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第一章
4⃣
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家に帰ってから、準備を始めた。家族には知らせない。変な心配をかけるし、貴族に問い詰められたらきっと黙っているなんて出来ないと思う。
友人のクリスティーンが口を割るなんて事は絶対ない。平民でも友達なってくれる優しい心の持ち主だし、レイモンドのあの魔性の瞳に光が無くて気持ちが悪いと言った唯一の人だ。
逃げるにあたって大事なのは金銭面だ。仕事は潜伏先で探せばいいけれど、今あるお金はお小遣いを貯めたものが少しだけ。あまりにも心許無いから数日だけでも何かお金になる仕事をしよう。数日は宿に泊まりたいし、家を借りるにしてもお金がいるだろう。今持っている貴金属を売っても良いかもしれない。
本当なら今すぐに逃げたいけれど、こればっかりは致し方無い。一か月だけ我慢して、しっかり準備して逃走する。あんな男と結婚なんて絶対してやるか!と拳を握り締めて決意を固めた。
「お嬢様、レイモンド卿がいらっしゃってますが…」
「へ⁉今何時だと思っているの?」
「お休みになっていると伝えますか?」
「そうしてちょうだい」
メイドにそう伝えるとですよね…と苦笑いしてメイドは部屋を出て行った。うちは小金持ちくらいなので使用人の数も少ない。だから、あのメイドはきっと私がレイモンドを避けているのを知っているんだろう。避けられているのを分かってるのに何故来るんだよと聞こえてきそうな面倒だと顔に書いてあるが故の苦笑いだった。
あのメイドにレイモンドの瞳が気にならないのかと聞いたことがあるが、彼女の夫が現れて納得した。熊みたいな大男で、優しそうな細い目が特徴だった。こんな人が婚約者だったら良かったのにと正直羨ましかった。
婚約者が王子様みたいで羨ましい。美丈夫ね。美しい人ね。何度言われたか分からない言葉。
私は望んでいない。美しい婚約者なんていつもどこかで不義の心配しなければならず、自分の見目も気に配らないといけない。嫌がらせも受けるし、風よけにされるし、相手の良い様に使われるのはいい加減嫌だ。
それにあの見つめる癖だ。そのせいで男女問わずに好かれてくる。何度も注意したが、すまないの一言だけ。あまりにずっと見つめるものだから市井に置いてきたこともある。治す様に努力するから機嫌を直してくれとその時は言っていたけど、結局この様だ。申し訳ないけれど、それが一生続くのなんて私は耐えられない。
申し訳ない?彼に申し訳ないと思ってるのは何故?
もやもやする気持ちを不思議に思いながら眠ろうと寝台に潜ったけれど、もやもやする気持ちのせいでようやく眠れたのは朝方だった。
友人のクリスティーンが口を割るなんて事は絶対ない。平民でも友達なってくれる優しい心の持ち主だし、レイモンドのあの魔性の瞳に光が無くて気持ちが悪いと言った唯一の人だ。
逃げるにあたって大事なのは金銭面だ。仕事は潜伏先で探せばいいけれど、今あるお金はお小遣いを貯めたものが少しだけ。あまりにも心許無いから数日だけでも何かお金になる仕事をしよう。数日は宿に泊まりたいし、家を借りるにしてもお金がいるだろう。今持っている貴金属を売っても良いかもしれない。
本当なら今すぐに逃げたいけれど、こればっかりは致し方無い。一か月だけ我慢して、しっかり準備して逃走する。あんな男と結婚なんて絶対してやるか!と拳を握り締めて決意を固めた。
「お嬢様、レイモンド卿がいらっしゃってますが…」
「へ⁉今何時だと思っているの?」
「お休みになっていると伝えますか?」
「そうしてちょうだい」
メイドにそう伝えるとですよね…と苦笑いしてメイドは部屋を出て行った。うちは小金持ちくらいなので使用人の数も少ない。だから、あのメイドはきっと私がレイモンドを避けているのを知っているんだろう。避けられているのを分かってるのに何故来るんだよと聞こえてきそうな面倒だと顔に書いてあるが故の苦笑いだった。
あのメイドにレイモンドの瞳が気にならないのかと聞いたことがあるが、彼女の夫が現れて納得した。熊みたいな大男で、優しそうな細い目が特徴だった。こんな人が婚約者だったら良かったのにと正直羨ましかった。
婚約者が王子様みたいで羨ましい。美丈夫ね。美しい人ね。何度言われたか分からない言葉。
私は望んでいない。美しい婚約者なんていつもどこかで不義の心配しなければならず、自分の見目も気に配らないといけない。嫌がらせも受けるし、風よけにされるし、相手の良い様に使われるのはいい加減嫌だ。
それにあの見つめる癖だ。そのせいで男女問わずに好かれてくる。何度も注意したが、すまないの一言だけ。あまりにずっと見つめるものだから市井に置いてきたこともある。治す様に努力するから機嫌を直してくれとその時は言っていたけど、結局この様だ。申し訳ないけれど、それが一生続くのなんて私は耐えられない。
申し訳ない?彼に申し訳ないと思ってるのは何故?
もやもやする気持ちを不思議に思いながら眠ろうと寝台に潜ったけれど、もやもやする気持ちのせいでようやく眠れたのは朝方だった。
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