまま、ぶつぶつと独り言をいっていた。
木賊色の瞳と髪はノランと同じだ。
「なぜ俺様がこんな辺境でつまらない任務に当たらなければならないのだ……? 我が主は正しい判断を下しているのか……? 疑問だ……まるで理解できない……」
ノランはただただサディスティック、ユツァは任務が不満でやる気がない。
ほかにもっと適当な個体は無かったのだろうか……?
もっとも、どのみち狭隘な地下空間においてギルレンデの重装備は意味がなく、それどころか機動力を殺ぐだけ。
文字どおりの重荷でしかない。
ボルンギンの無能さと人望の無さが手に取るようによくわかる。
だが——と、デッサ。
「それでも我々が勝つ確率はゼロだ」
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