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彷徨う二つの心③
無垢な令嬢は月の輝く夜に甘く乱される~駆け落ちから始まった結婚の結末は私にもわかりませんでした。
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その声にサヨンは大きく目を見開き、石と化したかのようにその場に縫い止められた。
「―トンジュ」
そのひとの名が溜息のように洩れ、二月の凍てついた大気に儚く溶けて散る。
「光栄だな。一刻たりとも共にいたくない、逃げ出したいと願う男の名前を憶えていて頂くとは」
瞳の底に揺らめく昏い焔。
低く地を這うような、凄みのある声。
肩頬をかすかに歪める皮肉げな表情。
そのどれもがサヨンにとっては怖ろしくてたまらない。
「いやっ、来ないで」
サヨンは烈しく首を振った。身体が瘧にかかったようにおののいている。
「お願い、後生だから、このまま見逃して」
サヨンは涙ながらに言った。
「俺がみすみすお前を逃すと思っているのか?」
トンジュがゆっくりと間合いを詰めてくる。サヨンは恐怖に震えながら後ずさった。
「お願い、このまま行かせて。私は生きてこの森から出られないかもしれない。私が死ねば、あなたがここにいるのを洩らすことはあり得ないわ」
「いや、お前は必ず生きてこの森を出るだろう。何百年もの間、この森はよそ者がけして脚を踏み入れてはならない禁忌とされていた。俺たち村の者しか抜け道を知らない特別な場所だったんだ。その森の忌むべき秘密をお前は一瞬で見破ったのだ。ならば、森を抜け出ることくらいは造作もないはずだ」
トンジュが確信に満ちた口ぶりで言った。
「あんたはたいした女だよ、お嬢さま。あんたを世間知らずの甘ちゃんだと思い込んでいたのは、俺の大きな誤算だった。女にしとくのは惜しいほどだな」
「さあ、追いかけっこはここまでだ。観念して戻るんだ」
トンジュの声が間近に聞こえ、サヨンは絶望に眼の前が真っ白になった。
部屋の中には、千尋の海の底を思わせる静けさが満ちている。そのひそやかなしじまの底をあえかな声が艶めかしく這う。
部屋にしかれた薄い夜具の上では、ひと組の男女が全裸で烈しく絡み合っていた。
夜具の上に横たわったトンジュの上に大きく脚を開いて跨り、サヨンはひっきりなしに声を上げていた。トンジュは下から腰を動かし、サヨンを思い切り突き上げる。サヨンはトンジュの胸に手をついて、その度に背を仰け反らせた。
「う、あ、あぁ」
最初の方こそ何とか意思の力で声を洩らすまいと持ち堪えていたサヨンだったが、女体を知り尽くしたトンジュの巧みな攻撃には陥落するしかなかった。
「ほら、サヨン。もっとその愛らしい啼き声を俺に聞かせてくれ」
トンジュの突き上げは更に烈しくなり、速度を増した。それに合わせるように、トンジュに跨ったサヨンの身体も上下に揺れる。
あまりに烈しい攻勢にサヨンの身体はたちまち極まった。サヨンが堪りかねてくずおれれば、トンジュは顔許に近づいた乳房の蕾をすかさず口に含み吸い上げる。絶え間ない快楽地獄に落とされ、責め苛まれ、サヨンは心身ともに崖っ淵にまで追いつめられていった。
森から連れて帰ったサヨンをトンジュはすぐに押し倒した。嫌がって逃れようとするサヨンは押さえつけられ、何かの薬らしきものを呑まされた。
それが媚薬だと気づいたのは、既に薬の効き目が現れ始めてからのことだ。トンジュは薬で朦朧としているサヨンを横たわらせ、自らの唇でゆっくりと愛撫を施していった。
乳房、胸の谷間、臍のくぼみ、耳の裏、はては秘められた狭間の奥まで、トンジュの唇と舌が入らない場所はなかった。一つ一つ入念に愛撫を与えることで、彼はサヨンの身体に火を点してゆくのだ。彼によって点された火はやがて大きな焔となって燃え上がり、サヨンを身体ごと心まで焼き尽くした。
「ああっ、あーっ」
やがて、その焔も燃え尽きる瞬間が来る。ひときわ焔が烈しく燃え上がった瞬間、サヨンは絶頂を迎えた。
サヨンの内奥は烈しく蠕動してトンジュのものを迎え入れ、自らの奥で弾け散るトンジュから放たれた精を貪欲に吸収する。
昨夜に続き何度も抱かれ、サヨンの身体は敏感になっていた。更に媚薬まで飲まされているため、身体中の感覚があり得ないほど鋭敏になっている。
トンジュはサヨンが達しても、けして許さなかった。今度はサヨンの身体をまるで魚を裏返すように反転させ、うつぶせにした。
「―トンジュ」
そのひとの名が溜息のように洩れ、二月の凍てついた大気に儚く溶けて散る。
「光栄だな。一刻たりとも共にいたくない、逃げ出したいと願う男の名前を憶えていて頂くとは」
瞳の底に揺らめく昏い焔。
低く地を這うような、凄みのある声。
肩頬をかすかに歪める皮肉げな表情。
そのどれもがサヨンにとっては怖ろしくてたまらない。
「いやっ、来ないで」
サヨンは烈しく首を振った。身体が瘧にかかったようにおののいている。
「お願い、後生だから、このまま見逃して」
サヨンは涙ながらに言った。
「俺がみすみすお前を逃すと思っているのか?」
トンジュがゆっくりと間合いを詰めてくる。サヨンは恐怖に震えながら後ずさった。
「お願い、このまま行かせて。私は生きてこの森から出られないかもしれない。私が死ねば、あなたがここにいるのを洩らすことはあり得ないわ」
「いや、お前は必ず生きてこの森を出るだろう。何百年もの間、この森はよそ者がけして脚を踏み入れてはならない禁忌とされていた。俺たち村の者しか抜け道を知らない特別な場所だったんだ。その森の忌むべき秘密をお前は一瞬で見破ったのだ。ならば、森を抜け出ることくらいは造作もないはずだ」
トンジュが確信に満ちた口ぶりで言った。
「あんたはたいした女だよ、お嬢さま。あんたを世間知らずの甘ちゃんだと思い込んでいたのは、俺の大きな誤算だった。女にしとくのは惜しいほどだな」
「さあ、追いかけっこはここまでだ。観念して戻るんだ」
トンジュの声が間近に聞こえ、サヨンは絶望に眼の前が真っ白になった。
部屋の中には、千尋の海の底を思わせる静けさが満ちている。そのひそやかなしじまの底をあえかな声が艶めかしく這う。
部屋にしかれた薄い夜具の上では、ひと組の男女が全裸で烈しく絡み合っていた。
夜具の上に横たわったトンジュの上に大きく脚を開いて跨り、サヨンはひっきりなしに声を上げていた。トンジュは下から腰を動かし、サヨンを思い切り突き上げる。サヨンはトンジュの胸に手をついて、その度に背を仰け反らせた。
「う、あ、あぁ」
最初の方こそ何とか意思の力で声を洩らすまいと持ち堪えていたサヨンだったが、女体を知り尽くしたトンジュの巧みな攻撃には陥落するしかなかった。
「ほら、サヨン。もっとその愛らしい啼き声を俺に聞かせてくれ」
トンジュの突き上げは更に烈しくなり、速度を増した。それに合わせるように、トンジュに跨ったサヨンの身体も上下に揺れる。
あまりに烈しい攻勢にサヨンの身体はたちまち極まった。サヨンが堪りかねてくずおれれば、トンジュは顔許に近づいた乳房の蕾をすかさず口に含み吸い上げる。絶え間ない快楽地獄に落とされ、責め苛まれ、サヨンは心身ともに崖っ淵にまで追いつめられていった。
森から連れて帰ったサヨンをトンジュはすぐに押し倒した。嫌がって逃れようとするサヨンは押さえつけられ、何かの薬らしきものを呑まされた。
それが媚薬だと気づいたのは、既に薬の効き目が現れ始めてからのことだ。トンジュは薬で朦朧としているサヨンを横たわらせ、自らの唇でゆっくりと愛撫を施していった。
乳房、胸の谷間、臍のくぼみ、耳の裏、はては秘められた狭間の奥まで、トンジュの唇と舌が入らない場所はなかった。一つ一つ入念に愛撫を与えることで、彼はサヨンの身体に火を点してゆくのだ。彼によって点された火はやがて大きな焔となって燃え上がり、サヨンを身体ごと心まで焼き尽くした。
「ああっ、あーっ」
やがて、その焔も燃え尽きる瞬間が来る。ひときわ焔が烈しく燃え上がった瞬間、サヨンは絶頂を迎えた。
サヨンの内奥は烈しく蠕動してトンジュのものを迎え入れ、自らの奥で弾け散るトンジュから放たれた精を貪欲に吸収する。
昨夜に続き何度も抱かれ、サヨンの身体は敏感になっていた。更に媚薬まで飲まされているため、身体中の感覚があり得ないほど鋭敏になっている。
トンジュはサヨンが達しても、けして許さなかった。今度はサヨンの身体をまるで魚を裏返すように反転させ、うつぶせにした。
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