自分では満足出来ない旦那様へ

りこりー

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第一章

離婚

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 すべての書類を揃えて、後はベンジャミンと話し合うだけ。しかし、彼に対する恋心がこれでいいのかとストップをかけてくる。決心したはずなのに、手が震える。涙が込み上げてくる。

 貴族なんてクソくらえだ。貴族じゃなかったら、後継ぎの事なんて関係ないのに…。けれど、自分は貴族だ。先祖代々続いた商会も家門も守って行かなけれならない。

 コンコンと執務室をノックされて、急いで他の書類の中に離婚書類を隠す。

「キャシー?こないだの麦の件なんだけど…え?泣いてたの?」

「…ダニー…」

「またあの男?また機能しなかったの?」

 泣いてる自分よりも悲しそうに頬を撫でる彼は、幼馴染のダニエル・ラモン。貴族ではないが、この国の大商人一家の一人息子だ。ずっと口説かれていたが、結婚と同時に諦めてくれたようだった。それにダニエルは銀髪が特徴的な中性的な顔立ちで、見目はとてもいい。相手は腐るほどいるはずだ。

「いえ…もう離婚するから…」

「えぇ!?本当?だったら僕が求婚してもいい?」

「ま、まだ離婚してないのに…」

 目を輝かせて嬉しそうに微笑むダニエルにまだ自分を諦めてなかったのかと驚いてしまう。そういえば、子爵令嬢に結婚を迫られていたはずだけど、いつの間にかその話は聞かなくなっていた。

「僕の事嫌い?」

「いや、嫌いとかそういうんじゃないけど…」

「じゃあ、いいんじゃない?」

「そういう問題じゃないわ!」

 ケラケラと笑い出したダニエルに揶揄われたのかと眉を顰めた。冗談ではないよと呟いたけれど、信じられない。それに後継ぎの問題もあるけれど、色んな女と経験がある男にはちょっと抵抗がある。

 ダニエルは商品を娼館に下ろしている事もあって、よく娼館に出入りしている。ベンジャミンとどうにか閨を共にしようと娼婦を紹介してくれたのもダニエルだし、きっとそこで操は捨てているはずだ。正直、いい気分ではない。だから、ダニエルはちょっと…という気持ちだった。

「で、いつ話するの?」

「まだ分からないけど…両親の許可は貰ったわ。書類も出来ているし…」

「じゃ、すぐにでも言いに行こう!」

「え?ちょ…まだ仕事がっ」

 腕を無理やり引っ張られて、多分ベンジャミンが居るであろう商会へと向かう。まだ気持ちがグラついているのに…。ウキウキとしたダニエルを他所に、自分はまだどこか迷っていた。
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