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間章
レイモンドside
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「クッソ、何処に行ったんだ…ジェニファー…」
一人自室の中で、婚約から三年以上経過したことを告げる神殿からの婚約破棄通知を破り捨てた。近くにあった酒瓶の蓋を開けて、そのまま口をつけて飲み込む。きついアルコールが喉を刺激して、目が覚める。まだ寝れない。彼女を見つけるまでは…。
※
学園の卒業まであと一か月といった所で、婚約者が忽然と消えた。消えたと知ったのは、彼女が消えて2日後のことだ。学園でもすれ違う程度だったし、会えない日も多かったから彼女の家から娘が居なくなったと連絡が来るまで何も知らなかった。
大好きで、大好きで、外堀からしっかり埋めて婚約を申し込んだ。平民であるという彼女が断れないを分かって夜会で申し込んだ。狡いと言われてもいいから彼女を俺の物にしたかった。
好きすぎて手も出せず、キスすら緊張して出来なかった。いっその事、既成事実でも作ってしまえば逃げなかっただろうか。何度も愛を囁いて、彼女も俺の事を意識してくれていたはずなのに…いつしか避けられるようになった。月一回のお茶会もすっぽかされて、手紙は返事が来なくなった。
けれど、それと同時に眠る時間が確保できないほど騎士団の仕事と学園の両立が難しいほど忙しくなった。それだけ期待されていると言えば聞こえはいいが、俺が巡回に出ると犯罪率が下がるというのが理由だ。人だかりが出来るからそれが原因だと思うが、そんなことは知らない。俺には関係ない。
婚約破棄になったらどうするんだと殿下に直接文句を言いに行ったが、まさかお前を振る女などいないと鼻で笑われて軽くあしらわれた。
お互いにすれ違い、きちんと話す時間も取れないまま、彼女から婚約破棄の打診があった。何度も何度も。
理由を聞きたくて、何度か会ったが…俺が人の目を見つめる癖が嫌だと言われた。そんなに見つめているかなと気にしてなかったが、友人にそんなに見つけるなよ、恋人に見られているみたいだと気持ち悪がられてようやく気が付いた。男でも女でもやっているぞと友人に言われて、そうだったんだと彼女の気持ちを傷つけていた事を知る。
それから気を付ける様にしていたけど、たまに勘違いした女が言い寄ってきたりして、またやってしまったのか?と自己嫌悪に陥る。
「どうしたら治るんだ、この癖…」
「さぁな。目を見るのは大事だと思うけど、お前のソレは勘違いさせるよなぁ…」
「そんなわけないだろ!愛してるのはジェニファーだけだ。それに俺はそんな癖があるとは思ってなかったんだ」
「そう見えないんだよ。目を見ないように話すようにするしかないんじゃないか?額とかさ」
それを実行した俺が馬鹿だった。話しかけられた令嬢の額を見て、目を合わせないようにしていたら注意力が落ちていて、気が付いたら気持ち悪い見ず知らずの令嬢の唇を押し当てられていた。
急いで引き離したが、大きな音が聞こえて俺は絶句した。
彼女がその場に居た。彼女に見られてしまった。倒れた彼女に手を伸ばしたが、彼女の友人に罵倒され、汚い手で触らないでと怒鳴られてしまった。
汚い…?
その瞬間、吐き気が込み上げてきて、何度も吐いた。唇が穢れてしまった。血が出るんじゃないかってほど洗ったけど、穢れてしまったという気持ちはずっとあった。あんな女の呼びかけに答えなければよかった。後悔してもあとの祭りだ。
なんとか吐き気が落ち着いた俺は医務室に彼女に会いに行った。
「今すぐ出て行って、レイモンド様」
そう冷たく言った彼女に俺は何を血迷ったのか、事故とかいう最低の言い訳をついてしまった。何が事故だというのか、騎士がそんなに注意力がなくてどうするんだ。
もう彼女に嫌われたかも知れない。そう思うと夜も眠れなくて、無礼を承知で屋敷を訪ねた。彼女の部屋の明かりは点いているのにもう寝てると面倒そうにメイドに答えられた。キィィと無機質な金属音を立てて俺を追い出した後に門が閉められた。
婚約しているのに彼女が遠い。婚約して近付いたと思ったら、その倍は距離が遠くなってしまった気がする。
どこから間違えたんだろう…。
一人自室の中で、婚約から三年以上経過したことを告げる神殿からの婚約破棄通知を破り捨てた。近くにあった酒瓶の蓋を開けて、そのまま口をつけて飲み込む。きついアルコールが喉を刺激して、目が覚める。まだ寝れない。彼女を見つけるまでは…。
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学園の卒業まであと一か月といった所で、婚約者が忽然と消えた。消えたと知ったのは、彼女が消えて2日後のことだ。学園でもすれ違う程度だったし、会えない日も多かったから彼女の家から娘が居なくなったと連絡が来るまで何も知らなかった。
大好きで、大好きで、外堀からしっかり埋めて婚約を申し込んだ。平民であるという彼女が断れないを分かって夜会で申し込んだ。狡いと言われてもいいから彼女を俺の物にしたかった。
好きすぎて手も出せず、キスすら緊張して出来なかった。いっその事、既成事実でも作ってしまえば逃げなかっただろうか。何度も愛を囁いて、彼女も俺の事を意識してくれていたはずなのに…いつしか避けられるようになった。月一回のお茶会もすっぽかされて、手紙は返事が来なくなった。
けれど、それと同時に眠る時間が確保できないほど騎士団の仕事と学園の両立が難しいほど忙しくなった。それだけ期待されていると言えば聞こえはいいが、俺が巡回に出ると犯罪率が下がるというのが理由だ。人だかりが出来るからそれが原因だと思うが、そんなことは知らない。俺には関係ない。
婚約破棄になったらどうするんだと殿下に直接文句を言いに行ったが、まさかお前を振る女などいないと鼻で笑われて軽くあしらわれた。
お互いにすれ違い、きちんと話す時間も取れないまま、彼女から婚約破棄の打診があった。何度も何度も。
理由を聞きたくて、何度か会ったが…俺が人の目を見つめる癖が嫌だと言われた。そんなに見つめているかなと気にしてなかったが、友人にそんなに見つけるなよ、恋人に見られているみたいだと気持ち悪がられてようやく気が付いた。男でも女でもやっているぞと友人に言われて、そうだったんだと彼女の気持ちを傷つけていた事を知る。
それから気を付ける様にしていたけど、たまに勘違いした女が言い寄ってきたりして、またやってしまったのか?と自己嫌悪に陥る。
「どうしたら治るんだ、この癖…」
「さぁな。目を見るのは大事だと思うけど、お前のソレは勘違いさせるよなぁ…」
「そんなわけないだろ!愛してるのはジェニファーだけだ。それに俺はそんな癖があるとは思ってなかったんだ」
「そう見えないんだよ。目を見ないように話すようにするしかないんじゃないか?額とかさ」
それを実行した俺が馬鹿だった。話しかけられた令嬢の額を見て、目を合わせないようにしていたら注意力が落ちていて、気が付いたら気持ち悪い見ず知らずの令嬢の唇を押し当てられていた。
急いで引き離したが、大きな音が聞こえて俺は絶句した。
彼女がその場に居た。彼女に見られてしまった。倒れた彼女に手を伸ばしたが、彼女の友人に罵倒され、汚い手で触らないでと怒鳴られてしまった。
汚い…?
その瞬間、吐き気が込み上げてきて、何度も吐いた。唇が穢れてしまった。血が出るんじゃないかってほど洗ったけど、穢れてしまったという気持ちはずっとあった。あんな女の呼びかけに答えなければよかった。後悔してもあとの祭りだ。
なんとか吐き気が落ち着いた俺は医務室に彼女に会いに行った。
「今すぐ出て行って、レイモンド様」
そう冷たく言った彼女に俺は何を血迷ったのか、事故とかいう最低の言い訳をついてしまった。何が事故だというのか、騎士がそんなに注意力がなくてどうするんだ。
もう彼女に嫌われたかも知れない。そう思うと夜も眠れなくて、無礼を承知で屋敷を訪ねた。彼女の部屋の明かりは点いているのにもう寝てると面倒そうにメイドに答えられた。キィィと無機質な金属音を立てて俺を追い出した後に門が閉められた。
婚約しているのに彼女が遠い。婚約して近付いたと思ったら、その倍は距離が遠くなってしまった気がする。
どこから間違えたんだろう…。
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